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それからも何度か、マノさんはうちの学校に足を運んでいるみたいだった。
たまに見かけることがあって、そういうときはいつもお嬢様がお隣にいた。

なかさきちゃん曰く、お嬢様同士で居心地がいいんじゃないかな、って。
なるほど・・・。そう言われてみると、普段は結構ぽーっとしてて話しかけやすい千聖お嬢様が、マノさんと一緒にいる時は、妙に大人っぽいっていうか、いつも以上に立ち振る舞いがしっかりしているようにも見える。

いっつもお嬢様にセクハラしてる栞ちゃんとか、ずーっと一緒に居る舞ちゃんも、さすがに入っていきづらいのか、何となく遠巻きに観察している様子だ。


「ごきげんよう、大きな熊さん」

その日も、学園祭のステージ下で作業をしていると、2人は連れ立ってやってきた。
声をかけられた私だけじゃなくて、周りのみんなもいっせいに手を止めて、畏まった口調で挨拶を返す。


「あ、ごきげんようお嬢様。・・・と、」
「ごきげんよう。マノといいます。漢字は真っ直ぐの真、に野原の野です」
「ど、どうもご丁寧に。あの、熊井です。動物の大きいヒグマとかの熊に、おばちゃんたちの井戸端会議の井」

なるべくわかりやすく説明したつもりだったのに、後ろの方から失笑みたいなのが聞こえた。ちょっと耳が熱くなる。


「熊井さんですね、先日は来賓室の前で、どうもありがとうございました」
「あ・・・覚えててくれたんですね!」
「もちろんです。ステージのお仕事をなさってるんですか?私、学園祭でピアノの演奏をさせていただくんです。当日は何かとご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」


清楚で礼儀正しいだけじゃなくて、私みたいな下々の者にまで気を配ってくださるとは!
ニヘニヘと笑ってるうちに、マノさんはお嬢様に誘導されて、当日控え室になる部屋に入っていってしまった。


「はー、何かやっぱいいなあお嬢様って」

私は数日前に読んだ、新聞部の真野さんへのインタビューを思い出した。

趣味はオペラ鑑賞と乗馬。好きな作家はシェイクスピア(おーロミオーって人だよね?)。好きなお花はリンドウ(林道?)。好きなお菓子はガトー・オペラ(じゃがりことかじゃないの?)。

自分に馴染みのない単語がちりばめられた一問一答を読んで、思わず梨沙子と2人でため息をついてしまったほどだ。

取材カメラに向かって微笑む顔も、まったく隙がない。
うちの生徒会長さんもかなり美人だと思うけど、全然違うタイプの美形って感じ。何か、何もかもが完璧すぎて恐ろしいくらいだと思う。
いつもはおふざけ要素も多いみやの文章まで、かしこまって格調高い感じになっていた。

さすがにお父さんお母さんの職業とか、そういう超プライベートなことは書いてなかったけど、きっと千聖お嬢様のお家みたいな、大きくて豪華なお屋敷に住んでいるんだろうな。



「あれー?今誰か来てたの?」

丁度、お嬢様ズと入れ替わるように、舞台上でリハーサルをしていたももとみやと鈴木さんが降りてきた。

「うん、姉妹校の・・・」
「あー、真野ちゃん?そっかそっか」

ももの顔がパァッと明るくなる。

「もも、知り合いなの?」
「うん、前に交換授業でね、あっちにお邪魔したときにちょっとね」
「へー!何か全然キャラ違うのに。何か意外かも」

いっつもテンション高くてぶりぶりで、お嬢様っぽさなんて全然ないももと真野さん。
共通の会話すらなさそうなのに、まさか“真野ちゃん”呼ばわりとは!


「ももって怖いものしらずぅ。あんなお嬢様に真野ちゃんだなんて」

すると、ももは一瞬、ん?と目を丸くして首を傾げた。

「お嬢・・・ああ・・まあ、もぉはもぉだもーん。人に合わせて態度変えるなんて、もぉのポリシーに反するんですぅ」
「でもでも」
「んま、そんなことより、今奥にいるんでしょ?真野ちゃん。そろそろごはんだし、ご一緒しようかな。くまいちょーも一緒にどう?」


――何か、言いくるめられちゃったような気がしなくもないけど・・・。あんなハイクラスのお嬢様2人とお弁当を共にする機会なんてめったにない。
結局興味のほうが勝って、私はももと一緒に控え室に入った。


「どーもー!真野ちゃーん」
「・・・あっ!おひさ、しぶりです」
「むふふ」


お嬢様と和やかに談笑していた真野さんは、ももの姿を見ると、ガタッと椅子を鳴らして立ち上がった。
ももが来たのがよっぽど驚きだったのか、めずらしくちょっと慌ててるみたいだ。


「あら、ももちゃん。」
「千聖も、おっす!ねーねー、ご飯まだでしょ?お昼休みだしさ、一緒に食べよっ」

2人の返事も聞かずに、ももはさっそくナプキンを広げだした。私も慌てて席に座ると、朝買った購買のパンを取り出す。


「もう、ももちゃんはマイペースね。・・・真野さん、ここでお食事をとってもよろしいかしら」
「え、ええ。よろこんで。」

苦笑しつつ、お嬢様ズもお昼ごはんを机の上に出し始めた。

今日のお嬢様は・・・ピンクの漆塗りのお弁当箱に、ツヤツヤの鳥の照り焼きや煮物、俵型のオニギリが詰まっている。まるで懐石料理みたいだ。

「すごーい、お嬢様の美味しそう」
「あら、嬉しいわ。良かったら大きな熊さんのパンと少し交換しましょう。ウフフ」

ごはん大好きなお嬢様の笑顔をもらったとこで、今度は真野さんのお弁当に視線を移してみた。


「・・・おおっ」


シンプルなアルミのおっきなお弁当箱に、でっかいトンカツと千切りキャベツがどーんと乗っかっている。とってもビッグなソースカツ丼のようだ。


「いいねぇ、真野ちゃんのお昼!」
「あ、きょ、今日はあの・・・生徒会の幹部が、お弁当を用意してくれたんですが・・・」
「へー、優しいんですね!それにおいしそー」

ソースカツどんって、私の中の真野さんのイメージとはだいぶ違うけど・・・でもこれはこれで美味しそう。


「あ、で、では私、お化粧室をお借りしますね。お先に召し上がっていてください」


真野さんは顔を赤くしたまま、小走りに部屋を出ていってしまった。


「真野さん、お手洗いの場所、おわかりになるかしら?」
「うん、ステージ建ててあるからわかりにくいかも・・・ちょっとうち見てきますねっ」

私も慌ててドアを開けて、真野さんを探す事にした。


数分かけて、近場をぐるりと歩き回ってみたけれど、セーラー服の生徒はどこにも見当たらない。

「・・・んー、いないなあ。」

少し場所を変えて、一番近くの校舎の廊下に足を運ぶと、階段の端っこから声がした。


「・・・だから・・・なの!だって・・・」


こっそり顔を覗かせてみる。・・・真野さんだった。ケータイで誰かと話をしているみたいだけど、ちょっと険しい顔をしている。
盗み聞きは良くないと思いつつ、声をかけるタイミングを失った私は、真野さんの口から衝撃的な言葉が飛び出るのを目の当たりにすることとなった。



「っ・・・だからね、私はね、真野恵里菜は大好きだよ!ソーストンカツ!でもね、でもね、“真野さん”はソーストンカツ丼は食べないんだよっ!」




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