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困っている人には親切に、特に小さい子には優しくっていうのが、我が家の家訓。
私は今までの人生、出来る限りそれを実行してきたつもりだ。
幼稚園の時だって、いじめられていたなかさきちゃんを・・・って話をしたら、「それ“小さい”の意味が違くない?」ってクラスメートに突っ込まれてしまった。


「あははは」
「・・・まあ、大きな熊さんは今日もご機嫌がよろしいみたいね」

今、私の隣には、なかさきちゃんよりも更に小さい女の子――千聖お嬢様がいる。
学園祭のしょっぱな、いきなり自由時間をもらえたから、茉麻に遊んでもらおうと生徒会室に向かっていた。
その途中、ちょっと困った顔で、渡り廊下を右往左往しているお嬢様を見つけて、声をかけたというわけ。


「あす・・・妹のクラスに行ったのだけれど、席を外しているみたいで。私、日頃携帯電話を持ち歩かないから、連絡が取れなくて困っていたの」
「え、でもそれじゃ、ケータイの意味ないですよね?」

私がそういうと、お嬢様はきょとんとした顔になった。

「・・・たしかにそうね。携帯電話って、遠方のお友達に連絡を取る時以外、まったく使わないわ。」
「家のきまりで持ち歩いちゃダメとか?」
「いいえ、そんなことはないのよ。多分、妹は持っているのではないかしら」

うーん。
私も相当変わってるって言われるけど、お嬢様も結構宇宙人だと思う(梨沙子は魔女って言ってた!)
真面目な顔で、ちょっとずれたことを言うもんだから、何か力が抜けてしまう。

「明日菜お嬢様の番号とかわかります?私のケータイから連絡取れるかも」
「まあ・・・では、甘えさせていただくわ」


さっそくお嬢様の読み上げる番号に電話をかけてみるけれど、誰も出ない。


「ありゃー。知らない番号だから、出てもらえないのかも」
「せっかくかけていただいたのに、ごめんなさい」

一応メールも送っておいたけど、大企業の偉い人のお嬢様だから、その辺は結構警戒心が強いのかもしれない。
特に、千聖お嬢様はぽーっとしてるけど、明日菜お嬢様は結構しっかりものだって聞いたことがあるし。

「お時間を取らせてしまってごめんなさいね。」
「いえいえ、今暇だし、大丈夫!それより、もしよかったら明日菜お嬢様を探しに行きませんか?」
「明日菜を?」
「はい。ちょびっとでも、心当たりとかありません?例えば、お友達の所とか?」

パンフレットを広げて覗き込むと、お嬢様は神妙な顔で見入った後「・・・かに」と呟いた。

「かに?カニ?」
「ええ・・・明日菜はカニが好きなの。もしかして、食べに出てしまったとか」
「カニって」

みやのクラスでやってる縁日屋さんで、カニ釣りの企画でもあるのかな?なんて思ったけど、お嬢様の指が指し示しているのは、調理実習室だった。


「・・・行ってみます?」

なんだかよくわからないけど、心当たりがあるってことなんだろう。

そんなわけで、私とお嬢様は、並んで調理実習室まで歩いていく事となった。

普段は女の子しかいない空間に、パパママ世代の大人や男の人がたくさんいるのは不思議な感じがした。
しかも、多分気のせいじゃなく、みんな私たちの方をジロジロ見てきている!・・・なんだよー、なんか文句あるのかー!

「むむ・・・」
平均よりだいぶ背の高い私と、かなりおちびちゃんなお嬢様の取り合わせはものめずらしいのか、カメラを向けてくる人までいる(体を張ってガードしてやった!)


小学生ぐらいの男の子なんて、「デカッ!」とか「ちっちゃ!」とか「ガリバー旅行記・・・」とか遠慮なく言ってくるもんだから、地味にグサッとくる。なんだよ、悔しかったらでっかくなってみろー!ちびー!


「めっちゃ視線きてません?やなかんじー」
「ウフフ・・・皆さん、大きな熊さんがモデルさんみたいにお美しいから、見惚れてしまっているのよ」

当然のような口調でそんなことを言うから、顔が真っ赤になってしまった。
褒められ慣れてる人って、人を褒めるのも上手って言うけど・・・何かめっちゃはずかしい。


「は、早く行きましょう」

ちょっと強く手を引いて、ずんずんと廊下を進んでいくと、自然に人垣が二つに割れた。
大名行列のように真ん中を歩いて、そのまま調理室のドアをガラッと開けた。


「はい、いらっしゃ・・・あれー?お嬢様。・・・と、熊井さん」

即席のカウンターから手を振ってきたのは、3年生の梅田さん。
ちょっとテカテカした、いかにもフェイクって感じのチャイナドレスが良く似合っている。
見た感じ派手そうだし、ちょっとキツそうな人なのかなって思ったけど、お嬢様は懐いているみたいだ。


「大盛況なのね、えりかさん。まだ学園祭が始まったばかりだというのに」
「あは、おかげさまでぇ。開始前から列作って待っててもらってたみたい」

梅田さんのいう通り、中華風にアレンジされた調理実習室には、たくさんお客さんが入っていた。
美味しそうな中華料理の匂いがふわふわ漂っていて、私のおなかもキュルンと鳴ってしまう。


「こちらに、明日菜は来ているかしら?」


「明日菜お嬢様?・・・うーん、ウチは見かけてないですねぇ」

一応、キョロキョロと室内を見回すも、やっぱり見当たらない。

「そう・・・。約束をしているのだけれど、すれ違ってしまっているみたいなの。大きな熊さんも一緒に探してくださってるのよ」
「・・・あー、もぉ軍団の!」

まずもぉ軍団て。ゆりはゆりなんですけどー・・・まぁ、もものキャラのインパクトを考えれば仕方ないか。

「どうも、お嬢様にご親切にしていただいて」

とはいえ、こんな美人に笑顔で握手を求められて嬉しくないはずがない。


「あゃ、え、えーと!こちらこそ!ヌホホwww」

思わずテンパッて変な笑い声が出てしまった。


「人探し中なら、あんまりゆっくりしていけないですよね」
「ええ・・えりかさんこそお忙しいのに、お相手させてしまってごめんなさいね。後でまた・・・」
「あ、ちょっと待って」

部屋を出掛かったお嬢様の肩に手を置いて引きとめ、梅田さんは一度奥に引っ込んだ。
そして3分後、再び姿を現した梅田さんは、なにやらプラスチックの大きなカップを二つ持っていた。

「これ、えりかから差し入れでーす。ちょびちょびしかないけど。歩きながら食べれると思うし、どーぞ!」
「えー!!」

ちょびちょびだなんてとんでもない。
手渡されたそれには、エビシューマイとかカニの揚げ物とかスティック春巻きとか、口にポンと放り込みやすいものがたっぷりつまっている。

「えりかさん、おいくらになるかしら?」

さっそくお嬢様がお財布に手をかけるも、「いいんですよ」と梅田さんは笑う。

「言ったでしょう?差し入れですから。賄いのさらにあまった分だから、気にしないでください」
「でも、千聖だけ特別というわけにはいかないわ」
「そーです!お金のことはちゃんとしなきゃダメッてうちの母からの遺言なんです!生きてるけど!」

なかなか引っ込まない私たちに根負けしたのか、梅田さんは少し考え込むような顔をした後、ポンッと手を打った。

「じゃあ、私後で2人のクラスに遊びに行くんで。その時、お店のあまりものがあったらえりにくれる?」
「あまりもの・・・」
「うん。お嬢様のクラスは、ドーナツ屋さんですよね?熊井さんは1年の・・・あ、ジェラート屋さん」
「は、はい」
「ちょっと焦げちゃったドーナツとか、シャリシャリになりすぎちゃったジェラート部分をこっそりもらえたらいいなあ、なーんて」


――こんな親切にしてもらって、そんなことでいいんだろうか?
どうしたもんかと思って、私はお嬢様の方を見てみた。
すると、お嬢様は長い睫毛をパタパタはためかせた後、細くため息をついた。

「・・・わかったわ」

そう一言言うと、にっこり笑ってお財布をしまう。

「千聖、午後一番に小一時間お店番をしているから。えりかさん、いらしてね」
「はぁい。熊井さんは?」
「あ、えーと、うちはなかさきちゃんと栞ちゃんと一緒!夕方です!ちょうど余り物がいっぱい出る頃だと思うんで!果物の切れ端とかどっさり差し上げますよ!」


――あれ、何か失礼なこと言ってない?大丈夫?


「良かった。じゃあ、これ遠慮なく受け取ってくれますね」

まだ温かいそのカップを受け取って、私たちは実習室の外へ出た。


「あ・・・そうだ」

ドアを閉める途中、ふと梅田さんが手を止めた。

「熊井さんて、エビが苦手なんだよね?ちゃんと除いておいたから、安心して?」
「えっ!」


びっくりして立ちすくむ私に、お嬢様がうふふと微笑んできた。


「すごいでしょう?えりかさん、人の嗜好をすぐに覚えて、気を配ってくださるの。千聖の自慢のお姉様だわ」
「何か、寮生って超人オリンピック・・・」



さっそくもらった揚げ物をパリパリと食べながら、私たちはとりあえず、中等部の校舎に向かうことにした。




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