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“ウフフ、果物の準備ができたわ”
“岡井さぁん、じゃあこっちでお鍋かき混ぜてぇ”
“ケッケッケ、これつまみ食いしちゃおーっと”


―-ああ、至福のひと時・・・!
天使の調とも言えるような、美少女三人のキャッキャウフフな声が、絶えず耳に飛び込んでくる。

「・・・栞菜、ヨダレぐらい拭いたら」
「ぶふっ」


目の前で雑誌を読んでいた舞ちゃんが、眉をしかめてポケットティッシュを顔面に投げつけてきた。もう、乱暴者め!


2月13日。

本日、お屋敷の1階は、濃厚なチョコレートの香りに満たされている。
その匂いの発生源は、普段はコックさんたちがせわしなく働いている、大理石の厨房。
そこを、今日はお嬢様と愛理、それから菅谷さん――通称中3美少女トリオが占拠している。そう、乙女の聖戦・バレンタインの準備のために。


去年は行きつけの超高級洋菓子屋さんのトリュフチョコ(1個1000円・・・だと・・・?)を寮生に振舞ってくれたお嬢様。あれもすっごく美味しかったけれど、なんといっても今年は手作りですよ手作り!じゅるり!


「ふふん、栞菜ってばそんなにはしゃいじゃって。たかがちしゃとの手作りチョコなんてさぁ」

そう言ってかっこつけてる舞ちゃんだって、結局気になって仕方ないから、こうして私と一緒にダイニングで待ってるくせに。

中学3年生以外は立ち入り禁止よ!これは命令よ!っていうお嬢様に従って、一応、私の趣味である覗き行為も自粛している。
んま、聞こえてくる楽しげなおしゃべりの声だけでも、私の心は果てなきファンタジー(妄想)の世界へと旅立っていけるからそれでいいんですけど。

「舞ちゃん、本当は楽しみなくせにー。だぁいすきなお嬢様の手作りだよ?さっきからそわそわしちゃって、雑誌のページ全然めくってないじゃーん」

めぐぅの煽り癖が移ったのか、よせばいいのに、私は舞ちゃんをからかう。
痛いところをつかれた舞ちゃんは、案の定目を吊り上げて反論してくる。

「べ、別に舞は・・・!っていうか、どーせ、栞菜はおっぱい型チョコとか、リボンを体に巻いた千聖が体にチョコ塗って・・・とかそういうの考えてるんでしょっ」
「うわーうわー舞ちゃん℃変態!さすがの私もそこまでは思いつかなかったかんな!やーいやーい℃スケベー!」

――嘘。ホンマは考えておったがな。でも、顔真っ赤でプルプルしてる舞ちゃんがかわゆくてたまらないから、そのまましばらくからかいつづけてやった。

「――っ!なんだよ、栞菜のくせに生意気!とにかく、ちしゃとの本妻は舞でしゅから!栞菜とは遊びに決まってるし!」
「へへん、私はのび太じゃないかんなっ。だいたい本妻とか言ってるけど、寝室を分けてる時点で私が勝ってるじゃーん」
「うるさいうるさーい!」


ガチャッ


「・・・誰かいるの?あら、栞菜?舞も、待っていてくれたの?」

あまりにも大声で、低レベルな争いを続けていたのが聞こえたのだろうか。調理場とダイニングのしきりにある、ステンレスのドアが開いて、チョコレートの強い香りとともに、お嬢様がひょこっと顔をのぞかせた。


「ハァーン!萌えー!」

鼻の頭にチョコがくっついちゃってて、その無防備な感じがどうたらこうたら!いつもなら私のキモ声に警戒するお嬢様だけど、なんだかご機嫌な様子で、ウフッと笑いかけてくれた。

「・・・別に、舞は」
「ウフフ。せっかくだから、味見をしてくださるかしら?」
「え、いいんですか!」
「ええ。私たち、だいぶ口に運んでしまったから、舌の感覚が麻痺してると思うの。味の調整をしたいから、お願い」

もちろん!とはしゃぐ私とは対照的に、舞ちゃんは「・・・ここで待ってる」ってそっぽを向いてしまった。・・・ありゃ、からかいすぎちゃったみたいだ。

「あら、でもせっかく待っていてくださったんですもの。舞にも食べてもらいたいわ」
「・・・そう?」

お、少し表情が和らいだ。

「ええ。自信作なのよ。ね、一緒に来て、舞」
「しょうがないなあ。ふふん。そんなに言うなら、舞が試食してあげてもいいけど」

無邪気な笑顔に、ついに舞ちゃん陥落。嬉しさをかみ殺した、不器用なその笑顔を見ていたら、罪悪感でちょっとだけ胸が痛んだ。

「ウフフ、よかった。栞菜も、一緒に行きましょう」
「あ・・・はい。あ・・・舞ちゃん」
「ん?」
「えっと・・・」

どう言ったものかと口ごもっていると、舞ちゃんはすっと指を突き出して、ペチッとデコピンを食らわせてきた。

「痛っ!」
「ま、これでいーよ。・・・あとね、言っとくけど、ちしゃとは渡さないからね。舞のなんだからねっ」
「ち、ちがうよ、私のだかんなっ」

――ああ、よかった。私は一人っ子だから、こういうちょっとした気まずさみたいなのを緩和する方法がどうもよくわからない。
なんだか本当の姉妹になれたみたいで、嬉しくて、思わず後ろからぴたっと抱きついた。

「うわっなんだよっ、舞は対象外じゃないの!?」
「んーっ、私のストライクゾーンは無限だかんなっ。舞ちゃん可愛いよ舞ちゃん」
「ウフフ、本当に仲良しなのね、二人とも」

引っ付き虫のまま、お嬢様の後に続いて、私たちは厨房へと足を運んだ。



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