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朝。
寝起きで働かない脳みそのまま、私は寝癖のついた前髪と格闘していた。

「あーん、全然ダメ!あとでヘアアイロンで伸ばそうっと」

言う事を聞いてくれないお毛毛はひとまずおいといて、今度は大きな姿見の前でくるっとターン。

「もーちょいスカート短いほうがいいかな。あ、とグロス塗らなきゃ・・うん、舞、かわいーぞー!とかいってw」


ん?なーに?舞様が学校にオシャレしてくなんて珍しいって?ふふん、乙女心がわかってないなあ。

今日は学園祭1日目。
千聖以外の人は興味なし!なんて言い切ってる私でも、外部からいろんな人が来るとなると、ちょっとばっかし張り切ってしまう。

大体、本妻(自称)がみすぼらしい格好してちゃ、千聖に恥じかかせちゃうしね。

あんまり得意じゃないネクタイも今日はうまく結べたし、とりあえず前髪以外はバッチリ。
あとは・・・せっかくだから、美容のプロに身を任せるとしよう。



「えりかちゃーん、入るよー。・・あれ?」

舞美ちゃんお手製の【℃-uty工房・ERIKA】というプレートがかかったドア。
ノックとともに開けると、ふわっとバニラの香りが漂ってきた。


「あら、早いのね。舞、ごきげんよう」
「おはよー、舞ちゃん。ごめんね、ちょっと今手が離せなくて。待っててくれる?」


髪をクリップでまとめたエプロン姿のえりかちゃんと、制服の上からケープをかぶった千聖。
2人は顔を近づけて、至近距離で微笑み合っていた。


「うん、でもこれは階段編じゃないから大丈夫でしゅ」
「舞?」
「いえいえ、こっちの話。メイクと髪やってもらってるんでしょ?舞もお願いしにきたの。℃-uty工房・ERIKAが早朝から開いててよかった」
「あはは、ウチの店大盛況じゃーん」


手先が器用でオシャレなえりかちゃんは、卒業後は美容関係に進むらしい。
メイクとか、服とか、モデルさんになる勉強のできる学校に行くって言うもんだから、寮生みんなが協力体制。
メイクの実験台になったり、私服のコーディネートを考えてもらったり。

特に、千聖は毎朝通いつめるほど熱心なご様子で・・・ま、でもこれは階段編じゃ(以下略。


千聖の番が終わるまで、雑誌でも読んでようかなとベッドの方に行くと、そこにはすでに先客がいた。


「おはよっ、あっすー」
「あ・・・お、おはようございます」

千聖とはあんまり似てない顔を赤らめて、あっすーは口ごもった。・・・うん、喋り方はそっくりだ。


「明日菜ったら、寮の皆さんがいらっしゃると大人しくなるんだから。内弁慶なのね、ウフフ」
「っ・・・お、お姉さま!余計な事はおっしゃらないでくださる?」
「そーだそーだ!千聖何お姉ちゃんぶってんのー?昨日だって夕食の時はしゃいでスープこぼしちゃったくせに」
「そ、それは今は関係なフガフガフガ」


とりあえずあっすーの方に加勢してみると、千聖はすぐに唇を尖らせてフガフガ言い訳を始めた。


「はいはい、お嬢様じっとしててくださいねー。変なメイクになっちゃいますよー」

私と千聖の痴話喧嘩なんて慣れっこなえりかちゃんは、そのままマイペースにアイペンシルを動かしている。


「・・・えへへ」

はにかんだあっすーがチラッと私の方を見て、ちょっとだけど心が通じ合った気がする。
人見知りさんみたいだけど、これからもっと近づきたいな。何せ将来的には私の義理妹になるわけですから。


「なんねーYO」
「うおっ」

いきなり、ベッドの下から這い出てきたmyエネミー。


「もー、栞菜そんなとこにいたの?明日菜お嬢様の次やってあげるから、大人しく待ってなさいって」
「下からのアングルで、メイクを施されていくお嬢様を堪能していたかんな。ジュルリ」
「・・・℃変態め」

私のつぶやきに、栞菜の眉がピクッと上がる。


「またまた、何をおっしゃいますやら。舞様のストーカーっぷりには敵わないですわ。舞様がお嬢様にあげたぬいぐるみ、夜中にジージー電子音がするのはなんでやろなあ?ガハハハ」
「はて、不思議なこともありまんなあ。そんなことより、栞菜殿の痴漢行為を合法ギリギリに収める見事なテク!さすが、筋金入りのアレでんがな。小生なんて栞菜殿に比べたら小物も小物ですわ。ガハハハ」
「いやいやいや、ご謙遜を」
「いやいやいやいや」


「・・・やっぱり、お姉さまのお友だちは個性的な方が多いのね」

あっすーのつぶやきに、ヤンキーの喧嘩のごとくおでこをくっつけて威嚇し合っていた私たちはやっと我に返った。


「もう、2人とも騒いではだめよ」
「「はぁーい・・・」」

薄化粧の千聖に微笑まれて、双方ノックアウト。
ま、今日のところはドローということで引いてあげましょう。


「はい、お嬢様完成!かわいいですよー」
「ありがとう、えりかさん。・・舞、栞菜、明日菜。どうかしら?」


ケープを外して、私たちの方へ振り返った千聖。

さらさらストレートヘアの両サイドに作られた細い三つ編みを、頭の後ろでまとめるヘアスタイル。
千聖が気合をいれてるときによくやる髪型で、口に出して言ったことはないけど、よく似合ってると思う。
しかも、今日は私がホワイトデーにあげた、緑と黄色の色石のバレッタを使ってくれている。


「うん、可愛いよ。それ、やっぱり似合ってる」

普段はおサルとか犬っころとか憎まれ口を叩いちゃうけど、嬉しくて今日は素直になれた。

「あら。舞が褒めてくださるなんて、何だか不思議だわ」

千聖も嬉しそうに笑ってくれるし、たまにはあまのじゃくも抑えたほうがいいのかも・・・。


あっすーと私、そして宇宙の有原皇帝も可愛いメイクを施してもらって、5人そろって寮の玄関に赴く。

「おはよう!あれー、何か今日可愛いね!」
「ケッケッケ、気合入ってますなぁ」

私たちの出で立ちを笑顔で受け入れてくれる二人も、色つきリップとほんのりチークで少しだけオシャレを楽しんでいる。

「・・・お嬢様」

その後ろから、ちょっと唇を尖らせたなっちゃんが顔を覗かせた。

パリッと着こなした制服。
髪型で遊んだりする事もなく、“いつもどおり”のなっちゃん。


「あ・・・」

なっちゃんは、千聖の頭から足先までを無言でジーッとながめる。

「なっちゃん、あのさ・・・」

思わず口を挟もうとすると、なっちゃんは表情を崩してキュフフと笑った。


「・・・もう、学園祭の間だけですよ?お嬢様」
「なっきぃ・・・」


そう言って、優しい手つきで千聖のブレザーの襟を直してあげるなっちゃんは、少しだけ照れくさそうだった。
――ま、これはしょうがないか。親衛隊の中で、こういう風に千聖を喜ばせてあげられるのはなっちゃんだけなんだし。


「・・・なっちゃんも、先週みたいな格好すればよかったのにぃ」
「そ、そりは禁句だケロー!」
「風紀委員でマンバって、素敵だかんな」
「ひぎぃ!」

とはいえ、やっぱり千聖ポイント(千聖を喜ばせると、ポイントが加算されるよ!)を稼がれてしまったことは悔しいので、少々手荒にからかってやることにした。



だいぶ早い時間に寮を出たというのに、もう林道には同じ学校の生徒たちの姿があった。
私たちと同じく、みんないつもより若干オシャレに装っているように見える。・・・さすがに、ヤマンバさんはもういないけど。

「舞美、おはよー」
「愛理早いねー、一緒に行こう!」


そのうち、それぞれの友だちもワラワラと合流しだして、寮生列はどんどん崩れだしていく。
私はえりかちゃんとお喋りしながら、千聖は誰と居るのかな?とひそかに視線を送ってみると、どうやら学園祭パンフレットを手に、あっすーと談笑しているみたいだった。


「お姉様、今日のご予定は?明日菜のクラス、綿菓子を販売するのよ。ぜひ立ち寄ってほしいわ」
「ええ、もちろん伺うわ。明日明後日は忙しいから、今日明日菜とお店を回る時間がほしいのだけれど・・・どうかしら?」
「本当?私もお姉様と過ごしたいわ。後でシフトを確認するから、先に他の方と約束を入れてはだめよ!」

――なーんだ、お姉ちゃん扱いされないとかしょっちゅう言ってるけど、結構仲良しじゃん。

さすがの私でも、身内のあっすーは嫉妬の対象にはならない。むしろ、姉妹で仲良くしてる姿は微笑ましくていいなって思う。
ふと、しばらく会っていない自分のお姉ちゃんのことが頭に浮かんだ。今日は、久しぶりにメールでも送ってみようかな、なんて思った。



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