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例えば、私だけのあなたでいて欲しいとか。
例えば、誰かからあなたを奪いたいとか。
私はそんな気持ちを抱いているわけじゃない。
――そんな単純な言葉で推し量れるような思いじゃない。


冷たい床と、自分の体の間にあなたを閉じ込めたまま、私は随分長い間、指先ひとつ動かせずに居た。


心臓の音が重なるのを、
2人の髪が混じり合うのを、
あなたの吐息が私の耳に入り込むのを、
私の吐息があなたの耳に入り込むのを、

ただ息をひそめて、全身で感じていた。


誰かがあなたにするように、その小さい体を発きたいわけじゃない。
なら、私は今、何をしているんだろう。


「ごめんね」

何を言ったらいいのかわからなくてそうつぶやいたら、あなたは少し息を詰めた。


「ごめんね」


たった今自分の口から零れた言葉。
それを、あなたの唇も紡ぐ。
私たちの心も重なり合う。そんな気がした。


ふいに、投げ出されたままだった両手が動いた。

私の腰をたどって、背中を滑り、しっとりと体に巻きついていく。
力を込めるでもなく、撫でるでもなく、小さな子どものように柔らかいその腕が、私を絡め取る。


静と動。
光と闇。
月と太陽。


マーブル模様のように混じり合って、私たちは1つの塊のようだと思った。


――このまま、何もかも忘れてしまえればいいのに。

辛い別れも、悲しい言葉も忘れて。
誰かの事情に振り回されて傷つくこともなく、ただあなたと2人で、息を潜めて。溶け合って。



「・・・そろそろ、行かなきゃ」



でも、子どものように舌ったらずなあなたの声が、私を現実に引き戻す。


「みんなが待ってる」
「そうだね」


ゆっくりと体を起こす。

やっと目が合って、琥珀を連想させる、美しい瞳が私を捕らえた。


「・・・愛理には、ちさとがついてるよ」


あなたはそう言って、瞳を眇めて笑った。


「うん、ありがとう」


だから、私も微笑みでそれに応える。


あなたは誰にでも親切で、誰にでも冷たい。
博愛主義者のくせに、誰のことも真剣に愛さない。

甘くて冷たい、アイスクリームみたいな人。
味わった時は幸せな気持ちになるけれど、後には何も残らない。
私には、そのひんやりした優しさが心地よかった。


「行こう」



手と手を繋いでドアに手をかける頃には、私たちはもう、15歳と16歳の顔に戻っていた。




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