※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。



「舞。」

もう時間がないから、と栞菜に連れられて行った放送室で、ふわりと微笑みかけてくれた愛しのマイエンジェル。あーんど、マイファミリー。あーんど、清水さんという真面目そうな上級生。あーんど、千聖が“ママ”とか言って懐いちゃってる須藤さん。

「はじめまして・・・ってわけでもないのかな。清水です。どうぞよろしく」
「あ、どーも。萩原でしゅ」

真面目系小悪魔。
第一印象は、そんな感じ。
清水さんは優等生タイプなんだろうけど、なっちゃんみたいに頭固くなっちゃう方じゃなくて、もっと要領が良さそうな気がする。

「あ、そうだ。お近づきの印に、さっき、家庭科の調理じっしゅ・・・」
「「「わー、ダメダメ!!!」」」

なにやらバッグをごそごそし出した清水先輩を、何人かがいっせいに取り押さえる。

「なんでー。絶対美味しいのに。てか私は美味しかったけど、ハバネロクッキー。萩原さん、欲しかったら言ってね?」
「・・・・はは」

――いや、これは小悪魔どころか、なかなか癖のある人かもしれない。屈託のない笑顔が逆に怖いんですけど・・・


「私も、直接話すのは初めてだよね?須藤茉麻です。わかんないこととかあったら、何でも聞いてね!
萩・・・舞ちゃんが生徒会の仕事に慣れるように、協力するから!あ、でもめっちゃ頭いいんだっけ?私よりよっぽど効率よく仕事してくれそうだねー。あはは」
「・・・えへへ」

あんまり、最初からガンガン来る人って苦手なほうなんだけど、須藤さんは嫌な感じがしなかった。
あの人見知りの激しい千聖が頼りきってるだけのことはある。押すところと引くところの判断が絶妙で、この人、めっちゃいい人なんだろうな・・・ってすぐにわかった。


まだ戸惑いはあるけど、この人たちとならうまくやっていけそうだ。そう思えた。


「ウフフ、来ていただけると思っていたわ。こちらへいらして」

アナウンス用のマイクの前に座っていた千聖は、隣の椅子を軽く引いて、私を呼び寄せてくれた。

「へー、千聖が開始のアナウンスやるんだ」
「うん、お嬢様は放送委員でもあるからね。満場一致で決まったんだよ」

見れば、膝の上で硬く握り締められた千聖の手は、力が篭って若干震えていた。

「緊張してる?」
「ち、違うわ!私は子どもじゃ・・・」

強がってる仕草とか、大好きなんだけど。今は痴話ゲンカを楽しんでる時じゃないから、私は黙って千聖の手を包んだ。

「あ・・・」
「舞がそばにいれば大丈夫でしょ?ほら、開始の合図。千聖が口開かないと、学園祭始まんないよ?」
「もう・・・舞ったら」

笑顔とともに、心なしか、千聖の握りこぶしも緩んだような気がする。

「お嬢様、スタンバイOK?」

えりかちゃんが壁際のスイッチに手をかけ、小波みたいにザワザワしていた室内に静寂が訪れる。
深く目を閉じた千聖は、ゆっくりと瞼を上げるとともに、唇を開いた。


「大変お待たせいたしました。ただいまより、第○○回――」

少し上ずって、震えた可愛らしい声がマイクに乗っかって広がっていく。


そこに、開始を告げる花火の音が乗っかる。・・・学園祭が始まった。


*****

「ふー・・・」

カンペを読み終えた千聖は、天を仰いで深く息を吐き出した。

「私、上手く喋る事ができていたかしら?」
「うん、バッチリ!聞き取りやすかったよ」

今日は何となく、素直に褒めてあげたい気分。
千聖はパァッと表情を輝かせて、「舞のおかげだわ」なんて耳打ちしてくるから、ニヤニヤを抑えるのが大変だ。

皆も、笑顔で千聖の周りに集まってくる。

「お嬢様、最高のアウナンナウンスでしたよ!お茶でも飲みませんか!ガーッ」
「あ、あの舞美さフガフガフガ」
「舞美、放送室は水分厳禁だよっ」
「みぃたん、お嬢様にガーッはやめるケロ!せめて私に、いやぜひ私にバッチど根性エブリデイ!」
「ていうか、いつまでお嬢様の手握ってるかんな!ええいお放しっ!」
「はぁ!?舞の千聖なんだからこれでいいんだよ」
「あ!それより舞ちゃん、私のハバネロクッキー、絶対美味しいから!新聞部のみやなんて白目剥いて喜んでたよ!」
「それ、喜びちゃう!絶望や!」


「ちょっとー!!何やってんの生徒会、放送のスイッチ入りっぱなし!ほー、そうですかってわけにはいかないからね!」

かしましく集団コントを繰り広げていると、新聞部の徳永さんがバタバタ駆け込んできた。


「ギュフーッ!!やってもーた・・・」
「全部ダダ漏れか・・」

崩れ落ちるなっきぃに、脱力して苦笑する一同。
そんな中、千聖はふと真顔に戻って、もう一度マイクに顔を近づけた。
「・・・ただいま、大変不適切な発言がありましたことを、生徒会一同より御詫び申し上げます。」


澱みなくそう告げると、すぐにスイッチを切って、照れくさそうに笑う。

「・・・やるじゃん」

さすが、俺の嫁。こんな機転の利くところもあるんだなんて感心してしまった。
生徒会の皆も、その成長ぶりに目を見張ったようで、次々に拍手が起こる。

「ウフフ、いやだわ。大げさね」
「ウッウッ・・・お嬢様ぁ、なっきぃは、なっきぃは嬉しいでずぅ・・・」

この感動の光景を、徳永さんが激写して去っていったのは見逃してやろう。・・・好きに書くがいいさ、俺の嫁の成長の軌跡を!

「こりゃあとで、始末書だねー」
「んま、近寄りがたいとか言われてる生徒会の風穴になったと考えれば・・・いや、穴大きすぎだよね。ケッケッケ」



かくして、波乱のうちに学園祭1日目は始まったのだった。




TOP