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――あれ?

大げさな身振り手振りで、はしゃぎながらなっちゃんに何か説明している千聖。その右手薬指の根元が、キラリと光っている。

「指輪・・・」

私は立ち上がって、ガシッと手首を掴んだ。

「な、何舞ちゃん!びっくりしたぁ」
「・・・あ、もういいや。あんがと」
「変なのー。ま、いいや。」

すぐに手を離すと、また千聖はおしゃべりに戻ってしまった。

明るい方の千聖は、お嬢様と違ってものすごくオーバーリアクションだから、動きを止めさせないとちゃんと指輪のデザインが見れない。それであんな暴挙に出たわけだけど・・・

(なんだっけ、あれ)

銀色で、真ん中に小さな赤いお花が咲いている指輪。どこかで見た覚えがある。
雑貨屋さんとか、服のお店かな?でも、私の好きな感じとはちょっと違うから、そういうとこでちょっと目にしたぐらいじゃ印象に残ってるはずがない。



「・・・・あっ!」



いろいろ考えていたら、いきなり私の頭の中がピコーン!と音を立てた。
思わず声を上げると、読書中の愛理が顔を上げた。


「んー?」
「・・・んーん」
「うんー。」

長い付き合いなもので、言葉一つ発していなくても、お互いの意図がわかる。
愛理がまた本に視線を戻すのを確認して、私は爪を噛んだ。


――舞美ちゃん、だ・・・


1週間ぐらい前、可愛い指輪が見つかったって笑いながら、舞美ちゃんが見せてきた指輪。
今千聖の指に填まっているそれと、まったく同じもの。

私の脳裏に、つい先日の“鯵の骨引っかかって妊娠事件”がよぎった。
千聖の喉を辿る舞美ちゃんの指。寄り添って見つめあう2人。余談でしゅが、男女の身長差は15センチぐらいがちょうどいいバランスらしいでしゅね。はっはっはっ。お似合いの2人ってわけでしゅね。

「はっはっはっ」
「ケッケッケ?」

――まぁ、まぁ待て。落ち着くんだ舞よ。あれは誤解だったじゃないでしゅか。ちしゃとと舞美ちゃんは決して不浄な関係ではないんでしゅよ、舞!


自分にそう言い聞かせても、私の目は千聖の指から離れない。
手が動くたびにキラキラ光るそれは、私を挑発しているかのようにすら思える。

今までファッションにまったく関心のなかった千聖も、お嬢様化してからは、結構可愛い格好をするようにもなっていた。
だけど、ネックレスや指輪、ブレスレットなんかはほとんどしているのを見たことがない。(明るい方の千聖がすぐ失くすから・・・とお嬢様が言っていた)

それに、私は千聖のことなら頭のてっぺんからつま先までよおぉおくわかっているから自信をもって言えるけど、ああいうデザインは千聖の趣味じゃない。赤い色石とパールのお花じゃ、ちょっと女の子っぽすぎる。

でも、だったら何で?失くすリスクを考えても、つけていたいぐらい大事なものってこと?舞美ちゃんとおそろいの指輪が?



「・・・おはよー!遅くなってごめんねー!」


ドアの開く音と共に、ジャストタイミングで、舞美ちゃんが楽屋に入ってきた。
私は即問いただしてやろうと「おねえ・・・」と口を開きかけた。
でも、それよりも早く、半分駆け足の千聖が舞美ちゃんの目のまえにぴょんと立ちはだかった。

「ふっふっふ。舞美ちゃーん」
「なになに?ちっさー」


好奇心いっぱいの大型犬みたいな舞美ちゃんの笑顔。その眼下に、千聖が手の甲を突き出して見せた。


「じゃーんっ!」

光る薬指の指輪。それを見た舞美ちゃんの表情がみるみるうちにパアッと明るくなっていく。


「・・・・うそー!?ちっさー、本当に!?本当!?」
「グフフフフ」


舞美ちゃんは持っていたバッグを落とすと、いきなり千聖をガバッと抱きしめた。
大きな手が、若干千聖の体に食い込んじゃってるぐらいの強さで。

「やーもー、嬉しいんだけど、ちっさー!よかったぁ」
「ちょ、ちょっと痛いって舞美ちゃん!もー、そんなさー喜ぶのー?だったらさぁー」


グギギギギギギギイ・・・


「ま、舞ちゃん落ち着くケロ!」

耳に入る不快な雑音は、どうやら自分の歯軋りだった模様。
なっきぃに口をむにゅっとつままれて、強制的に止めさせられる。


目のまえでは、舞美ちゃんと千聖が指を絡ませてイチャイチャしている。

ちっさー、舞美が送った婚約指輪見せて?だーめ、みせたげないっ。これはちさとの宝物だかんねっ。もう、意地悪ぅ。結婚式までちゃんと毎日つけるんだゾ?アハハウフフ

「アハハウフフ」
「・・・・舞ちゃん、そういう狂気じみたアフレコはやめてほしいケロ」



ひととおりジャレ合った2人は満足したのか、「もーね、舞美ちゃん」と千聖が再び口を開いた。私は思わず身構える。


「こういうのさー、大事なら置きっぱなしにしちゃだめじゃーん!」


よく見ればぶかぶかサイズのその指輪を、千聖はおもむろに指から抜いて、舞美ちゃんにポンと手渡した。

「でへへへ。ごめんねー。でもちっさーが気づいてくれてよかっ」
「ど、どどどどどいうこと!!!!???」


思わず2人の間に割って入って、千聖の肩をガクガク揺さぶる。


「うわうわ、ちょっとなんだよー!今日舞ちゃん乱暴!」
「いいから、その指輪なんなの?ちゃんと答えて!」

私の剣幕に若干引きながらも、千聖はちょっと口を尖らせて答えてくれた。

「何怒ってんだよー・・・あのね、こないだ舞美ちゃんが千聖んちに遊びに来たとき、この指輪置いて帰っちゃったんだよねー。
昨日部屋片付けてたら、明日菜が見つけてくれたんだよ」
「そうそう!これお気に入りだったからさー、失くしちゃってショックだったの!よかったよーちっさー」
「・・・・・・・あっそ」


おーっと、DJマイマイまたもやミステイク!あやうくまた愛の告白第二弾と洒落込むところだったZE!

「じゃあ、それは舞美ちゃんの指輪なんだね?おそろいじゃなくて」
「うん。そーだよ」

指輪のおそろいはちょっとないわー。なんて笑う千聖を見て、私はやっと安心して席に戻った。
今鳴いたカラスがなんとやら。さっそくニヤニヤしちゃってる自分が悔しいけど、私の機嫌なんて千聖次第で変わっちゃうものなんです。

鼻歌まじりにテーブルの上のお菓子をつまんでいると、いきなり後ろから目隠しをされた。


「ケッケッケ。だぁーれだっ」
「・・・カッパさぁーん」
「あたりっ!」

軽いお戯れかと思いきや、なぜか目を覆う手を離してくれない。

「愛理ぃ?」
「ケッケッケ。でもさー舞ちゃん。


なんで、舞美ちゃんは千聖の家で指輪を外したんだろうねぇ?なんか、あのドラマ思い出しちゃった」
「・・・・・・・・・・・・え?」


そう言われて思い出した“あのドラマ”。
日帰りできない仕事の時、夜に愛理と二人で見た、ちょっぴり大人向けの作品。
不倫しちゃってる若妻が、相手の男の人とあーしてこーするその直後、そっとテーブルに指輪を置く。
そして、良い子は見ちゃいけないシーンでは、2人の関係を象徴するかのように、その指輪が大写しになっていて・・・


「いや!まさか!違うし!そんなわけないじゃん!千聖は舞のなんだからね!」

手を振りほどいて愛理を睨みつけると、「冗談だよぅ~ケッケッケ」って笑って退散していった。・・・この、Sっ子めが!

だけど、大見得きって否定したものの、私は未だ指輪を持ってイチャコラしている2人から目が離せなくなってしまった。

――信じてるからね、お姉ちゃん!お姉ちゃんは清純派!全方位!全方位!全方位!全方位!全方位美少女矢島舞美ちゃん!


「はぁあ~・・・」

えりかちゃんと千聖の“あれ”の心配がなくなった矢先、またしても目のまえに立ちはだかってきたその疑惑に、私は頭を抱え込んだのだった。


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