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寮で定められている食堂集合時間、7:30になったのを確認して、私は部屋のドアを開けた。
うんうん、晴れてて気持ちのいい朝だ。鼻歌を歌いながら思いっきり体を伸ばしていると、大階段の下から「えりこちゃん」と声をかけられた。

「おはよー、なっきぃ」
「うん・・・オハヨ」

あらら、いつものチャキチャキ感がないな。なっきぃは心配事があると胃にくるタイプで、今もお腹のあたりをしきりに触っている。
原因はわかっている。それは何とも、心配性で真面目ななっきぃらしい・・・


「まあ、元気出して!そこまで心配することないよ。お嬢様だってお年頃なんだし」
「もうっえりこちゃん!私たちはね、旦那様たちがお留守にしている間、お嬢様をしっかりお教え導く義務があるんだよ!それなのに、ギュフゥウ・・・」

「なになにどうしたの?・・・あー、そっか、今日だったね、なっきぃ。まあそんなに思い悩むことないじゃないか!」
「なっちゃんたら、ほっとけばいいのに。ふふん」

もちろん、次々集まってくる寮生みんな、なっきぃの胃痛の原因は了解済み。でも、申し訳ないことに、なっきぃみたく思い悩んでる人はいないのであった。


「あのね!みんなそんな無責任な・・・」
「あら、なっきぃ。マジおはようございます。ウフフ。チョベリグな朝ね」
「あ、お嬢様だー」

可愛らしいお目目をひんむいてキーッてなってるなっきぃの後ろから、噂の千聖お嬢様がひょっこり顔を出した。
――おーおー、これはまた一段とヒド・・じゃなくて個性的な。

今日はお屋敷じゃなくて、寮の食堂で、みんなとご飯を食べる約束をしていたから、制服に着替えていらっしゃったみたいだ。


「お、おじょじょじょ!JOJO!」
「あら、なぁに、なっきぃ?千聖、お約束は守っているわよ。文句を言われるのはホワイトキックよ」
「ホワイト・・・しらける、か。ケッケッケ」
「まあ、愛理ったら博識ね」

つけまつげにぶっといアイライン。目の下にもラメ入りの白いラインを引きまくったお嬢様は、パールピンクに塗られた小さな唇をキュッと上げて、嬉しそうににっこり笑った。



話は一ヶ月前に遡る。

毎朝恒例のなっきぃの服装検査で、薄化粧とほんのり短くしたスカートを注意されたお嬢様。
その場は半泣きでなっきぃに従ったものの、放課後、お嬢様は熊井さんを仲間に引き入れ、お屋敷にてギャルチームを結成してしまった。しかも、10数年程昔流行った、昔の女子高生の出で立ち。
あわててもぉ軍団の良心・菅谷さんを潜入させるも、なぜか篭絡されてしまい、数十分後、昔懐かしい“ルーズソックスにミニスカ、頭にお花が咲いたガングロギャル”が3人、食堂に現れたのだった。
そして、救急車か警察を呼ばなきゃいけないんじゃない?ってぐらい興奮してるなっきぃをなんとか宥め、寮生&お嬢様(withもぉ軍団構成員2名)会議を開催。
お嬢様1人なら、説得するのもさほど難しいことではなかったんだろうけど・・・敵軍にはなっきぃの天敵(?)の熊井さんがいた。
熊井さんはなっきぃが何か言うたびに、とんちんかんなことを言い返すもんだから、まったく話し合いにならない。
そのうち2人ともエーンエーンと泣き出して、熊井さんの白いカラコンと取れかけたつけまつげが新種の物の怪のような有様になりかけたころ、黙ってにやにやしていた舞ちゃんから、こんな提案が出た。


“じゃあさ、1週間のうち1日だけ、ギャルでいることを許可してあげればいいじゃん”


それで少し落ち着いたなっきぃは、3人とよく話し合った末、「木曜日だけ、その格好で学校生活を送ることを認めます」としぶしぶながら宣言した。


そして、今日は4回目の木曜日。
栞菜が手伝っているからか、最初の頃と比べると、お嬢様はだいぶ垢抜けてきたような気もするけど・・・それにしても、斬新だ。
ミニ丈にした赤いチェックのスカートから健康的なムチムチした足がのびて、ふくらはぎ辺りから下は、ぶわんぶわん弛んでるおかしな靴下に包まれている。
緩く巻いた髪の上に、特大のピンクのお花を咲かせたお嬢様は、「さ、朝食にしましょう」と、弾むような足どりで食堂に入っていった。


「うぐぐぐ」
「なっきぃ、すごい顔しちゃって」
「だって!」

確かに、昨日までの清純派美少女の面影はどこにもない。だけど、もともとメイクノリのいい顔立ちのお嬢様には、このケバケバメイクも決して似合っていないということもない。ま、たまには新鮮でいいんじゃない?というのが私の感想。

食事中も、なっきぃの視線は、楽しげなお嬢様にロックオンされたまま。・・・まあ、気持ちはわからなくもないけど、ここはお嬢様の自主性をですねぇ。

なっきぃ以外の私たち寮生も、最初はどうしたもんかと思って、木曜日のお嬢様には、腫れ物に触るように接していた。
だけど、まったく気にもしていない舞ちゃんや、「いきがって背伸びしているおしゃまなお嬢様ジュルリ」といういつもどおりの栞菜の姿勢を見習って、あんまり意識しないようになっていった。
たしかに、外見は変わってても、結局いつものお嬢様であることに変わりはないわけだし。


「・・・えりこちゃん、今日メイク濃くない?」
「えっ!いやいや、あっしの顔が濃いのは生まれつきでさぁ」
「むむ・・・」

さすが風紀委員長様!少しアイラインの引き方を変えただけなのに、ささいな変化も見逃さないとは!実は、木曜日はメイクとかひそかにお嬢様に合わせているっていうのは、言わないほうがよさそうだな。

「さ、後片付けも済んだし、そろそろ行こう!お嬢様、今日はお車で?」

お皿洗いやテーブル拭きを分担して終わらせたあと、舞美がお嬢様に話しかけた。

「今日は天気がいいから、皆さんと登校したいわ」
「そか、それじゃ、さっそく」

お行儀よく、2列で林道を歩き始めて数分後、バス通学の生徒たちがちらほら合流し始めた。

「ギュフ・・」
「まあまあ、落ち着いて。木曜日だけなんだから、ね?」


「千聖お嬢様、おはようございます!」
「はい、おはようございます。・・・ウフフ、チョベリグなマニキュアですね。どちらのをお使いに?」
「お嬢様、ごきげんよう!なんて素敵なルーズソックス!」
「あら、嬉しいわ。これは、長さが60cmで・・・」


見知らぬ生徒たち――お嬢様と同じ様な制服の着こなし・メイクで着飾っている――が、私たちを取り囲んで、お嬢様に話しかけたりしている。

「明日菜様も、今日は素敵なアイシャドウを入れていらっしゃいましたわ」
「あら、明日菜ったら。ウフフ、千聖の真似なんて絶対にしないって言ってたのに」


主に話しかけているのは、怖いもの知らずの中等部の子たちだけど・・・遠巻きに見ている生徒たちも、皆時代が遡ってしまったようなレトロな格好。



そう、お嬢様は、学園にとんでもない一大ブームを巻き起こしてしまったのだった。



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