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「どうしたの。もう帰ったのかと思ってたよ。」
「私も自主練習をしようと思って。早貴さんがいらっしゃるまで、ロッカー室を使わせていただいてたの。」
お邪魔だったかしら?と言われたので、首を横に振る。
「ちょっと休憩しようと思って来ただけだから。千聖こそ、私のことは気にしないで歌続けてて。」
結局考え事に耽っていた私は、別に休憩を取るほど疲れてなんてなかったのだけれど。千聖に気を使わせたくなくてとりあえずそんなことを言ってみた。
手持ち無沙汰なので、ロッカーを開けてケータイを取り出す。
メールが着ているみたいで、ピンクのランプが点滅している。
「・・・栞菜だ」
急いで作った文章なのか、今日はふざけすぎてごめんねとか、なっきーが悪いみたいな言い方して私が子供だったとか、私への謝罪がところどころ二重の内容になりながらびっしりと書かれている。
だから私も、“なっきーも言い過ぎてごめんね。”とだけ返した。
完全解決とまではいかないけれど、とりあえず今日の分の仲直りはできそうだ。
少し気が楽になったので、端っこで歌を練習する千聖の方に意識を向けてみた。
今は都会っ子純情を歌っているみたいだ。可愛い声だな、と思った。
えりかちゃんいわく、お嬢様化が始まった当初の僕らの輝きは本当にひどかったらしい(いまだにその話を振るとえりかちゃんは死にそうになる)。
千聖特有の子供っぽい柔らかい声から、元気をポーンと抜いたような感じだったそうだ。・・・それはちょっと聞いてみたかった。
今歌っている声も、確かに以前に比べたら声量が落ちているようにも聞こえる。でもやけに甘く可憐な味があって、これはこれで結構いいんじゃないかなと思った。
しばらく目を閉じて聞いていると、何か違和感を覚えた。
「千聖さ、何基準で歌ってるの?千聖のパートだけ練習してるんじゃないよね。他の人の・・・」
私はそこまで言って、はっと気づいた。
千聖が練習しているのは、自分のパートと愛理のパートだった。

「・・・千聖。」
何て言ったらいいんだろう。私は結構人の地雷を踏みやすいから、余計なことを口走りそうで怖かった。
少しの間沈黙が訪れる。
「早貴さんには以前お話ししたことかもしれませんが」
やがて千聖が口を開いた。
「愛理は私の目標・・・・いえ、私のライバルなのです。」
そう言い切る千聖の瞳はあまりにもまっすぐで、私は思わず息を飲んだ。
舞美ちゃんと2人、キュートの楽曲のメインパートをまかされているセンターの愛理。
ソロパート自体ないことも珍しくない、後列組の千聖。
身の丈に合わない目標だと一笑したり、あるいは簡単に頑張ってなんて言えない真剣さがそこにあった。
「うん、覚えてるよ。千聖前にも私に話してくれたもんね。
愛理がライバルだって。でも、ほら、あのことがあってから、千聖はいきなり愛理と仲良くなったじゃない。だからもう、ライバルとかじゃなくなったのかと思ってた。
なっきーに言ってくれた気持ちはしぼんじゃったのかと思ったよ。」
嫌な言い方かもしれない。でも、私に思いをぶつけてくれた千聖には、自分の気持ちを自分の言葉で伝えたかった。
「ええ。私は確かに、愛理ととても親しくなりました。」
千聖は怯むことなく、少し考えてからまた言葉をつないだ。
「変わってしまった私を一番最初に受け止めてくれて、孤立しないように側にいてくれたのは愛理ですから。私は愛理の優しさにいつも救われています。
だからこそ、大好きな愛理に負けたくないのです。」
「うん。」
私は千聖の手を握った。
「よかった、千聖の気持ちを教えてくれてありがとうね。やっぱり千聖は変わってな・・・」
その時、ものすごい音を立ててロッカールームのドアが開かれた。

「舞さん。」
「舞ちゃん。」
目を吊り上げた舞ちゃんが立っていた。
「なっきーの嘘つき。元の千聖に戻って欲しいって言ってたじゃん。嘘つき!」
大きな目から涙が零れ落ちていた。
「なっきーは舞の気持ちわかってくれてるって信じてたのに。」
「舞ちゃん、待って」
すごい力で私の手を振り切って、舞ちゃんは一直線に千聖に向かって行く。その勢いのまま、千聖を壁際まで追い詰めた。
「もう嫌だ。全部あんたのせいだよ。千聖を返して。私からキュートのみんなを取り上げないでよ!!」
私は呆然と、胸倉を掴まれてガンガンとロッカーに押し付けられる千聖を見つめた。

どうしよう。

どうしたらいいの。

舞美ちゃん、えりかちゃん。

言うことだけは一丁前で、こんなときにどうすることもできない自分が悔しかった。
「お願いだから元に戻ってよ千聖ぉ・・・」
舞ちゃんが千聖の胸に崩れ落ちる。
舞ちゃんに泣いてるのを悟られないように、千聖が口を押さえて嗚咽をこらえている。
もう私にはどうすることもできない。
にぎりしめたままの携帯を開いて、震える指で履歴をたどる。

【もしもし?】
「・・・っ・・ちゃ・・・・」
電話口に聞こえた声に返事をしようとしたけれど、嗚咽でまともに喋ることができない。
【なっきー?何、なんかあったの?】
舞ちゃんの泣き声が耳に響く。あんなに強気な子を、私のせいで追い詰めてしまった。
「助けて・・・舞美ちゃ・・・みーたん、助けて・・・・」



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