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「お嬢様、現代文の教科書はお入れになりました?」
「え?あ・・・忘れていたわ。ありがとう、栞菜」

お風呂あがり、まだほっぺが上気しているお嬢様が、私ににっこり微笑みかけてきた。

ハァーン!


午後22時15分。
就寝前、お嬢様の明日の準備を手伝いながら、私は幸せ気分に浸っていた。


もうかなり長い事、添い寝係をさせてもらっているけど・・・毎日こぉんなかわゆいお嬢様をクンカクンカしながら眠りにつけるなんて、最高の役職だと思います、マジで!


「・・・栞菜、ヨダレが出ていてよ」


お嬢様は少し眉をしかめて、私から体を遠ざけた。毎度の事だから、私の考えてることなんてお見通しなんだろう。
調子に乗って肩を抱いたり、耳に息を吹きかけたり、それどころかおpp(ryなど、前科多数なわけで。

だから、本日は少し趣向を変えてみることにした。


「失礼しました、お嬢様。準備が整いましたら、お声をかけてください」
「え?ええ・・・」

あえていつもみたいにベタベタせず、爽やかに微笑んでスッと立ち上がる。そのまま、ふかふかソファに腰掛けて、読みかけの文庫本を開いた。

お嬢様は時間割を確認しつつ、訝しげな表情のまま私を横目で伺っているみたいだ。
――いかん、全然本に集中できないかんな。

「あ・・あの、栞菜?」
「はい、なんでしょう?」

お屋敷の執事さん(メイドさんじゃないところがポイントだかんな!)のあの所作を参考に、にっこり笑って立ち上がると、お嬢様は若干後ずさりした。

「あの・・・?どうなさったのかしら?」
「・・・もうしわけございません、何か不手際がありましたでしょうか」
「あ、そ、そうではないのよ。でも・・いつもの栞菜と違うみたい」


――ああ、静まれ俺の野性!!

今すぐギューッしたい気持ちに笑顔で蓋をして、「そんなことはありませんよ」と言葉を返す。


「お嬢様、もう明日の準備はお済みですか?それでは、就寝いたしましょう」
「ええ・・・」


前を横切る私を、お嬢様の視線が追いかける。何か罠があるんじゃないかって、顔に書いてあるのがまるわかりだかんな。


「どうぞ、布団にお入りください」

お嬢様側の布団をペロリとめくり上げると、私を凝視したまま、小さな体がおそるおそるそこに収まる。
続いて隣に潜り込んだら、一瞬ビクッと緊張したものの、スキンシップを図ろうとしない私に困惑しているみたいだった。


「では、電気を消しますね。おやすみなさい、お嬢様」
「あ・・・お、おやすみなさい、栞菜」


薄暗くなった部屋の、お隣のベッドで、お嬢様が何度も寝返りを打ってもぞもぞしているのが気配でわかった。
大量のマクラのバリケードで表情は見えないけれど、寝息が聞こえてこないから、確実に目を開けて私を警戒している。


「・・・栞菜」
「・・・」

だから、あえて私は眠ってるふりをしてみせた。

「ねえ、寝てしまったの・・・?」
「・・・」

むくりと起き上がる気配。目を閉じて狸寝入りを続行していると、お嬢様の手が私の腕に触れた。


「・・・どうなさったの?今日の栞菜は、何だか栞菜じゃないみたいだわ。


私、いつもの栞菜のほうが好きよ・・・・」



「・・・・はい、録音完了♪グヒョヒョヒョヒョ」


私はパチッと目を開けて、私の顔を覗き込んでいたお嬢様の柔らかほっぺを両手でぷにっとつまんだ。


「え・・・・・・なっ!何でそa-0ekあ$ぅ4」“じ3;‘@フガフガフガフガ!!!」

一瞬間をおいて、お嬢様はベッドの縁ギリギリまで器用にピョーンと後退した。
にやにや笑っている私の顔で、自分がからかわれたということに気がついたみたいだ。


薄明かりの中でも、小麦色のほっぺが紅潮していくのがよくわかる。
「ひどいわ、栞菜ったら!千聖をからかったのね!」
「ぶっ」


力いっぱいの顔面マクラ。最高だかんな!


「さっき録音したと言っていたでしょう?早く消しなさい、命令よ!」
「無理だぜ、千聖。さっきの千聖の告白は永久に消えないさ。しっかり録音(きざ)みこまれちまったからな・・・アタイのここ(心)に・・・」
「何を意味のわからないことを言っているの!千聖は怒って・・・もう、何をするの、やめなさい、命令よ!栞菜!どうして抱きつくの!」


思わぬ愛の言葉(?)に舞い上がった私は、いつもどおりお嬢様に飛び掛って、双方ぐったりするまで存分にプロレスを楽しむことになったのだった。



翌日、食堂で鉢合わせた舞様に「あんなのは告白のうちに入らないでしゅから。ケッ!」と威嚇されたのはまた別の話。

――何で知っていらっしゃるんでしょう、舞様・・・・・。



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