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「では、なっきぃ、栞菜。あとでホームルームでね。ウフフ」
「はぁい。チョベリグー」
「か・ん・ちゃん!」


中等部の校舎の方に、途中で合流した梨沙子ちゃんと並んで歩くお嬢様。時折、後ろの愛理と舞ちゃんを振り返っては、楽しげに談笑している。
ガンギャル2名とごく普通の制服の2人が話してこんでいる姿は、なかなかシュールなものがあった。


「おはよー」
「おはよございまーす」

私たちも、元気な挨拶の飛び交う高等部の昇降口へ向かう。

たくさんの女の子たちの笑い声が、あっちこっちから飛び交ういつもの平和な学園風景。・・・が、みんな一様に、まつげどっさり顔中ラメでキラキラなものすごい様相。


私たち寮生と同じく、学園のほとんどの生徒も、最初は変わり果てたお嬢様をどう扱っていいものかと様子を伺っていたんだけど・・・まずは、お嬢様の取り巻きさんたちがメイクを真似しだした。
ま、取り巻きさんたちは基本お嬢様のやることは全肯定な方々なので、これは想定の範囲内だった。
でも、そのあたりから今度はお嬢様や梨沙子ちゃん、熊井さんのファン(?)の下級生、同級生、高等部生徒・・・とだんだん波紋が広がっていき、
我が校のオサレリーダー・みやびが「可愛いじゃん♪」なんて言って、学校新聞でメイク特集を組んだところで、ついに本格的なブームが訪れてしまった。

もともと服装に関する規則の少ない学園とはいえ、さすがに先生たちも動揺して、風紀委員である私やなっきぃも事情を聞かれたけど・・・まさか、お屋敷での一部始終について説明するわけにはいかないので、“お嬢様はちょっとした反抗期で云々”とお茶を濁しておいた。

で、結局、お嬢様が騒動の主軸にいるということで、学校側としては、生暖かく見守るという措置をとると結論づけたらしい。
そんなわけで木曜日のお嬢様は、自由を手に入れた喜びで、いつも以上に笑顔過多。いつもは必要以上にお嬢様に大して畏まる学園の生徒たちが、自分の真似をしてくれてるっていうのも、プライドをくすぐるポイントなんだと思う。


「グギギィ・・・」


一方、みかん色のハンカチを噛んで、次々目のまえを通り過ぎるギャルギャルしい生徒たちを恨めしげに睨むなっきぃ。


「もう、せっかくのかわゆい顔が台無しだよ、なっきぃ」
「うぅ・・・でも、でも・・・ギュフゥ・・」

そんな顔するぐらいなら、例えばいきなり木曜日に服装検査でもやっちゃえばいいのに。
でも、生真面目で誠実ななっきぃはそういうだまし討ちみたいなこともできず、毎週木曜日は胃薬を片手に悶々と過ごしている。

とはいえ、もちろん、ブームはブームにすぎないわけだし、そこに乗らない生徒だっているわけで。たとえば・・・


「おはー♪あれ、なになに、どーしたの?風紀委員長さん!顔青いけど!」

校則で禁止されているチャリンコで颯爽と現れた、青いチェックのミニスカートにピンクのオーバーニーソックスという暴力的な色彩感覚を持つこのお方。

「つ・・・嗣永サン!なんですかその制服は!たまには普通に着こなすとかできないんですかっ」

やっとまともに注意できる相手が見つかって、なっきぃはあからさまに嬉しそうだ。学園で何が流行っていようと、我流を貫くその姿勢は、敵ながらあっぱれといったところか。んま、お元気になってくれてなによりです。

「えー、もぉのことは今さらじゃないですかぁ。そんなことよりー、もっと注意せにゃならん子がたーっくさんいるんじゃない?」
「うぐぐ・・・だったらちゃんとお嬢様たちを説得してください!もー、悔しいけどお嬢様は嗣永さんの言う事なら聞くかもしれないし、友理奈ちゃんと梨沙子ちゃんは子分みたいなもんでしょ?」
「こ・ぶ・ん?んー、それは違うんだなっ」

嗣永さんはチッチッと人差し指を立てた。

「いいですかぁ、我が軍はですねぇ、お互いの個性を尊重し合い高めあうことを目標に結成された崇高な組織でありましてぇ、年齢がバラバラであっても、そこに上下関係というものはそんざいしないんですぅ。
それに、くまいちょーがもぉの説得ごときでアレをやめると思う?」
「うっ」
「梨沙子も、どゎいすきなみやがあのメイクに賛同してくれちゃったからもうだめだねぇ。あの子にとっては、みやの一挙手一投足が自分の判断基準に繋がるわけだしぃ。まったく、マジヲタってきめぇな」
「おっと、お嬢様の悪口はそこまでだ」

「んま、とにかく、飽きるまでやらせておいたらいいじゃない。千聖のあれ、決して悪くはないと思うよ?もぉはもぉの美意識に反するから、真似っこしないけどぉ。
委員長さんも、ちょっとは付き合ってあげたらいいのに。いっつもお堅いんだからぁ、ウフフ。ではではー」

そこまで一気に言うと、嗣永さんはプリケツをふりふり、再びチャリンコをこいで行った。

「もー、勝手なこと言って・・・っていうか、自転車禁止―!止まりなさい、嗣永さん!!」
「おーい・・・」

嗣永さんのせい、いや、おかげというべきか。なっきぃはすっかりいつもの調子を取り戻して、キャーキャー逃げ惑う嗣永さんを追いかけて行ってしまった。


「・・・何か、嗣永さんて漢前だよねぇ。あれでなっきぃのこと励ましてるんだから、ぶっきらぼうな男子のようだね」
「そう?単にからかってるのかと思ったけど」
「いやいや、私は共学にいたからわかるかんな。男子はああやって照れ隠ししながら女子をからかうかんな」


――そうだ、すっかりレズキャラが定着してるけど・・・もともと栞菜は公立の学校にいたから、結構視野が広いというか、いろんな方向から物事を見られるタイプだと思う。
お嬢様の変化にそれほど戸惑わず、最初から普段どおりに接することができたのも、舞ちゃんと栞菜だけだったし、なんというか奥の深い℃変態だ。

「女子校はやっぱり独特だよねー。この手の懐古ブームも、異性の目を気にする共学だったら、まず流行らなかったと思うけど、今やルーズソックスが指定靴下みたいになってるもん。なんか面白くない?」
「ね、いいよねー!私も走るのに邪魔にならなかったら、ルーズソックス履いてみたいもん!とかいってw実はもう買っちゃったし、陸上部の時だけ違う靴下に履き替えようかな?」
「いいねいいねー!お嬢様も喜ぶよ、絶対」

楽しそうにおしゃべりする2人を尻目に、私は少々複雑な気分を覚えていた。

まあね、確かに、お嬢様が背伸びしてお化粧することや、制服を改造するのはもちろんかまわないと思う。それが学園内でブームになるのも、悪いことじゃない。でも、今月の木曜日っていったらたしか・・・

私は愛用の手帳を開いて、2週間後のウイークリースケジュールの予定を指で辿った。

月、火、水、・・・・おーっと。


「えりー?先行っちゃうよー?」
「あ、う、うん。ちょっと待ってぇ」


――なるほど、これがなっきぃの胃痛の根本原因なわけね。


蛍光ピンクで縁取られた、浮かれた自分の文字を見て、私は苦笑した。


“木曜日。学園祭、1日目。”


――つまり、当日までになんとかレトロギャルブームを終結させないと、外部の人にこの珍妙な現象を晒す事になってしまうということか。しっかりもののなっきぃとしては、さぞ不覚だったことだろう。

今年の学園祭は平日に行われるとはいえ、例年通り外部からたくさん人が来るはず。
うちの学園は、制服の可愛さや自由な校風から、結構人気が高いと佐紀が言っていた。
当然中学や高校受験を考えている女の子たちもいっぱい来るだろうに、出迎える生徒たちが、仮装大会のごとく皆ガングロヤマンバ状態じゃ、学校の評判ということを考えると、あんまりよくないのかもしれない。

確かに私も、学園祭に来てくれるであろう両親に、このままの学園を見せるのはしのびない。
特に、気難しいパパなんて、機嫌が悪いときだったら、本気で転校だ何だと言い出す可能性がある。ブームの急激な収束は難しいにしろ、もう少し落ち着かせることができたらいいなとは思う。


「とりあえず、ちょいとお嬢様と話すかなー・・・」

最近は2人でおしゃべりする機会があんまりなかったし、生徒会の仕事も学祭の集まりもない日に、お嬢様大好物の梅田特製フルーツサンドで釣ってみるか。

ガンギャル特有の、ココナッツみたいな香りがただよう廊下を歩きながら、私はお嬢様にメールを打ち始めた。



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