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あったかい・・・ってほどじゃないけど、そこそこいい天気の4月某日。

事務所でばったり顔を合わせた私と愛理は、仕事終わりに、屋上に上がってみる事にした。

「開いてるかなー?」
「ねー?」

いつものほわんほわんな愛理の笑顔。私はそれを隣で見ているのが大好きだ。
自他ともに認める仲良しコンビの私たちだけど、あんまり家も近くないし、ベリーズとキュートが顔を合わせるお仕事も最近少ないし、こういう偶然は本当に嬉しい。

別に悪いことしてるわけじゃないんだけど、何となく抜き足差し足で階段を上って、2人でドアを押し開ける。


「おー、いいねいいね!」
「緑いっぱいだねぇ」

最近、屋上庭園?というのを始めたその場所は、植物や花がいっぱい植えられていて、自然好きとしては嬉しい仕様になっていた。

「見て見て梨沙子、トマト生ってるよ。赤くなったら塩ふって食べよう」
「ええー?私たちが育てたんじゃないのに?でもいっか、約束ね」
「うん、約束!」


別に、本当にトマト食べれなくたってそれはいいんだけど。
こうやって愛理との間に、約束が増えていくことが単純に嬉しいだけだから。

楽しくお喋りしながら、ぐるりと屋上を巡っていると、奥の方に小さな建物があることに気がついた。
前にテレビで見たことがあったような・・・。動物と暮らしてる人たちが住んでるみたいな、テントの家。


「あー、ゲルだねえ」
「ゲル?」
「うん、学校で習った。モンゴルとかに住んでる遊牧民の人が、狩りや収穫のために手早く引っ越せるようにって使ってる家なんだよ。
組み立て簡単でお手軽だから、日本だと物置に使ってることもあるんだってさ」
「へぇー」

さすが、愛理。私なんか、もうそんなの習ったかどうかだって覚えてないのに。

しばらくボーッと眺めていたら、「行ってみる?」と袖を引かれた。

「う、うん」

手を繋いで、一緒にビニール製の扉の前に立つ。
何か緊張する。っていうか、そわそわする。

「梨沙子?」
「んー・・」

自分ではよくわからないけど、私は第六感?というのがやたら優れているらしい(ももが言ってた)。
いい事でも悪いことでも、これから何か特別なことが起きるって時に、今みたいに妙に気持ちが落ち着かなくなったりする。

中に誰かいたりして。そんで、勝手に屋上で遊んでることをしかられるとか・・・考えるだけで気が滅入る。


「やめとく?」
「・・・でもなあ。気になるし」

だけど必ずしも悪い事のほうが起こるとは限らない。それに、大好きな愛理がついてるんだから、多少のハプニングは乗り越えられるだろう。
結局好奇心が勝って、私は愛理とともに「せぇーの」でドアを引いた。


「・・・・えー!!?」

内部に目をやった瞬間、私は思わず悲鳴みたいな声をあげてしまった。

「梨沙子、しーっ」
「あばばばば」


5人くらいで寝転がれば、それだけでいっぱいになってしまうような狭い空間。

茶色いカーペットが敷かれていて、そこで千聖がうつぶせになっていた。


「ち、千聖ぉ。あばばばば・・・どうしよう、救急車・・・」

青ざめて涙目の私とは対照的に、愛理はなぜかにっこり笑う。

「愛理ぃ?」
「あは、大丈夫だよ。ただ寝てるだけ」

いつもどおりののんびりした口調でそういうと、愛理は千聖の顔の前でしゃがみこんで、ほっぺたを突っついたりしてちょっかいを出し始めた。


「んん・・・?んー・・・」

寝言も聞こえてきて、どうやら本当に単なるお昼寝だったらしい。
そりゃそうか、もし急病で倒れたんだったら、わざわざブランケットを体に巻きつけたりしてるはずがない。


「・・・よかった、何かあったのかと思った」
「ケッケッケ。千聖、お昼寝大好きだからねー。最近はこうやってうつぶせになるのが気持ちいいみたい。お嬢様の時も明るい時も、楽屋でしょっちゅうグーグー寝てるよ」


「お嬢様の“時”?」
「・・・あ、そっか、梨沙子は知らないんだね」

愛理によると、千聖はずっとお嬢様のままってわけじゃなく、ふいに元の人格に戻ったりすることもあるらしい。
だから、頭とか心が疲れちゃって、眠ってる時間が長いんじゃないかってことなんだけど・・まさか、こんなところで。


「愛理、ここに千聖がいるって知ってたの?」
「んーん。全然、何で?」
「何か、全然驚いてないから」
「まあ、キュートでずっと一緒に居るからねえ。なんとなく、千聖のことは大体わかるんだ。グループ内唯一の同級生コンビだしね」

寝息で膨らんだりへこんだりする千聖の背中を、愛理はそっとなでている。まるでママみたいに優しい表情で。

「んー・・・?」


しばらくすると、千聖はお口をむにゅむにゅ動かして、ゆっくりと顔を上げた。

「おはよ、千聖」
「・・・」

明るい時の千聖と同じく、寝起きは相当悪いらしい。
ビー玉みたいな大きい黒目は愛理に向けられてるのに、ボーッとしたまま何にも言わない。


「千聖ぉ」

思わず抗議するような声をかけると、千聖はぼんやりとした表情のまま、私の方を見た。


その焦点ががだんだんはっきりしてきたかと思ったら、いきなり千聖はガバッと体を起こした。


「・・・・っ!りーちゃ・・・、り、梨沙子さん!」
「うん、おはよー」
「あ、あのえっと梨沙子さん何で愛理あの私フガフガフガ」

愛理はともかく、私がここにいるというのは予想外の出来事だったみたいで、千聖はものすごい勢いでテンパり始めた。


「ふーん。千聖、ここ良く来るの?」
「え、ええ。」

そんな千聖の様子に動じる事もなく、愛理は愉快そうに笑っている。
さっきも愛理本人が言ってたように、キュートの活動でずっとそばにいるから、お嬢様状態の千聖との付き合い方もちゃんとわかっているんだろうな。
何か、そう思ったら、ちょっとだけヤキモチをやいてしまった。・・・愛理に、なのか千聖に、なのかよくわかんないけど。


「ここ、最近はどなたも使っていらっしゃらないみたいだけど、昔は職員さんの秘密の休憩所として活用されていたみたい。屋上の管理をなさっている方から教えていただいたの。
あまり遅い時間でなければ、使ってもいいと言っていただいて。たまにここでお昼寝をさせてもらっているのよ」
「へー、何か隠れ家みたいでいいね。ね、私たちも寝ていい?」
「ええ、もちろん」

千聖が羽織っていた大き目のブランケットを広げて、ギリギリで三人の体を包み込む。

「せまっ!」
「ウフフフ」

ぴったり密着しているから、千聖の笑い声と体の振動がすっごく響いてくる。

「なーに?何か面白い?」
「いえ、面白いというか、嬉しいの。こうして梨沙子さんとお会いできたから。
あまり、お話する機会がなかったでしょう?」
「・・・そっか、確かにそうだね」

考えてみたら、同級生トリオといっても、私と千聖はそれほど一緒にいるってわけでもない。

合同コンサートがあっても、私は基本的に愛理と2人でいる。千聖は舞ちゃんと一緒に、いろんなところにぴょこぴょこ遊びに行ってる感じ。
もちろん、タイミングが合えばおしゃべりもするし、ステージ上でふざけあったりすることもある。仲が悪いとかそんなんじゃなくて、きっと私と千聖はそれぐらいが心地いいんだと思う。

とはいえ、こうしてゆっくり顔をつき合わせるのはびっくりするぐらい久しぶりのことだ。日頃からもう少しコミュニケーションを取っておけばよかったかもしれない。


「梨沙子さん、高校生活はもう慣れて?千聖は課題がたくさん出て大変なの・・・」
「わかるわかる!まだ最初だもんねー、私も毎日てんぱってるよ」

話題はいくらでもあるから、たわいもない会話がぽんぽん弾んで、たまに愛理がふしぎなコメントを挟む。
千聖も愛理に意味不明のツッコミを入れたりして、私がそれにさらに突っ込んだり。何かトリオ漫才みたいで楽しい。


「あ・・・そうだわ」

ふと、千聖が体をぴょこんと起こした。

「どうしたの?」
「ええ、ちょっと」

私たちにお尻を向けたまま、女の子座りで何かゴソゴソやっている。
愛理と2人、首をかしげたまま待っていると、「お待たせ。ウフフ・・・」と微笑みながら、千聖がスッと両手を差し出してきた。


「「・・・・あーっ!!」」

愛理と私の声が綺麗に重なった。



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