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「あ!ちちち千聖お嬢様!ごごきげんよう!ございます!」

中等部の校舎。
千聖お嬢様と一緒に明日菜お嬢様の教室をのぞいてみたら、近くにいた子たちがすごい勢いでテンパりだした。

「何度もお邪魔してごめんなさいね。」
「ひえっ!いいいええ!そんなっ」


梨沙子のあばばば状態ぐらい大変なことになっちゃってるけど、気持ちはわかる。
あんな大きな会社の偉い人がパパだなんて、王様ぐらいの身分みたいに感じちゃうんだろう、特に中学生ぐらいだと。

「明日菜は、戻っているかしら?」
「あ、あのいえ、そのちょっとあのっ」

対応してくれた子は、なぜかお嬢様の視界をさえぎろうとバタバタ手を振って妨害している。
ちみっ子なお嬢様にはそれで有効なんだろうけど、某ビジュアル系ボーカリスト+20cmの私をなめてもらっちゃ困る。


「あーっ!」

精一杯首を伸ばして奥を見ると、今日のお嬢様と同じ髪型の後ろ姿を発見した。
私が“ピアノの発表会ヘアー”と呼んでる、三つあみをアレンジしたそのヘアスタイルは、そうそう被るはずもない。


「明日菜お嬢様ー、お姉ちゃんだよぉー!」

そう言ってみてから、それじゃ私がお姉ちゃんみたいじゃん!と思ったけれど、まあ伝われば問題ないと思う。
無事に声が届いたのか、ビクッと肩を揺らして、背中を向けてた女の子――明日菜お嬢様はゆっくりとこちらに向き直った。

「・・・お姉様」


観念したかのように、視界を遮っていた子も道を開ける。


「明日菜お嬢様、御役に立てなくて・・・」
「気になさらないで、私のために、ありがとう」

そのまま私とお嬢様の方へ歩いてきた明日菜様は、なぜかちょっと怒っているみたいだった。

「明日菜、すれ違いになってしまったわね。でも会えてよかっ」
「お姉様、タイミングが悪くてよ。もう、マイペースなんだから」

ぴしゃっと千聖お嬢様の言葉を遮る明日菜様。

「ひええ」

千聖お嬢様に、こんな口のきき方をする人ってあんまりいないからびっくりしてしまった。
若干、周りも静まり返っている。

「だって、千聖は学園祭が始まってすぐ、こちらを伺ったのよ?その時にいなかったのは明日菜の方じゃないの」
「まあ、明日菜にだって用事ぐらいあるのよ。
それより、さっきの放送はなんだったのかしら?せっかく明日菜がお友達に、お姉様がアナウンスをするって自慢・・・」
「え?」
「なっ、何でもなくてよ!お姉様は本当にぽわぽわしていて危なっかしいったら!」
「フガフガフガあれはもうフガフガでも明日菜だってフガフガ」
「そフガフガ今はそれは関係なフガフガフガ」

ふがふが、ふがふがふが。

何を言ってるのかよく聞き取れないんだけど、2大お嬢様は全く同じ声でケンカを始めた。
せっかく綿飴を買いに来たお客さんも、何事かと遠巻きに2人を見ている。

これはいけない!年上として止めないと!


そう思って、私は「ケンカ両成敗ー!」と叫んでお嬢様を抱き上げた。


あれ、お胸のわりに意外と軽っ・・・


ゴスッ!



頭のちょっと上で、鈍い音が鳴った。・・・勢い余って、お嬢様の頭をドアのところに打ち付けてしまったみたいだ。

「お、お姉様!」

私を押しのけるようにして、千聖お嬢様に近寄る明日菜様。
当の千聖お嬢様は、ビー玉みたいなお目目を見開いたまま、微動だにしない。

「ごごごめんなさい!大丈夫ですかぁ!保健室にお連れしますっ」


ゴスッ!


私は半泣きでお嬢様を再び抱っこし、・・・・あわてるあまり、また、壁ゴスッ!をくらわせてしまった。


「ひーん!」
「う、うふふ・・・大丈夫ですよ、大きな熊さん」

二度目の攻撃で我にかえったのか、お嬢様はぴょこんと私の手から飛び降りて、にっこり笑った。


「私、こう見えて結構石頭なのよ。ぷろれすごっこみたいで楽しかったわ。だから泣かないで」

かすかにバラの香りのするハンカチで、お嬢様は私の目元をぽんぽんと拭ってくれた。

「それに、珍しく明日菜が心配してくれたから、少し嬉しかったりして。ウフフフ」
「フガフガフガ私は別に」
「ありがとう、明日菜」
「・・・ええ。」

さっきまでは若干明日菜様優勢に見えたけど、やっぱりお姉様だけあって、千聖様は悠然としていた。


「明日菜お嬢様、先ほどのあれ、千聖様に見せて差し上げましょうよ」

すると、今度は明日菜お嬢様のクラスメートの子が、大きな袋を持ってやってきた。

「で、でも」
「せっかく頑張ったんですから。早くしないと萎んじゃう」
「・・・そうね、せっかくですものね」

ん?しぼむ?
説得に応じる気になったのか、明日菜お嬢様は軽くうなずいて、その袋を受け取った。


「明日菜?」

無言で袋を取り去る明日菜様。そこから現れたのは、真っ白なふわふわの塊だった。
小顔のお嬢様の首から上、全部を覆っちゃうぐらいのビッグサイズ。

「・・・おっきいわたあめー!!」

感動して声を上げると、周りからもおおっ!と歓声が上がった。


「明日菜お嬢様、千聖様のために一生懸命作ってたんですよ」
「べ、べつにお姉様のためではフガフガ」
「だって、千聖様が来ても、完成するまでは呼ばないようにってさっき言ってましたよね?」
「フガフガフガフガ」

クラスメートちゃんからの突っ込みに、小麦色のお顔が赤くなる。


「つまり・・・お姉様に差し上げる分を、私が作っていたのよ。いつまで立っても来ないから、こんなに大きくなってしまったの。おかしなメールは送られて来たのに、お姉様は連絡ひとつくださらないんだもの」
「えっ、おかしな・・・って」


私とお嬢様は、顔を見合わせた。
それって多分、さっき私が送ったメールのことだ。
自分としては、上手く文章を作ったつもりだったんだけど・・・なんか気に障ったかな?


「明日菜お嬢様、もしよかったら、それ見せてもらえません?」
「あ・・・はい、こちらですけど」

邪魔にならないよう教室の隅っこに移動して、表示されたメールを覗き込む。

en-joy-kuma・・・あ、これは間違いなく私のアドレスだ。



「件名:私はお姉様ヨー!
本文:今どこにおらっしゃるのかしら?おほほほほほほほ」


「・・・あ、あの、大きな、熊、さん?」


まるでホラー映画のヒロインのように、小さな体をプルプル震わせて私を見る千聖お嬢様。


「お嬢様言葉、難しかったけど、そんなに変?」
「・・・おほほほほほほほの辺りに、狂気を感じるわ」
「あら・・・では、こちらのメールはお姉様たちから?」

イエーイとピースサインで応えると、明日菜様はほっとしたような、若干引きつったような顔で、ぎこちなく微笑み返してくれた。


「やっぱり、お姉様のお友達は面白い方が多いのね」


――なるほど、確かになかさきちゃんとかももとか、お嬢様の友達はちょっと変な人が多い気がする。
って、私は普通だと思うんですけど!


「明日菜、少しお店を抜けられないかしら?せっかく作ってくれた綿菓子、一緒に食べたいわ」
「お姉様・・・、ええ、ぜひ!」

クラスの子たちに許可をもらって、二人は手を繋いで廊下に出た。
後ろからちっちゃい2人の背中を見つめながら、私はちょっと首を捻った。

さっき、明日菜お嬢様は私のこと「お姉様のお友達・・・」と言っていたけど・・・はたして、私たちってお友達なのかな?一緒にヤマンバやった仲だけど、何か自信ないかも。

私は千聖お嬢様のこと好きだし、すっごい興味もある。でも、お嬢様はどう思ってるのかわからない。


そもそも、友達ってなんなのさ。茉麻は私の友達だと思うけど、みや・・・はどうだろう。まだ知り合いレベル?でも結構喋るし好きなんだけどな。じゃあなかさきちゃんは?栞ちゃんは?

そうやって改めて考えると、友達の基準ってよくわからない。

「うふふ、どうなさったの、大きな熊さん?こっちにいらして」


私がぐだぐだ考え事をしているうちに、いつの間にか人気の少ない、非常階段の死角についていた。

「ここ、いい場所でしょう?千聖の隠れ場所なの」
「はぁ・・・あ、どうも」

お嬢様の差し出した綿飴を、ちぎって口に運ぶ。・・・あ、美味しい。かすかにフルーツっぽい匂いがする。


「お姉さまの好きな、ラフランスのキャンディを入れてみたのよ」
「とても美味しいわ。ね、大きな熊さん」
「あ、はい」


何となく間が空いて、そういえばまだ、明日菜お嬢様に自己紹介してないって気がついた。

「あ、えっと!わた」
「明日菜、こちらはね、高等部1年生の熊井さん。大きな熊さんって呼ばせていただいているわ。・・・千聖の、お友達」

そう言って、お嬢様は少し照れくさそうに微笑んだ。


「はじめまして、明日菜といいます。姉がいつもお世話になって・・・あの、熊井さん?」
「えっ!あ!はじめまして!よろしく!」


――友達、だって。このタイミングで。
まるで私の心を読んでしまったかのようだ。

いつもの“岡井さんは絶対魔女!”という梨沙子の発言が脳裏をよぎる。


「・・・お友達って、一緒にいたい人のことを言うのではないのかしら」

ダメ押しのようなその独り言に、私は「うひょう!」と変な声を上げてしまった。
どこか遠い目をして、大人びて見えるその表情は、いつもの天然気味な感じとは全然違っている。


「あ、あの、お嬢様って本当に魔・・・モガッ」
「うふふ」

お嬢様は私の口にエビシューマイを突っ込んで、妖しく微笑んだ。
そっと人差し指を立てて、「言っちゃダメ」のポーズ。


「私、もっと大きな熊さんとお近づきになりたいわ」
「あら、もしよければ私も。明日菜のクラス、熊井・・・大きな熊さんのファンクラブがあるのよ。ウフフ、きっと羨ましがられてしまうわね」

心なしか、明日菜お嬢様の目も、三日月の形で妖しく光っているように見える。

「ひーん・・・」


エビの強烈な味と、2人の少しホラー仕様な微笑みに、私は目を白黒させてうなずくことしかできない。・・・楽しいんだけど、緊張感の漲る茶話会だ。

あとで梨沙子に魔女姉妹の件を報告しなきゃ、と思いつつ、私は差し出された麦茶をグビッと一気に飲み干した。




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