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「まあ・・・えりかさんのお部屋に?」

お嬢様はちょっとびっくりしたように目をパチクリさせている。

「お嫌でしょうか?」
「あ、そ、そんなことはないのよ。ただ、寮の皆さんのお部屋に泊まるのは初めてだから・・・。いつも皆さんが千聖のところに来てくださって・・・あ、で、でも嫌だなんて、私、そんな」

顔を赤らめてフガフガ言ってるのがすっごく可愛くて、私は思わずワンちゃんにするみたいに、頭をなでてしまった。

「もう、えりかさんたら。私は子どもじゃないって・・・ああ、でも、そんなことより、私着替えを持ってくるわ。栞菜にも、添い寝のキャンセルを伝えないと」

なっきぃを心配して落ち込んでいたお嬢様は、一転して明るい顔を見せてくれた。私と一緒に寝ることを楽しみにしてくださってると思うと、こっちまでその笑顔が移ってしまう。

「それじゃ、お嬢様のご準備の間に、なっきぃの様子を見て来るんで。10分後ぐらいにまたいらしてください」

栞菜の部屋に向かう背中を見届けてから、私は再度なっきぃの部屋へ足を運んだ。
声を出すのもしんどいだろうと考えて、あえてノックもせずに「なっきぃ、入るね」と声だけかけてドアを開けた。


「ケホケホ・・・えりこちゃん」

横になっていたなっきぃは、すぐに体を起こそうとする。

「いいからいいから。ゆっくりしてなって」
「ん・・・ありがと」

体温計を手渡すと、なっきぃは布団の中でもそもそ動いて脇に挟んでくれた。

「お嬢様は・・・?」
「ん?」
「さっき、下にいたでしょ?お嬢様の声、してた。戻ってきたんだね」
「うん・・・」

こんな状態でも、お嬢様の事を気にしているなんて・・・その愛情の深さに、少しだけ胸が痛んだ。
ちょうど廊下の方から、栞菜とお嬢様がキャーキャー騒いでいるのが聞こえてきて、なっきぃはキュフフと小さく笑った。

「お嬢様、なっきぃのお見舞い、来たがってたんだよ。今は難しいけど、熱が下がったら、お会いできると思うから。難しいこと考えないで、ゆっくり休んで?」

ピピピと体温計が電子音を鳴らす。表示を見ると、38℃と低体温気味ななっきぃにはまだまだ十分高熱のようだった。
持参した熱冷ましシートをおでこに張ってあげて、かぜシロップ(なっきぃは粉末は苦くて飲めないんだよ)を飲ませると、少し目がトロンとしてきた。

「なっきぃ。」
「ん・・・?」
「もっと頼って、ウチのことも。全然、頼りないかもしんないけど」

熱で紅潮したほっぺたや、不安げに揺れる眼差しは、いつものしっかりものの風紀委員って感じじゃなくて・・・まるでおお嬢様や舞ちゃんよりも子どもに見えるぐらい、儚く感じた。
ちょうど、頑張りやさんの糸がふっと切れてしまうのと、体調が悪くなるタイミングが合ってしまったんだと思う。年上の癖に、いつも何かと頼りまくってる身としては、こんな時ぐらいは役に立ちたい。

「キュフフ・・・ありがと」

少し回らなくなってきた舌で、なっきぃが言葉を紡ぐ。


「頼りにならないなんて・・そんなこと。
私・・えりこちゃん・・・居てくれると、すごい、安心する・・・・」
「なっきぃ・・・」


「ちょっと、眠るね・・・。お嬢様、のこと、お願いね・・・・・」

少しずつ瞼が落ちてきて、やがてなっきぃの唇から、静かに寝息が漏れてきた。

「なっきぃ、また来るからね」

お腹をポンポンと叩いて、そーっと玄関まで歩く。ドアに手をかけてそーっとドアを引くと、「わーっ!」と声がして、足元にズドンと何かが落ちてきた。


「ひゃあっ」

何とか最小限に声を殺して、恐る恐る下を見る。見慣れたセミロングの黒髪美少女の頭がごろんと転がっていた。


「・・・栞菜」
「もう!痛いよ舞美ちゃ・・・モゴモゴモゴ」
「静かに!なっきぃ寝てるんだからっ」

栞菜の口を押さえて、とりあえず廊下に出る。

「イタタタ・・・もう、舞美ちゃんが押すから!」
「えりが急にドア開けるからだよー!とかいってw」

うつぶせに倒れてほふく前進状態の栞菜に、モサフリワンピが腿まで捲くりあがって尻もちついてる舞美。
要領よく2人から離れたんだろう、涼しい顔で手すりまで避難している舞ちゃんと愛理。・・どうやら、ドアに耳をつけていたらしい。


「・・・忍者ですか、あんたたちは」
「だってぇ、なっきぃのこと気になってたんだもん。でも大勢で行ったら迷惑じゃん?だから聞き耳で我慢しようって」
「何も聞こえなかったけどねーケッケッケ」


みんな、心配症なのはわかるけど・・・何、その微妙にズレたその気づかい!


「で、えりかちゃん。どう?なっきぃの様子は」
「うん、今また眠ってるよ。多分、後は熱が引くの待ってれば大丈夫だと思う」
「よかったー。じゃあ、一応夜中にも少し様子見に行ったりしてみるね。えりはお嬢様についててあげて!今日、部屋に泊めてあげるんでしょう?」

舞美がそういうと、思いっきり唇をタコにして抗議の様相を見せてくる人、1名。


「添い寝ぇええぇ・・・」
「もう、何て顔してんだよ、栞菜!千聖は今日はえりかちゃんと寝るの。寄り添って!寮の狭いベッドでな!ガハハハ!」

それとは対照的に、ドヤ顔で栞菜を見下ろす女帝、1名。

――もう、本当、ウチそういうあれじゃないんで、巻き込まないでいただきゲフンゲフン。


「いい?栞菜。くれぐれも盗聴したり」
「うっ」
「盗撮したり」
「ぐっ」
「こっそり忍び込んで、天井に張り付いたり」
「くっ」
「「「「縄梯子で室内覗くとか絶対ダメだからねっ!」」」」


私の楽しみがぁああん・・・と不気味な声を残して、舞美に引きずられていく栞菜。みんなもそれぞれ自分の部屋に戻っていく。

「ふー。」

お嬢様が来る前に、もうちょっと部屋を整理しておきたいな。
再び自室に入って、コロコロタイプの粘着テープでゴミを取ったりしていると、コンコン、と小さくドアを鳴らす音が聞こえた。

「はーい、どうぞ」
「お、お邪魔します・・・」

遠慮がちに部屋に入ってきたお嬢様。その後ろには、鬼軍そ・・・いえいえ、優秀なお嬢様専属メイドのめぎゅぅ様が、荷物を両手に控えていらっしゃった。


「どうも、えりかさん」
「いえいえ」

今日は夜勤らしく、パリッと洗い上げたメイド服姿のめぐぅは、澄ました声でお仕事モードのご挨拶。

「夜分にすみませんが、お嬢様をお願いします。こちらは、千聖様の制服と学校鞄になります。朝のご準備のお手伝いをお願いします。
それから、料理長からマフィンをお預かりして来ました。明日、皆さんで召し上がってください。早貴さんにはお粥と、果物のゼリーを。こちらは私が後で直接お届けしますので」

おお・・・さすがめぐぅ。私たちとバカ話で盛り上がってる時とは全然違う、無駄のない所作と言葉遣い。
私は思わず見入ってしまったけれど、お嬢様は下を向いて肩をプルプルさせている。


「ウフフ・・・・ウフフフフウフフ」


めぐぅの真面目な態度は、お嬢様的には笑いのツボにはまるものらしい。笑ってはいけないという気持ちが余計に可笑しく感じさせるらしく、いつまでもウフフ笑いが止まらないみたいだ。

「・・・・ご機嫌がよろしいようで何よりですが、別に笑うようなことは何もございませんよ、お嬢様!」
「きゃんっ!」

めぐぅはお嬢様のお尻をパチンと叩いて、「では、失礼します」なーんてお得意の“貞淑なメイドスマイル”とやらを浮かべながら出て行った。

「もう・・・め・・・村上さんたら」
「まあまあ、いつものことじゃないですか。それより、もう遅いですから早くベッドに入りましょう」

狭いベッド、なんて舞ちゃんは言ってたけど、部屋に備え付けのベッドは一般的なダブルベッドと同じぐらいの大きさで、2人で寝るには十分すぎる。横向きになったりしなくても、気持ちよく眠れるはず。

「あ・・・は、はい。では」

濃紺のナイトガウンを脱いだお嬢様は、フリルのたっぷり入ったピンクのネグリジェを着ていた。サテンのようなタオル地のような、不思議な生地のそれを見ていると、私の脳裏にほえーっとしたあの笑顔がよぎる。

「それ・・・舞美にもらったネグリジェ、とか?」

まあ、聞くまでもないんだけれど、一応。

「ええ、そうよ。すごいわ、えりかさんたら。・・・千聖、あの、こういう可愛らしいお寝巻きはとても好きだけれど・・・あんまり、似合わないと思ってなかなか着ることができなかったの」
「そんなことないですよ。よく似合ってます。可愛いです」

別にお世辞を言っているわけじゃなくて、そのガーリッシュすぎるネグリジェは、どこか少年ぽい顔立ちのお嬢様を適度に女らしく見せる効果があるみたいだった。

「最近、お顔立ちが大人の女性らしくなってきてますからね、お嬢様。淑女って感じでいいと思いますよ」
「ウフフフ・・・ありがとう。私、えりかさんは千聖に嬉しい言葉をたくさんくれるから大好きよ」

若干赤くなった顔を隠すように、お嬢様は私のベッドにもそもそと入り込んで、三日月の形になった目だけちょこんと出してクフフと笑った。

「もう寝ましょう。えりかさん、明日は少し早めに起きて、なっきぃの様子を見に行っていただけるかしら」
「ええ、もちろん。すぐにお嬢様に経過をお知らせしますから」
「ありがとう」

部屋の電気を豆電球だけにして、私もお嬢様の隣に潜り込む。
普段は1人で悠々使っているベッドに、人の気配があるのは何か不思議な感じがした。

「・・・明日、熊井さんと梨沙子ちゃんのところ、ウチも一緒に行きますよ」

何かお姉ちゃんぶりたくなって、そんなことを言ってみると、お嬢様はこっちに顔を向けて嬉しそうに笑ってくれた。


「本当?嬉しいわ。えりかさんが一緒にいてくださったら、とても心強いわ」
「いやいやそんな。・・・あと、せっかく朝も一緒に過ごせるんだし、何か可愛い髪形作りますよ」

こんなに甘やかし放題じゃ、めぐぅや復活したなっきぃに怒られちゃうかも!なんて思いつつ、可愛らしく甘えられて、私のほっぺは緩みっぱなしなのだった。



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