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「よし、じゃあ整理しよう。梨沙子ちゃんが引っかかってるのは、学園祭の時にギャルメイクを控えるってこと?それとも、ギャルチームはなっきぃが自ら承認したのに、こんなに早く覆すのは納得できないってこと?」
「・・・・なんか、どっちも違う気がします」

直情型の熊井さんと違って、わりと慎重に言葉を選ぶタイプらしい梨沙子ちゃんは、まだくまくまボイスで騒ぎ続ける熊井さんの口におにぎりを突っ込んで黙らせると、私の方に向き直った。
チョウチョの触覚みたいにくるんと長いまつげが、パタパタと揺れる。

「別に、いいんちょーさんから許可が降りてたって、後でやっぱだめって思ったんなら、それはそれで仕方ないってわかります。それに、学祭の時にあんまり派手にしすぎると、お客さんが驚いちゃうっていうのも、わかってはいます」
「ふむ。じゃあ、そこまで理解してくれてるのに、梨沙子ちゃんの納得いかない部分っていうのは?」
「納得いかないっていうかぁ・・・」

そこで、梨沙子ちゃんは何故か瞳を揺らした。

「梨沙子ちゃん?」
「・・・だって、結局は梨沙子のワガママだし・・・でもでも・・・」

決まり悪そうに、しきりに手遊びを繰り返す梨沙子ちゃん。

正直、私は年下の子の扱いというのがあんまり上手くない。舞ちゃんやお嬢様ぐらい、密に接しているのならまた話は別なんだけど・・・。
どっちかって言ったら甘えん坊気質で、頼られるよりは頼りたい派の私としては、こんな時、どう話を引き出したらいいのかわからない。


「もぐもぐ・・・わ、わひゃった!りひゃこはひゃあ!」


すると、特大の鮭おにぎりをようやく咀嚼し終わった熊井さんが、得意満面で梨沙子ちゃんを指さした。


「な、なんだよぅ熊井ちゃん」
「梨沙子はぁ、ギャルの格好したいっていうかぁ、みやb」
「あばばばばばば」
「もが!ひりょい!りひゃこ!」
なぜか慌てだした梨沙子ちゃんは、2個目のおにぎりをまた熊井さんの口にねじ込んだ。


「みや?・・・・みやび?」
「あばばばばばあのその違うんでsあばばばあば」
「あはは、有名だよ。梨沙子ちゃんのみやヲタっぷりは」


去年の学祭で、愛理の晴れ舞台を見にBuono!のライブ会場に行った時、梨沙子ちゃんが最前で完璧なフリコピをしつつ「前の方の人はマサイ禁止!」「バルログは危ないからだめです!サイは2本まで!」とかわけのわからない専門用語を絶叫して現場を統制していたのは記憶に新しい。
梨沙子ちゃんはあの時、MIYABI NATUYAKIって書かれているTシャツをお召しになっていた。そりゃもう、誰がどう見てもみやヲタでしょうが。



「・・・・ごめんなさい」
「ん?何が?」

梨沙子ちゃんは律儀にも足を正座に直して、沈痛な面持ちで私に頭を下げる。

「だって・・・夏焼先輩の・・・」
「別に、梨沙子ちゃんがみやびのファンでもウチは別に・・・」
「あの、そうじゃなくて!わた・・・あばばばばばばば」


勢いよく顔を上げた梨沙子ちゃんは、なぜか目をまんまるにしたまま、固まってしまった。


「梨沙子ちゃん?」
私の顔を凝視しているのかと思いきや、よく見れば視線はちょっと外れている。
その可愛らしいおめめが捕らえる方向を辿って、背後に目線をやると、目を三日月にしたお嬢様・・・と、噂の人物が並んで立っていた。

「あー、みやだ!おつかれー」
「お疲れ様ー熊井ちゃん。えりかちゃんも、久しぶりー」
「ほんと久しぶりだねー」

予期せぬ来訪者に、私は嬉しくなって、自分の隣のスペースをぽんぽん叩いてみやびを呼んだ。

「ありがとー。・・・梨沙子ちゃんも、お久しぶりー。最近はっちゃけてるよねー!ほら、木曜日の、あの・・・」
「ああ・・・あああ・・・」

歓喜のあまり、だろうか。まるで追い詰められたホラー映画のヒロインのような表情で、梨沙子ちゃんはへっぴり腰でみやびから遠ざかる。


「ウフフ」

そんな梨沙子ちゃんを見て、お嬢様は満足げに笑ってまた定位置に座り込んだ。

「みやびさん、お昼ごはんはもう召し上がって?もしまだでしたら、千聖のサンドイッチはいかがかしら。今日は多めに持ってきていたから、ご遠慮なさらないで」
「えー、いいんですか?それじゃ、このタマゴのをいただけます?」


未だあばばば状態の梨沙子ちゃんと、頑張っておにぎりを咀嚼している熊井ちゃんを尻目に、2人はニコニコしながらサンドイッチを手に談笑している。
――そっか。お嬢様とは何気にいろいろ縁があって、わりと絡む機会が多いって前にみやびがメールで言ってたっけ。


見た目派手っぽいみやびと、(外見的には)大人しくておっとりしてそうなお嬢様の取り合わせは不思議な感じだったけど、2人には何か特別なつながりがあるようだった。

――でも、なんでいきなりみやびを連れて・・・?


「・・・ところで、みやびさん」

厚切りのサンドイッチをもぐもぐしながら、お嬢様はみやびの方に向き直る。

「みやびさんは、来週の学園祭では、どんな服装やお化粧をなさるのかしら?」


はーん?なるほど。
梨沙子ちゃんは、敬愛するみやびと同じ着こなしで、学園祭に臨みたかった、と。

すると・・・読めたぞ、お嬢様の意図。


「服装?ですか?」

みやびはお嬢様の言わんとすることがちょっとわからないらしく、首を左右にちょこちょこ傾ける。それを見た梨沙子ちゃんはヘヴン状態で「ハァーン」とか言ってる。・・・いつぞやのアイドルショップでのお嬢様の奇行に負けないキモさですな。


「ええ、学園祭は木曜日でしょう?みやびさんは、どうなさるのかと思って」
「ああ。ギャルの日ですね!・・・んーと」

みやびは少し考え込んだ後、申し訳なさそうな顔をした。

「今回はBuono!があるんで・・・メイクのテイストをロック系にしようかと思っていて。それに合わせて、制服も着崩す程度で、今回は元の制服の様式を大事にしようってももと愛理と話し合ったんです。
せっかくだから、お嬢様たちのメイクと同じようにしたかったんですけど・・・」
「めめめめっそうもござらぬ!あばば拙者共のようなギャルメイクは時代遅れでござる!フヒヒwwwなな夏焼先輩のメイクなどと比べる余地もないでござあばばばば」
「り、梨沙子ちゃん?」

緊張のあまり侍と化した梨沙子ちゃん。真っ白なほっぺたを紅潮させて、みやびの方を見たいんだけど見れない!でもチラチラ見ちゃえ!ウホッwwwやっぱり綺麗夏焼先輩!みたいな顔をしてる。なまじ地顔がかわゆい子なだけに、これはキッツいっスね・・・。


「すぎゃさん、では、来週のメイクは」
「ロックテイストに決まってるでしょうが!ギャルは延期延期!」
「やったー!これでなかさきちゃんの不治の病も完治するね!」


熊井さんにハイタッチを求められて、パチンと手を打ってから、私はやっと安堵のため息を漏らした。

「ふう・・・」

とりあえず、これでなっきぃの大きな心配事は去った。
ロックテイストのメイクとやらも、それはそれで大丈夫か気になるところだけど・・・。

それにしても、お嬢様ったら意外と知恵が回ること。梨沙子ちゃんの気持ちを動かすのに、最速で最善の方法を考えて、さっさと実行に移してくれた。
みんなが自分に学園の仕事をさせてくれないって悩んでいた頃とは大違いだ。小さな体がとてもたくましく見えて、まるで子どもの成長を見守るママみたいに感慨深い気持ちになった。

「あ・・・そうだわ、みやびさん」

ひとしきり動乱が収まってから、お嬢様は三日月の目をスッともとに戻して、微笑に変えた。
「はい」
「ウフフ。実は、1つご相談があるの。大きな熊さんとすぎゃさんも、千聖のお話を聞いてくださる?えりかさんも」



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