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「お嬢様、明日はとりあえず6時ごろいったん起きようと思うんですけど」
「・・・」
「お嬢様?」


返事は返ってこない。代わりに、少しくっついた肩が穏やかに上下するのを感じる。もう眠ってしまったみたいだ。

「んん・・」

さっそく寝返りを打って、布団が私の体から離れていく。

“お嬢様はリラックスしてる時は、横向きで寝つくかんなグヒョヒョヒョ”という栞菜からの情報を思い出す。・・・一応、私といるときは落ち着いてくれてるってことか。ちょっと嬉しい。


「なっきぃ・・・」
「えっ」

「なっきぃ・・・クフフ・・・ん・・・」


おお、これが噂のお嬢様の寝言か!お昼寝中にも発動するらしく、たまに舞ちゃんがからかっているところを見たことがある。

「ウフフ・・・なっきぃ、待って。なっきぃ・・・」

夢の中で、ムニュムニュ口を動かしながら笑うお嬢様。
大好きななっきぃと遊んでる夢でも見てるのかな、なんて思ったら、ちょっと切なくなってしまった。


「おやすみなさい、お嬢様。」


寝姿を見守るようにお嬢様の方を向いて、私も目を閉じた。



翌朝。

軽快な目覚まし音に起こされ、枕元のケータイのアラームを止める。
いつもならグダグダ二度寝タイムに入るところだけど、今日はなっきぃの見回りがある。


「えりかさん」
「あっ、おはようございます、お嬢様」


気がつくと、傍らで目を閉じていたはずのお嬢様も体を起こしていた。少し寝乱れたネグリジェを整えながら、「なっきぃのところに、行っていただけるかしら?」と寝起きで若干舌足らずな口調でいう。


「もちろんです。もう少し眠っていても大丈夫ですよ」
「・・・いいえ。なっきぃのご様子が気がかりだから、千聖も起きているわ」
「お嬢様・・・」


そんなお嬢様の心配もむなしく、なっきぃはあんまり回復していなかった。
めぐぅが持って来てくれたフルーツゼリーしか食べてないらしく、部屋で養生している分には問題ないのだけれど、とても学校に行ける感じではないみたいだ。

「ケホケホ・・・ごめんね、お嬢様にお気になさらないように伝えて・・・」


早朝だというのに駆けつけた、私以外の寮生皆にもそう告げると、なっきぃはまた目を閉じた。


「・・・・そう、まだあまり回復なさっていないのね」


私からの報告を受けて、お嬢様は辛そうにうつむいた。

「元気出してください、お嬢様!なっきぃも、お嬢様が落ち込んでいらしたら、きっと悲しくなっちゃいますよ!」
「そうだよ、なっちゃんは千聖千聖なんだから。暗い顔して、よけーな心配かけないの」
「そうだかんな。元気ならいつでも私が注入してあげますよ、お嬢様!溢れるほどにドピュドピュッとな!」
「・・・あのね。ウチの部屋に来るのは構わないけど、ノックぐらいしてくらさい。」


もはや学園でも公認となりつつあるお嬢様親衛隊の2人。さっそく無断で私の部屋に押し入って、萎れかけたお嬢様に声をかけてはげましている。

「・・・ウフフ、そうね。私がこんな状態では、なっきぃが心配するわね。」

2人の思いを確かに受け取ったお嬢様は、漸く笑顔を見せてくれた。

「そうだよ。早く学校行く準備して、朝ごはん食べよ?今日は鬼軍曹の持ってきたマフィンだって。舞、ブルーベリーのがいいなあ」
「私はバナナのがいいかな」
「あら、千聖もバナナがいいわ!栞菜、先に取ったらダメよ!すぐに行くから待ってなさい、命令よ!」


命令よ!なんて声真似をしながら逃げていく舞栞菜を見届けると、お嬢様はくるっと私の方を向いた。

「早く準備しましょう、えりかさん。ネクタイを結んでくださる?あと、髪の毛を編み込みにしていただきたいわ。
バナナマフィンを取られてしまうから、急いで頂戴!」
「はいはい、そんなぴょんぴょん跳ねなくても大丈夫ですから。」


――うん、ちょっとぐらいワガママでも、元気でいてくれるほうがウチも嬉しいですよ、お嬢様!


*****

それから数時間後、学園のお昼休み。

ランチをご一緒しましょう、というお嬢様の誘いに乗ってくれた梨沙子ちゃんと熊井さん。後から合流した私もまぜてもらって、屋上でご飯を食べているとき、本日なっきぃが欠席している理由をそれとなく伝えてみた。


「ええっ!!!!!なかさきちゃんが!!!???」

カッと目を見開いた熊井さんの顔が近づいてきて、私とお嬢様は揃って仰け反った。
ただの風邪じゃなくて、疲労と心配事も重なってダウンしてしまった。その説明に、熊井さんはかなりの衝撃を受けてしまったみたいだけど・・・。


「ぬゎんで!ぬゎんでですか!風邪はともかく心配事って!!!誰かなかさきちゃんを困らせるようなことしとぅえるんどぅえすかっ!!!」

おさかなフライをフォークに刺したまま、熊井さんは顔を真っ赤にして憤っている。・・・うん、心配事の種は、他でもないあーたなんですけどね。


「・・・・もしかして、私たちに関係あるんですか?」

一方、梨沙子ちゃんはわりと冷静なご様子だ。

「んー・・・関係あるといえばあるんだけど」
「私と熊井ちゃんに関係あるなら、もぉ軍団?・・・でもなぁ、一番いいんちょーさんに心配かけまくってるももがいないってことは・・・もしかして、ギャルチームのことですか?」
「ご名答っ!梨沙子ちゃん、冴えてますなぁ」

おだて半分にそう持ち上げてみると、梨沙子ちゃんはデヘヘと笑った後に、少し唇を尖らせた。

「私たちがいいんちょーさんの体調不良の原因になってるから、木曜だけギャルになるっていうのをやめてほしいとか・・・?」
「う、うーん・・・まあ、端的に言えばそういう」
「ほんとですかっ!!!!うちらがギャルやめれば、なかさきちゃんは元気になるんですねっ!!!!!!でもそれはぬゎんでですかっ!!!」

熊井さん、協力姿勢なのはありがたいけれど・・・真顔&大声で疑問点をぶつけてくるのは恐ろしいので、お控えなすっていただきたい。


「つまりね、来週の木曜日、学園祭があるから・・・来賓の方をびっくりさせないように、できたら一時休止してほしいなーなんて・・・ダメかな?えへっ。えりかからのお・ね・が・い☆」

一応、嗣永さんを参考に、手を胸の前で組んでウルウル上目づかいとやらをやってみたんだけど・・・そもそもタッパがあってロリ路線とは縁遠い私じゃ、何の効果も期待できそうにない。

案の定、お嬢様はウフフ笑いを頑張ってこらえているし、梨沙子ちゃんはうわーって声が聞こえてきそうなドン引き顔。
唯一、熊井さんだけが「わかりましたっっっ!!」と敬礼でもしちゃいそうな勢いで返事してくれた。


「えーでもさー」

それとは対照的に、梨沙子ちゃんは不服そうなご様子。

「そんなにダメかなー?みんな真似してくれてるし、学園祭でもこんな感じでいきたかったんだけどなー」
「ぬゎに言ってんの梨沙子!これでなかさきちゃんが治るならお安い御用じゃん!」
「でもさでもさ!別に悪いことしてるんじゃないのにさ!」
「もー!梨沙子はなかさきちゃんのこと心配じゃないのっ!不治の病に苦しむなかさきちゃんのお願いなんだよ!」

あの、えーと・・・別に不治でもなんでもないんですけど・・・。話大きくなってるんですけど・・・。

でも熊井さんの剣幕はものすごいものがあって、ツッコミを入れていいものかよくわからない。梨沙子ちゃん的には慣れたことみたいで、対等に渡り合っているけど。

「梨沙子、なかさきちゃんはねっ!すっごくデリケートなんだよっ!昔からそうなの!いろんなこと気にしすぎて、幼稚園の時だってすっごいベソっかきだったし!
いいじゃん弱ってる人には親切にするようにって先生たちもよく言ってるんだしさ!なかさきちゃんの最後の願いをかなえてあげようよ!
あとねちなみになかさきちゃんがどれぐらいデリケートかっていうと、小学校の時教室で飼ってたハムスターと同じぐらいドプフォwwww」
「コポォwww」

長々説明している自分が面白くなってしまったらしく、熊井さんは喋りながら吹き出した。梨沙子ちゃんもつられて笑い出して、険悪になりかけていたのが嘘みたいに明るいムードになる。・・・もぉ軍団、恐るべし!


「・・・あれ?お嬢様は・・・」


ふと気がついて振り向くと、私の横にいたお嬢様は、忽然と姿を消していた。
私が熊井さんと梨沙子ちゃんの言い争いに気を取られているうちに、席を立ったみたいだ。

「ほーら、梨沙子がおっきい声出すから、お嬢様怖がってどっか行っちゃったじゃん!!」
「「いや、あきらかにそっちのが声大きいから!」」

2人分のツッコミを受けた熊井さんは、何だか不服そうだった。


「・・・まあ、それはそうとして。梨沙子ちゃん、どうしても学園祭の時に普通の着こなしに戻るの嫌かな?」
「うーん・・・嫌っていうかぁ・・・だって・・・いいんちょーさんのことは心配ですけどぉ・・・」

駄々を捏ねているというより、迷っているようにも見える。
客観的に見て、梨沙子ちゃんはワガママなタイプではないみたいだし、熊井さんの方が強敵かと思ってたんだけど・・・。



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