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「へーっ、後輩にチョコもらったんだー。ふーん、あっそー、へー」
「す、すみません・・・」

寮のロビー。
向かいのソファでふんぞり返った舞様の、突き刺すような視線が私の全身を貫く。

「別にいいけど。千聖にもらったとかだったら、命の保証はなかったけどね」

ニヤッと唇を歪める舞様。・・・笑ってるけど、笑ってない。

「舞ちゃんだって、結構人気あるほうなのに。チョコ、もらってないの?」
「・・・まあ、それはご想像にお任せします」

舞のファンの人はおくゆかしいんだよ、と、どちらとも取れる発言でうやむやにする舞ちゃん。

あんまり突っ込むと、どっかでスイッチが入って超絶不機嫌モードになってしまうかもしれない。
そう判断してとりあえず口を噤むことにした。

「・・・でもさ」

すると、ほとんど間を空けずに舞ちゃんはまた口を開いた。

「舞たち、不毛だよね。こんなに千聖のこと思ってるのに。千聖はさ、ももちゃんだの舞波ちゃんだの、寮生じゃない人にまで懐いちゃって」
「・・・まあ、私たちへのチョコのことだって、本当にただ単に忘れてるだけって感じだよね。」
「そう、そうなの。あんまり近くにいすぎて、うちら完全に空気化してるんだと思う。
ももちゃんに聞いた話だと、千聖、あのさゆみさんにまでチョコ送ったらしいの。どう考えても重要度が違うでしょうがっ!」

心底気にくわないといった表情で、舞ちゃんがガンッとテーブルの足を蹴る。


「なんだか・・・寂しいわね。心にぽっかり穴が開いたみたい。私も、新しい恋を探したほうがいいのかしら」


なんとなくノリで、そんなことをつぶやいてみる。
自分ではシリアスな少女漫画の主人公をイメージしてたんだけど、舞ちゃんはウーロン茶をブッと吹き出した。


「いや、笑うところじゃないし!」
「っていうかそんなキャラじゃないじゃん。ま、栞菜がちしゃとをあきらめるっていうなら舞は全然止めないけど?
その新しい恋(笑)とやらを応援してあげるけど?このロリータコンプレックスが」
「いやいやいや冗談だって!私はお嬢様一筋だかんなっ!舞ちゃんが一人寂しく眠ってる時間、私は毎晩たっぷり楽しませてもらってるんだからね!グヒョヒョヒョ」

「・・・あら、私が何を楽しませてさしあげてるのかしら?」

ちょうどそのタイミングで、横の中庭用の扉がガチャッと開いた。

「お嬢様!」
「ごきげんよう。舞、栞菜」

可愛らしいグリーンの部屋着をまとったお嬢様が、にっこり微笑みかけてくる。

「はぁーんお嬢様ぁん!」

勢いでギュッてすると、お嬢様は小さな悲鳴を上げて、軽くほっぺをひねってきた。

「もう、栞菜はどうして抱きつくの!離しなさいっ!・・・今、お2人だけ?みなさんはいらっしゃらないのかしら?」

私の行動とお嬢様の問いかけに、眉間の皺を深くする舞ちゃん。

「・・・なっちゃんなら本屋さん行ったけど?愛理と舞美ちゃんはまだ学校だよ。えりかちゃんは駅ビルにお買い物。舞たちしかいなくて悪かったねっ」
「もう、どうしたの舞ったら。私は、舞と栞菜を探しに来たのよ」
「え・・・」
ウフフと笑って、私達を手招きするお嬢様。
誰もいないって言ってるのに、キョロキョロしながらあたりを伺う念の入れ様。
ひらひらと、ちょうちょみたいに軽い足取りで、千聖お嬢様は中庭を駆けていく。その可愛らしい後ろ姿を見ていると、さっきまで思わせぶりでもやもやさせられていたことさえ、すっかり忘れてしまう。

「もう、なんなの、千聖」
「ウフフフ・・・着いてからのお楽しみよ」
「仕方ないなあ」

唇を尖らせる舞ちゃんも、もう優しい眼差しになっている。
こんなに振り回されて嬉しいなんて、私も舞ちゃんもかなり末期症状だ。


「め・・村上さん。2人をお連れしたわ。準備は整っていて?」
「おかえりなさいませ、お嬢様。もうこちらはいつでも大丈夫ですよ。」

玄関先で待っていためぐとお嬢様の、主語を省いて通じあってる会話。
私達の方を見て、2人してふっふっふと不敵な笑顔を浮かべてくる。

「なーに?なんだよう・・・」
「こっちよ。着いてきて」
「え・・・こっちって」

普段はまず使うことがない、立食パーティー用のお部屋。
三日月目のお嬢様は、その大きな扉に手をかけて、一気に全開にした。



「う・・・わあ・・・」



キラキラクリスタルのシャンデリアの下に、お屋敷のコックさんが2人と、執事さんにメイドさん。
一斉に、私達の方へ向けて粛々とお辞儀をしてくれる。

「お待ちしておりました、お嬢様方」
「は・・・はあ」


未だにお嬢様の意図がわからないのと、こんな瀟洒なお部屋に足を踏み入れる緊張感で、背中を変な汗が滑り落ちる。


「ウフフフ、大丈夫よ、栞菜」

そんな私の気持ちを察してか、お嬢様のぷにぷにした手が私の手を包む。
その柔らかくてあったかい感触にデレていると、思いっきり舞ちゃんに足を踏まれた。

「よくもやったな!」
「もう、喧嘩しないの。・・・ほら、二人とも見て」

楽しそうにケラケラ笑うお嬢様が、部屋の奥をスッと指差す。
ワゴンの上に置かれた、四角い箱。ワインレッドの布に覆われていて、中身は見れないけれど、かなり大きなものらしい。

いつの間に移動したのか、めぐぅがその横に立って、すました顔でこちらを見ている。


「なぁに?あれ」
「ウフフ・・・村上さん、お願い」
「かしこまりました、お嬢様」

布が一気に取り払われた。

「・・・んん?」


透明なアクリルケースの中に聳え立つ、茶色の塔。

何が何だかわからなかったけど、ワゴンが近づいてくるうちに、その正体がわかった。

「舞これ知ってる!」
「チョコファウンテンですね!」

そう、パーティーでよく見かける、チョコレートの泉。
てっぺんからトクトクと流れる茶色いソースに、自然とほっぺたが緩んでいく。
アクリルの蓋が外れると、芳醇なチョコレートの香りが室内にふわーっと広がった。

「すっごーい・・・!」

中央テーブルの上に移動したチョコファウンテンの周りに、コックさんたちがてきぱきと果物やパン、アイスクリームを飾っていく。

「どうぞ、お掛けになって」

うながされるまま、お嬢様の隣に着席する舞ちゃんと私。
お嬢様の目配せで、めぐぅたちは部屋から出て行く。三人ぼっちだ。

「・・・千聖ぉ、これって」
「ウフフ・・・・・私から2人への、バレンタインギフトよ」
「お嬢様・・・」

まさか、まさかこんなVIP待遇を受けることになるとは。
驚くのと同時に、一瞬でも「新しい恋が・・・」なんて思った自分がアホすぎてへこんだ。
「うー・・ごめんね、お嬢様ぁん・・・やっぱり栞菜はお嬢様じゃなきゃだめな体なんですぅう」
「えっ?ど、どうなさったの?どうして泣いているの?栞菜?私何かご不快なことを・・・もう、どうしてそんなところに触るの!」

フガフガ言いながら暴れるお嬢様と、半泣き状態の私にあきれつつ、「早く食べよう」と舞ちゃんが促してくる。

「そうね。ウフフ、舞、こっちにイチゴがあるから召し上がって。栞菜はメロンがお好きだったわね?お取りするわ。他に何か食べたいものはあって?」

お嬢様は2人分のお皿を手に、かいがいしく私達の分を取り分けてくれる。
ちょっとぎこちない盛り付けと、はにかんだお嬢様の笑顔がたまらない。

「うん、美味しい」

肝心のチョコレートも、予想通りというかさすがセレブというか、すぐに口の中いっぱいに旨みが広がっていく。
お嬢様のお好みなのか、割とビターですっきりしている。
甘い物はそんなにガッツリ食べない私でも、その優しい味わいに、手が止まらない。

「喜んでいただけて嬉しいわ。」

それに、こんなかわゆい笑顔のお嬢様が、すぐ近くにいてくださるんですから。グヒョヒョヒョ

「・・・ところで、お嬢様。どうして私と舞ちゃんだけ、バレンタインのプレゼントがこういう形だったんですか?」

メロン5切れ、バナナ2切れ、パンを1個食べたところで、私は改めてお嬢様にそう問いかけてみた。

「あ、たしかにそれ舞も気になる」
「むぐ・・・えっと、それはね」


私達以上にチョコファウンテンを堪能していたお嬢様。
鼻の頭にチョコをくっつけたまま、はにかんでウフフと笑う。

「舞と栞菜は、いつも私がびっくりするようなことをたくさんするでしょう?
だから、バレンタインデーは千聖が2人を驚かせてみたかったの。
2人にだけチョコレートを差し上げないから、舞、拗ねていたでしょう?ウフフ・・・どうだったかしら?」

――なるほど。何にも気づいてないような顔して、本当は私と舞ちゃんが焦れていたことなんてお見通しだったわけか。意外と役者だな、お嬢様!


「・・・私は、嬉しかったですよ」
「舞も。こんなに豪勢にもてなしてもらえるなんて思っても見なかった」
「あら・・・でも、そう言ってくださるわりには、2人ともお顔が曇ってるわ」


確かに舞ちゃんは面白くなさそうな顔をしている。
私も、自分がちょっと拗ねたような顔してるっていう自覚はある。

「だって・・・」
「嬉しいけどさ・・・」


「「やっぱり、一人だけ特別扱いされたかった!!!」」


綺麗に声が揃って、思わず顔を見合わせる。


「は・・・はぁ!?何言っちゃってんの!?栞菜のくせに、ずうずうしいんじゃないのっ」
「何だとー!舞ちゃんがどう言おうと、私がお嬢様の寝顔を独占してるっていう事実は変わらないんだから!私がお嬢様の特別!はい論破!」
「敗走乙www栞菜なんて、寝る前のほんの1時間ぐらいしか千聖のそばにいないくせに。あとの時間は舞だけの千聖なんだから、舞が千聖の特別!これが最終決定だから!はいもう反論してもムダー」
「・・・ウフ、ウフフフ」

お猿の威嚇のごとく、キーキーとわめく私達を見て、お嬢様はお腹をかかえて笑い出した。

「ちょっとぉ、笑うとこじゃないんだけど!」
「ウフ、ウフフフウフウフウフフフ・・・本当に面白いのね、舞と栞菜は。
バラエティ番組の芸人さんたちより、ずっと言葉が豊富で楽しいわ」

――すいません、それ褒められてる気がしないんですが。


「あのね、私は舞も栞菜も大好きなの。だから、どちらかだけを選ぶなんてできないわ。それではダメかしら?」


無意識か、確信犯か。お嬢様は困り眉+アヒル口+上目づかいという超絶破壊コンボを繰り出して、私たちの顔を交互に見比べた。


「・・・んま、いいでしょう。そっか、舞のこと大好きなんだぁ。ふふん。大好きかぁ」
「ちょっと、何でハブんだよ!栞菜も、でしょ!・・・ところでお嬢様、そんなかわゆい顔見せて、今夜無事で済むと思ったイダダダダダ舞ちゃんスネ蹴るのは反則だかんな!」
「もう、そんなに暴れないの。それより、せっかくなんだからもっと食べましょう」


笑顔で私たちに、チョコのかかったフルーツを差し出して来るお嬢様。

――いや、あのですね。お気持ちは嬉しいですし、チョコは美味しいんですけど。いかんせん、量が・・・どう考えても3人分じゃない。もう、おなかがパンパン・・・


「あの・・・お嬢・・・」
「ウフフ。こんなに喜んでいただけるとは思わなかったわ。舞と栞菜の美味しそうな顔、いっぱい写真に撮って、皆さんにお見せしようかしら」
「今から撮るのかよ!」
「そうよ。はい、笑って?それから、全部食べ終わるまで退席は許さないわ。命令よ!」

私達の抗議の声もなんのその、お嬢様はまた脳天を破壊するようなかわゆい表情で、デジカメを構え始めた。


「あかん、天国という名の地獄や・・・」
「やっばい、舞ダイエット中なのにぃ・・・」


かくして、苦行のようなバレンタイン第二ラウンドは幕を開けのだった・・・



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