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来賓室に面したテラス。

一般生徒は立ち入り禁止のその場所を眺めようと、たくさんの生徒たちが、裏庭の垣根から首を伸ばしている。
私も例に漏れず、取材メモを手にした千奈美とともに、野次馬のなかに紛れ込んでいた。


「・・・ねー、誰、あの人?」

私の質問に、千奈美は呆れ顔を向けてくる。

「えっ、知らないで来たわけ?」
「いやー、だって、何か楽しそうだったから」
「もー、熊井ちゃんはぁ」


私達の視線の先には、テラスでくつろぐ千聖お嬢様と生徒会長。それと、生徒会の幹部が数人。
そして、その向かいのグランドピアノに腰掛けている人――彼女が、みんなのお目当の人物のようだ。


「あの人だけ、制服違うねー」
「・・・マジで何も情報持ってないんだね、熊井ちゃん。逆に尊敬するわぁ」

千奈美いわく、うちの学校の姉妹校の生徒会長さんで、マノさん、という人らしい。
濃紺のセーラーカラーに、朱色のスカーフというそのクラシカルな装いは、上品そうな顔立ちのその人によく似合っている。


「何か・・・異空間って感じだね」
「わかる!あそこだけお嬢様学校みたい」


お嬢様たちは、みんな一様に足をぴったり閉じて、膝の辺りに柔らかく手を置いたまま、凛と姿勢を正して何やら談笑している。


笑うときだけ口元を隠すって、何か上品っぽくて素敵やん。今度真似してみようかな。


「マノさん、今度の学園祭の時に、特別ゲストでピアノリサイタルやるんだって。その打ち合わせじゃないかな?」
「へー、そうなんだ」


その言葉を裏付けるように、ピアノの音色が流れてきた。
マノさんの演奏が始まったらしい。
いっせいに、生徒たちのどよめきが収まる。


「綺麗な音・・・」

細い指が奏でるメロディーは知らないものだったけど、まっすぐで力強い音が胸に響いて、聞き心地がよかった。
さすが、ゲスト演奏が許されるだけあって、かなりの腕前だ。


「ね、ね、もう少し近くで見てみたいな」
「あ、そう?新聞部でさ、来賓室から出たところを直撃しようと思ってるんだ。今雅とか、他の新聞部の子が今ドア前に潜伏中。そろそろ合流するけど、熊井ちゃんも行く?」
「いいの?」

マノさんに、友理奈熊井の滑る話を披露しないなら、というよくわかんない条件をとりあえずのんで、私も千奈美の後に続いて校舎の中に戻って行った。



来賓室の扉の前まで行ってみると、何だかやけにザワザワしていた。

「新聞部です!マノさんにインタビューさせていただきたいんですが!」

みやを筆頭に、新聞部の腕章をつけた人たちが、マノさんやお嬢様たちを囲んでわいわいしている。


「困りますっ!マノさんは学園の方ではないんですからっ」
「節度ある取材をしてください!・・・こら、聞いてるのかみやびっ!」

Wサキちゃんズが押し返そうとするも、みんななかなか引き下がらないから、すし詰め状態になっちゃって大変なことになっている。
困ってる先生たちの顔を見ていたら、私は何だか無性にむかむかしてきた。


「・・・」
「熊井ちゃん?」

無言で歩み出て、胸いっぱいに空気を吸い込む。


「・・・・新聞部のみなすゎーん!!!困ってるじゃぬゎいですか!!強引な取材はやめてくだすゎいっ!」


ちょっと力みすぎて声が裏返っちゃったけど、みんな私の声を聞いて、いっせいに振り向いてくれた。

何しに来たんだよ、熊井ちゃん・・・という千奈美の突っ込みは聞かないフリ。
やっぱり、外部の人を困らせたりするのはよくないと思ったんだもん!


「あら・・・大きな熊さん?」

輪の中からひょっこり顔を出したお嬢様が、私を見て楽しそうにクフフと笑った。

「お嬢様、今助けてあげますからね!」
「ちょっとあなた、熊井さんだっけ、邪魔しないでくれる?私達には知る権利が――」
「ジャーナリズムがどうたらこうたら」


新聞部の人たちが、何だかよくわからない単語で、私のことを攻め立ててくる。


「で、でもでも・・・」

いっせいにガーッと文句を言われたからか、何だかくやしくなってきた。しかも、専門用語使ってくるから、うまく言い返せないし!


「・・・あのー」

その時、今度はお嬢様の横から、あまり耳馴染みのない声が聞こえた。

マノさんだった。
ゆっくりと、新聞部のみんなのところに歩いていく。おっとりと、それでいて皆を黙らせてしまうような不思議なオーラ。
シーンとなった廊下に、マノさんのスリッパの足音だけがパタパタ鳴る。


「学校新聞の取材ですよね?私、お受けしますけれど」
「本当ですか!!」
「はい。ご期待に副えるかわかりませんが」

なかさきちゃんと佐紀先輩が護衛につくという条件で、マノさんはインタビューに応えることになったらしい。
新聞部の人たちに囲まれて、部室の方に歩いて行く途中、律儀に私にまで会釈をしてくれた。
ローズ系のコロンの香りがふわっとただよう。


「はー、なんか住む世界が違うって感じだぁ・・・」

千聖お嬢様とはまた違うタイプのお嬢様って感じ。
慎ましくて洗練された振る舞いに感動して、私はしばしその後ろ姿に見入ってしまったのだった。



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