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なっきぃは翌日の火曜日も、水曜日も大事を取って学校を休んだ。
でも、もう完治間もないのは目に見えていたから、お嬢様ももう落ち込んだりしている様子はなかった。

何より、舞ちゃんと栞菜のダース●イダーマスクのおかげで、お見舞いができるというのが大きいんだろう。
シュコーシュコー言いながら、手話(昔少しだけ習ったことがあるとか)を使ってなっきぃと意思の疎通が図れるから、お互いにとって大きな支えになっているみたいだ。


「えりかさん、なっきぃのところに行きたいわ」

その夜もまた、お嬢様はダースマスクを片手に、私の部屋を訪れた。


「ふっふっふ」
「ケッケッケ」


予め待機していた舞美と愛理が、お嬢様に向かって笑いかける。


「あら、舞美さんと愛理もいらしてたの?」
「お嬢様、ご朗報があります!」
「なあに?」

小首を傾げるお嬢様の目のまえに、舞美が手を突き出した。


「・・・体温計、ですか?」
「ふっふっふ」

ドヤ顔の舞美とは対照的に、お嬢様は困った顔で舞美を見返す。

「あの・・・?」

「ん?あれ?」

予想外のお嬢様の反応に、愛理がひょっこり顔をのぞかせて、体温計を覗き込んだ。

「舞美ちゃん、もう表示消えちゃってるよ・・」
「あーっ!!」
「もう、舞美はドジなんだからぁ」

今は電源が落ちて、グレーの画面になってしまってる体温計。それを舞美から受け取って、私はお嬢様に手渡した。


「36.2℃です」
「え・・・?」
「なっきぃの、さっき計った体温。なっきぃ低体温だから、いつもより0.3℃だけまだ高いけど、もう平熱の範疇と考えていいって、お嬢様の主治医さんが」


お嬢様の顔が、パアッと明るくなる。
こんな満面の笑顔、久しぶりに見たかもしれない。ここにいない舞ちゃんや栞菜が見たら、こないだの梨沙子ちゃんぐらい、可哀想な感じになっちゃいそうだ。

お散歩待ちのわんちゃんみたいにそわそわしてるお嬢様の手から、ダー●ベイダーさんを受け取って「どうぞ、お2人でごゆっくり」とドアを開けると、もう待ちきれないとばかりに、弾丸スタートダッシュで部屋を出て行った。

「・・・あ、えりかさん」

と思ったら、首だけドアの外からひょっこりのぞかせたお嬢様。

「ウフフ・・・そのマスクは、お部屋に飾るから取っておいてね」
「ええ、もちろん!」

「よかったねー。お嬢様、なっきぃに会いたがってたからね」

ほんわか笑顔の舞美と愛理。舞ちゃんたちほど過激なことはしないものの、心優しい二人は、やっぱりお嬢様となっきぃのことをとても心配していたみたいだった。


「ねえ、お茶でも飲んでかない?お嬢様の極上スマイル記念に」
「うん、ぜひ!えりのミルクティ、美味しいんだよねー」
「まあ、あの笑顔を引き出したのが舞じゃないのは不本意でしゅけど」
「なっきぃは仕方ないかんな。お嬢様のハートキャッチプリキュフフだかんな」

「・・・二人とも、さりげなく部屋に侵入するのやめてくれるかしら。」

いつの間にかテーブルの前にちょこんと座っていた、お嬢ヲタツインズ。結局いつものメンツが揃ったので、そのままにぎやかなガールズトークに花が咲いた。
あちらの部屋からも、お嬢様となっきぃの笑い声が聞こえてくる。

「あ、そうだ、えり」

ふと舞美がカバンを手繰り寄せて、私の前にスッと冊子を差し出してきた。

「これ、学校新聞見たよー!《緊急》生徒会副会長兼風紀委員長・中島早貴 復学セレモニー開催!《参加者求む!》・・・何か面白そうじゃない?えり、主催なんでしょ?もちろん協力するよ!」
「あ、私も見た!今朝梨沙子と熊井さんが、学校中に配布して回ってたみたい。決行って明日でいいんだよね?」

「うん。なっきぃも明日には登校できそうだし、予定通りやれそうなんだ」

お嬢様提案の、なっきぃを喜ばせるためのドッキリ企画。
さすがお嬢様の影響力と言ったところか、新聞部はもちろん、生徒会メンバーにまで質問に来る人がいるほど、反響があった。

「佐紀と茉麻も、明日アナウンスが必要ならまかせてって言ってたよ!」
「へー、なっちゃん人気者だねぇ」

厳しい面もあるけど、模範生でしっかり者で、尚且つ可愛いとこもあるなっきぃは、どうやら予想以上に生徒たちからの人望も厚いみたいだった。

「んま、それはそうと・・・千聖、遅くない?」

時計を見ると、もうお嬢様がなっきぃの部屋に行ってから、2時間以上経過している。

話がはずんでるのはいいことだけど、病み上がりなんだからあんまり無理はさせたくない。
そう判断して、私たちは連れ立ってなっきぃの部屋に向かった。


「おーい、なっきぃ。お嬢様ー。明日も学校あるんだから、そろそろ――」


ノックとともに声をかけるけど、返答がない。

「千聖、なっちゃん、入るよー」
「あっ、こら!」

全く遠慮なく、私の横をすり抜けて、部屋の中に入っていく舞ちゃん。
その背中を追いかけて、部屋の廊下を抜き足差し足で進んでいくと、くるっと振り返った舞ちゃんが、唇の前で人差し指を立ててシーッとしてきた。


「寝てる・・・」


なっきぃはベッドの中で、お嬢様は座り込んで、顔だけお布団に伏せった状態で。2人はおでこがくっついちゃいそうな距離で、気持ちよさそうに小さな寝息を立てていた。

「もう、風邪引いちゃうよ。バカちしゃと・・・」

二の腕を掴んで引っ張ろうとした舞ちゃんは、ふと手を止めて、パタパタと部屋を出て行った。


そのまま、すぐに黒いナイロンバックみたいなのを持って戻ってくる。


「ん?なーに、それ」
「寝袋。一晩ぐらい、これで大丈夫でしょ。暖房でポカポカしてるし」
「なるほど」

皆で手際よく寝床の準備をして、舞美にお姫様抱っこされたお嬢様の小さな体が、寝袋の中にすっぽりと納まる。


「・・・なんか、このまま帰るの名残惜しいなぁ」

珍しく、愛理がポツンとそんなことを言う。
これがお嬢様親衛隊のお2人からの発言なら、おいおいコラコラあかんがなと嗜めるところだけど、これには私も舞美も心動かされてしまった。たしかに、部屋に戻るの寂しい・・・。


「・・・やっちゃいますか」
「久しぶりにやりますか」
「でも、静かにね。2人が起きないように」
「そーっと、そーっと」
「ケッケッケ、わがまま言ってごめんねー」


数分後。
それぞれのmy布団を持ち寄った私たちは、再びなっきぃの部屋に集合していた。

「修学旅行みたいだねー」
「何かワクワクするね!」

全員分の布団をキチキチに敷いて、2人を起こさないよう静かに床に就く。

「明日の朝、なっきぃびっくりするだろうね。ある意味プレどっきりみたいだね、とかいってw」

「こら、栞菜なにやってんの、ちしゃとから離れろ、もう!」
「もー、静かに!」

お嬢様の寝袋に無理やり入ろうとする栞菜と、プロレス技でそれを阻止する舞ちゃんのサイレントコントに笑いをこらえながら、私たちも眠りについた。


*****

「キュフフ・・・愛してるぅ、やっぱ愛してるぅ~、バリバリ愛してるぅ~」

まだほっぺの色は少し悪いけど、鏡の中では、すっかり隈も取れた自分がニコニコ笑っている。
こんなに学校を休んだのは初めて。罪悪感や焦燥感もあったけど、今はゆっくりしてよかったと思っている。

今日は、明け方に一度起きたら、みんなが私の部屋で寝ていた。心配性なみんなの思いやりが嬉しくて照れくさくて、「一旦部屋にもどりなさーい!」なんて、いつもの私らしいお小言をかましてしまった。


「キュフフフ、もうすぐ行くからね、千聖お嬢様」

現在、午前11時30分。
制服を着こんで、ドレッサーの前に座り込んでから、1時間近く経っている。
一応、今日はお昼から登校する予定になっているけど、我ながら随分長い時間、準備に取り掛かっていると思う。
それにはもちろん理由がある。

学校を休んでいる間、私も自分なりにいろんなことを考えた。

嗣永さんに、頭固いって言われちゃったこと。
私の胃痛で、お嬢様の楽しみを邪魔してしまったこと。

そういうのを、本当にそのままでいいのかじっくり考察して、私はとある結論に至った。

「んー・・なんか恥ずかしいかも・・・でも、せっかく・・・キュフフ」


さっきから何度となく口から出る独り言も、病み上がりのテンションの前では、大した抑制にはならないみたいだった。
鏡の前で、念入りに“最終確認”を行うと、私は部屋の電気を消して、学校に向かった。



そして、たどり着いた校門前。
どうも融通が利かないというか、基本的に小心者な私は、今更“この状況”を人に見られるのが怖くなってきた。
だって、久しぶりに学校に来たと思ったらこんな・・・いや、でも大丈夫!何てったって、今日は!

いつもの数倍の緊張感を持って、おそるおそる敷地内に足を踏み入れる。その瞬間、門の両側からパーン!!!とものすごい音が鳴った。


「ひえっ!!」

思わず足を止めると、どこからか「せぇーのっ」って声がして、それと同時にたくさんの女の子たちが、私の前に立ちはだかった。



「「「「「おかえりなさい、風紀委員ちょ・・・・え、・・・・あれ?委員長・・・さん・・・?」」」」」



だけど、その祝福の声は、私の姿を見た途端、バラバラになってざわめきに変わってしまった。


「な・・・なっきぃ?どうして・・・」

最前列で、いつもどおり清楚に制服を着こなしたお嬢様が、切れ長の目を見開いて、まるで泣き出しそうな顔になっている。

――どうして、って。それはこっちが聞きたいケロ!だって、今日は・・・


「きょきょきょうは、木曜日でしょ、お嬢様!!!」


そう、今日はギャルの日。お嬢様や友理奈ちゃん、梨沙子ちゃんを中心に、学園中が派手派手メイクを楽しんでいるはずなのに、私を迎えてくれた人たちの、誰一人としてそれをやっていない。


「あの、ぎゃ、ぎゃるはもう、先週で卒業したのよ・・・?あの、その、今日はわ、私・・・なっきぃを驚かせて、喜んでいただこうと思って・・・あのフガフガフガ」
「ションナ・・・!」


よく見れば結構な数の生徒たちが、この場に集結している。私の担任の先生や、風紀委員会の先生まで。

そして、中等部の子も高等部の生徒も、みんな一様に、“お手本どおりの制服の着こなし”をしていた。

白か紺のハイソックス。
スカート丈はちょうど膝こぞうが出るくらい。
ワイシャツは第一ボタンまでカッチリ締めて、ネクタイもリボンも緩く結ばない。
髪の長い生徒はポニテかお下げ髪に結わいて、メイクは色つきリップまで。

そう、まるで普段の私のような・・・。


「な、なっきぃ・・・」
「いいんちょうさぁん・・・」


寮や生徒会のみんなは、(えりこちゃん以外)普段からそう着崩していないからいいとして、新聞部コンビや熊井ちゃん、普段ギャルっぽい人たち、それに、なななんと嗣永さんまで、今日はまともに制服を着ている。
それは、私の理想とする学園風景のはずなのに。なんで、よりによって今日なんだケロ!

「ギュフゥ・・・」


みんな、口をあんぐり開けて、私の姿に見入っている。無理もない話だ。


カラースプレーで、金茶に染めた巻き髪。
繊維入りのマスカラを7度塗りしたまつげ。
ダンス部の舞台用のゴンぶとアイライナーの上で踊る、金色のラメ達。
ねちょねちょぬめるほど塗りたくったパールピンクのグロス。


私は今日一日だけ、思い切ってお嬢様と一緒にギャルを楽しむつもりでいたのだ。なのに、なんなのこの仕打ちは!あんまりだケロ!

「あはは、なかさきちゃん!そんなにシャツ開けたらブラ見えちゃうよ!それにスカート短くしすぎ!!うちのことわかめちゃんって言うけど、なかさきちゃんだって、オレンジのパン」
「もー、熊井ちゃん無神経!パンツ見えてるとか大きい声で言ったら可哀想でしょ!いいんちょーさんは着崩しなれてないんだからしょーがないのっ」


梨沙子ちゃんのとんちんかんなお気遣いが、まるで遠くの世界のお話みたいに耳を滑る。


ど、ど、どうしよう、私、今日あと半日、この格好で過ごすの?こんなに大勢の生徒がマトモな格好で生活している中、1人でアホみたいなメイクに、超ミニスカート&ルーズソックスで?


「い、い・・・いやああああああ」
「なっきぃ?しっかりなさって!すぐに予備の制服を・・・」


お嬢様の優しい声が遠ざかっていく。
ハムスター並みに気が小さい私は、慌てて駆け寄ってきたみぃたんのたくましい腕の中で、意識を手放したのだった・・・。



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