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額に巻いた三角の布。真っ白な着物に乱れた髪。
なかなかのオバケっぷりだと自負していたのに、さっきから私は、道行く人たちに「かーわいー!」とか言われて、頭をナデナデされたりしている。


「中等部の子?オバケ屋敷?遊びに行くからクラス教えて」
「ち、違いますっ!私高3なんで!」
「またまた御冗談をー」


クラスの出し物、肝試しの呼び込みで廊下をうろついてたけれど・・・誰も怖がってくれない!
舞美の“頭に釘が刺さった血まみれ女子高生”は、大学生ぐらいの男の人が腰抜かして逃げてく程なのに、私の女幽霊は、せいぜいちびっ子が3秒ぐらい驚いたあと「へへーん、怖くないよばーか!」とか言って絡んでくる始末。


「まあまあ、佐紀のおかげで結構お客さん来てるみたいだよ!ろうなくにゃんにょ安心して入れるお化け屋敷ってことで!ゴフッ」

口に含んだ血糊をダラダラ零しながら、舞美が微笑む。・・・ごめん、知り合いだってわかってても怖すぎる。


「佐紀ー?どこ行くの?」
「んー、せっかくだから、ちょっと新規開拓してくる。うちら対になって客引きするより、それぞれターゲット絞った方が効率的じゃない?
舞美はホラー好きそうな大人層、私はファミリー層担当みたいな」

そう提案すると、舞美は「さっすが佐紀!ゴバブシャ」と深紅の霧を撒き散らしつつ喜んでくれた。うん、そこ後で掃除しといてね。

舞美と別れて、私は裏庭の方へ回ってみた。

「うーらーめー・・・いててて」
「わー、おばけだー!遊んでー!」
「ねーねー、何で生きてるのにゆうれいなのー?へんなのー!」

――ちょっとは怖がってくれ、チビっこたちよ!小さな拳でボカボカ殴るんじゃない!


とはいえ、任務は任務。まとわり着いてくるチビっこたちのパパママにオバケ屋敷を紹介しつつ、教室までの道を丁寧に説明。

「じゃあ、後で寄ってみるわね」
「はーい。どうもー。リタイアしなかったら、景品の贈呈もあるんでー。」


よし、10組程約束を取り付けた。
自分で言うのもなんだけど、私は年上の人との折衝が結構上手いと思う。

調子に乗って、今度は生徒も誘ってみようかと、キョロキョロ辺りを見回した。



「おっ」


ちょうど、見覚えのある後ろ姿。ぼーっと立ち止まっているその人物に、私はそっと近づいていった。
そして、耳元に顔を近づける。


「うーらーめーしーやー・・・」


「きゃああああ!!?」

彼女――千聖お嬢様は、ものすごい悲鳴をあげたかと思うと、ぴょーんと飛びのいて私と距離を取った。


「フガガフガフガフガ」
「ちょ、落ち着いて!ごめんごめん、私だよ、清水佐紀!」


本当に誰だかわからなかったのか、千聖お嬢様は何度も私の全身に視線を向けた後、やっとぎこちなく笑ってくれた。


「まあ、佐紀さんだったのね。ごきげんよう・・・、ウフフ、小さな子どもの幽霊なのかと思ったわ」
「・・・お嬢様ったら、可愛い顔して傷をえぐるんだから」
「そういえばさっき、凄惨な姿の舞美さんともすれ違ったわ。佐紀さんと舞美さんのクラスで、オバケ屋敷でもなさるのかしら?」
「ええ、そうです・・・っていうか、舞美は怖くなかったんですか?」
「佐紀さんの方が、幽霊らしくて怖かったわ」


――ふむ、座敷わらし系幽霊>>>血まみれ女子高生とは。わかっていたことだけど、お嬢様はなかなかの変人だ。


「お嬢様、今、売り子さん?」

よく見ると、お嬢様は小さな籠を小脇に抱えていた。
中にはカラフルにデコレーションされた串刺しのドーナツが、2,3個だけ入っている。

食べ歩きしやすそうだし、結構売れてるってことかな?


「ええ、先ほどまでは妹と行動していたのだけれど、言い争いをして、別行動をすることになって。
教室に戻ったら、すぎゃ・・クラスのお友達から、売り子さんを頼まれたの。繁盛していて忙しいみたいだから、千聖もお手伝いをさせてもらうことにしたのよ」
「・・・へー、千聖お嬢様でも口ゲンカとかするんですねぇ」
「うふふ、妹とはいつも喧嘩ばかりよ。舞ともよくするけれど」
「そーなんだ」

お嬢様は生徒会のお仕事をやってるときは、どっちかといえば受け身でぽわーんとした・・・そう、愛理みたいな感じ。そういう姿しか見てなかったから、何か意外だなあと思った。
妙にかまってあげたくなるタイプなのは間違いないけど・・・私は寮にいるわけじゃないから、舞美やえりかほどお嬢様のことをよく知らない。
こうして話してると、いろんな面が見えてきて面白いかも。


「・・・お嬢様、それ、全部買っていい?」
「え?」

私は籠の中からドーナツを纏めて取って、金額分の小銭をお嬢様のポケットに入れた。


「まあ、いいのかしら?」
「うん、小腹がすいてたとこだし。それより、これで完売でしょ?売り上げクラスの子に預けてさ、ちょっと私に付き合ってくれない?」
「でも、」
「いいからいいから。これ、佐紀のおごりね」

私は買い上げたドーナツを一つお嬢様に手渡すと、腕を取って歩き出した。


「こーやって食べて歩くと、またそれも宣伝になるからね。うん、おいしい!」
「ありがとうございます」

口の周りにカスタードクリームをつけたまま、お嬢様はにっこり笑った。




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