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「っ・・・」
「千聖?」

小さく息を呑んで、千聖は箸を取り落とした。そのまま、口元を押さえて席を立つ。

「千・・・」

追いかけようと立ち上がりかけた舞ちゃんを制して、みぃたんがその後ろ姿を追いかけた。いつものほわほわした雰囲気とは違って、とても慌てた顔をしていた。

「・・・どうしたんだろねー」

千聖のお箸を拾ってあげながら、愛理が首を捻る。

「体調、悪いのかな?結構元気そうに見えたんだけど」


今は、ハロプロ合同コンサートの中日。ちょうど、お昼休憩の真っ最中。

こういう時は、普段はあんまり会えない、他グループの仲良しさんとごはんを食べるのが恒例になってるんだけど、今日は何となく「℃-uteで食べよっか!」みたいな空気になって、楽屋で仲良く食事をしていたところだった。

今日の千聖は、お嬢様キャラだった。
私たち℃-uteにとってはおなじみのこのキャラも、ベリーズや娘。メンバーには相変わらず新鮮なようで、休憩のたびにあっちへこっちへ振り回されまくってるから、ちょっと疲労がたまってしまっていた可能性もある。


「・・・私も、ちょっと見てくるね」

一応、私はこれでもサブリーダー的な立場になるわけで。今日の今後のステージのためにも、千聖の状態を把握しておきたい。
そう思って立ち上がると、「あ、私も」「舞も」と2人が続いてくれた。


*****

「はぁ、はぁ・・・」

もう動悸はおさまったけれど、私は水道の蛇口を全開にしたまま、再び口を押さえて鏡を見つめた。
ただでさえあんまり好きではない自分の顔が、紅潮して余計に可愛らしくないものになっているような気がした。


“ちっさー。”

目を閉じると、舞美さんの優しい笑顔が浮かんでくる。

“これで、大丈夫だよ”
“恥ずかしくないから。いつでも舞美が・・・してあげるからね”


大きくて温かい手。私のよりもずっと器用に動く、長い指が、“それ”を摘み上げる。何度も何度も。その度に私は嬉しくなって、舞美さんも満足そうに笑って私の頭を撫でてくれた。・・・それなのに。


――これは、あの時の・・・?

無意識に、胸を両手で押さえる。このことは、私だけの秘密にしておかないと。きっと舞美さんは、責任を感じてしまうだろう。

それに、私には皆さんに上手く説明する自信もない。口にするのがとても恥ずかしいから。
だって・・・“あんなこと”を人にお願いするなんて。


“ちっさーは、可愛いね。ちゃんと・・・してあげるから、舞美に全部まかせて”

爽やかに笑う笑顔を思い浮かべていたら、またピリッと痛みが走った。

「うっ・・・」
私は再び身を乗り出して、洗面器に向かって咳き込んだ。


*****

「ケホッ・・・ケホッ」

一番奥の洗面台の前で、ちっさーはとても苦しそうにしていた。

「ちっさー!」
「あ・・・、まい、み、さ」

私はちっさーの背中をさすった。手のひらにトクントクンと早い鼓動が響いて、胸が締め付けられるような気がした。


「・・・ごめんね、ちっさー」
「え・・?」
「ごめん、だって、私が・・・」
「違うわ、舞美さん。舞美さんは何も。千聖があんなことを、舞美さんに・・・・」

激しく首を横に振るちっさーを抱き寄せて、髪に指を通した。私のせいで、苦しい思いをしたはずなのに、文句も言わないで気遣ってくれる。嬉しいけれど、同時に自分を情けなく思う。


「もう、大丈夫?」
「ええ。ごめんなさい。皆さんも、驚いてしまったかしら」
「・・・戻るの、少し休んでからにしよ?舞も、みんなもちっさーのこと心配していろいろ聞いてくると思うけど、言いにくかったら私から説明するよ」
「あっ・・・」

私は指先で、ちっさーの喉をそっと撫でた。すべすべした皮膚の下で、キュッと小さな音がした。


「舞美さ・・・」

「ごめんね、ちっさー。あの時、痛かったでしょ・・・」

*****

「舞美さ、ん・・・大丈夫、ですから」

千聖は首筋を這う舞美ちゃんの指をそっと捕まえると、体を離そうとした。でも、舞美ちゃんは後ろから千聖をしっかり抱いたまま、離れようとしない。


「・・・ごめん」

また、謝罪の言葉。一体何のことなのかわからないけど、お気軽に質問できる雰囲気でもない。トイレに入るタイミングを逃した今、物陰に隠れたまま、なっきぃ舞ちゃんとともに、2人の動向を見守ることしかできなかった。


「舞美さん、もうそのことは・・・。だって、あれは、千聖がお願いして」
「でも、結局私、ちっさーに辛い思いさせちゃった。きっとえりなら、もっと上手に・・・」
「違うわ。私は舞美さんがよかったの。だから」

落ち込んだ様子の舞美ちゃんのほっぺに、千聖が優しく触れた。2人はじっと見つめ合っている。

「きゃんっ・・・」

ふいに、舞美ちゃんの指が、千聖の唇に触れた。そのままゆっくり引きおろされていく。


「ここ?この辺は・・」
「っ、・・・・・あぅ・・」
「ちっさー・・・」

――え、なに、これ。なにやってんだ、一体。さっきから、舞美ちゃんが千聖の首筋や喉を何度も撫で付けて、まるで・・・

「・・・ね、なんの話、してるんだろ」

耳元のなっきぃのささやき声も、心なしか湿った色を含んでいるような気がした。・・・このエロ女帝が。



「ま、舞美、さん」


「ちっさー・・・あの、太いの、痛かったでしょ。奥まで刺さって」
「あ・・そんな」
「血、出ちゃったんじゃない?ちゃんと私、責任取るから。とにかく、今は少し安静にしたほうが・・・」



「ちょっと・・・」
「え、これって」

なっきぃと顔を見合わせたまま、何と言っていいのかわからず、私たちは頭を捻った。


――えーっと。つまり、まぁ、なんだ。私だって、恋愛経験といっていいものが皆無とはいえ、普通にちょっと刺激的な漫画だって読むわけで。
従いましてまったくそういう知識というものがないというわけではないこともないといいますか、
そもそも岡井さんにおかれましてはその、なんだ包み隠さす申しあげますと、案外性的な接触に関して奔放な面が見受けられるわけでございますし梅田さんや萩原嬢ひいては私自身等とも



「・・・・つまりこれは、舞美ちゃんが、千聖の初めてを奪って、妊娠させたということでしゅね」

「ヘッ!」

いきなりずっと黙っていた舞ちゃんが、真顔で、2人を見つめたままそんなことをつぶやいたもんだから、私は某ピンクのベストがトレードマークのお笑い芸人さんのような声を出してしまった。

「い、いや、あのね、舞ちゃん」
「とりあえず、戻ろう。立ち聞きはかっこ悪いし。いこ、2人とも」

舞ちゃんは爽やかに笑うと、やけに軽やかな足取りで、楽屋の方に向かって歩いていった。こ、怖いよう!



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