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「ぐわっ・・・!!」

お嬢様の全力シュートを鳩尾にくらって、お屋敷で一番若い執事さんが吹っ飛んだ。

「あわわわ」

ゴールポストの周りに散らばる、執事さんたちの屍・・・。家長代理の執事さんはおじいちゃんだから除外されたけど、みんなお嬢様のゴールキーパーに任命された、哀れなる子羊たち。


「さあ、次のキーパーはどなたかしら?まだまだほんのウォーミングアップよ!」

Sサイズの日本代表ユニフォームを着こなしたお嬢様。手を腰に当て、片足をボールに乗せた勇ましい御姿で、ぐるりと周囲を見回す。


スポーツ大好きっ子なお嬢様は、今サッカーのワールドカップにどっぷりハマッている。
連日、舞美とシアタールームに篭って観戦に勤しんでいるのは知っていたけど・・・ついに、自分でもやり始めるという暴挙(?)に出た。

まずはシュート練習を・・・ということになり、キーパーに任命された執事さんたちは最初こそはりきっていたものの、予想を遥かに上回るお嬢様のスーパープレイの前に、次々となぎ倒されていく。
運の悪いことに、今日はサッカー仲間の舞美はお出かけしていて、この全力プレイに立ち向かえる人が誰も居ないのだった。


「あら・・もう男性はいないのかしら?仕方ないわね。えりかさん?ゴーr」
「無理!」

突然のご指名。でも、今の私がお嬢様にしてあげられることなんて何もない。
ゴールキーパー?またまたご冗談を。体育における私のヘタレッぷり、知らないはずもないだろうに。身長だけで選んでもらっちゃあ困る。


「まあ、残念だわ。でも確かに、キーパーなんてしたらえりかさんの美しいネイルが欠けてしまうかもしれないものね」
「は、おありがとうございます!」

良かった、まだ女の子らしい理性は残っていたようだ。共通の趣味であるネイルに感謝しなくては・・・!


「ふふん、サッカーなんかにむきになっちゃって。千聖って本当ガキなんだから」

私の傍らで、舞ちゃんが毒づく。

「ま、でも、どうしてもって言うなら・・・」
「もう、舞ったら意地悪ばかり言うんだから。サッカーは楽しいのよ。舞はお付き合いしてくださらないのでしょうけれど」
「えっ」


あーっと!お嬢様、舞ちゃんからのパスを華麗にスルー!明らかにへこんじゃってるそのお顔にも気づかずに、また新たな生贄探しを始めているっ!


「おじょじょ、じょじょお嬢様!そそそれではなっきぃが!キュキュフフフフ」

すると、今度は意を決したなっきぃが名乗りをあげる。
でも・・・私知ってます!あなたの身体能力が、私と対と張るレベルだっていうこと!


「なっきぃがお相手をしてくださるの?嬉しいわ」
「ちょ、お嬢様!」
「キュフフ・・・いいの、えりこちゃん。なっきぃは平凡な人生は叶えられない身だケロ。薔薇は気高く咲いて美しく散るケロ・・・」

覚悟を決めたなっきぃの横顔は、凛々しくて高潔で・・・あ、ヤバイ。ちょっと感動して涙出た。

「ば・・・バッチこいヤァーぁ!」

ゴールポストの前、生まれたての小鹿みたいにぷるぷるしてるなっきぃが、精一杯の表情でお嬢様を威嚇する。

「お嬢様、手加減は無用ですっ!私、負けず嫌いなんで、正々堂々とお嬢様のシュートを止めたいんです!」

その言葉に、お嬢様の表情がより一層引き締まる。


「そう・・・わかったわ。なっきぃが真剣に向き合ってくださるんですもの。執事たち相手には手加減していたけれど、なっきぃにはそんな失礼なことはしないわ。」
「ええ、うれしいですお嬢・・・・・・・


は?え?手加減?してた?え、ショショションナ!」
「お嬢様待っ・・・」

私の制止は一歩遅く、モンゴルの大草原を疾走する馬のごとく駆け出したお嬢様。その勢いのまま、カモシカのような足が、ボールを力強く蹴りつける。



あとは・・・何も言うまい。

数分後、私は腕の中で「キュフフフ・・・」と虚ろに笑うなっきぃを介抱していた。
致命傷こそ負わなかったものの、ボールの風圧で髪が数本千切れるという超体験は、なっきぃの意識を隣のお空へテイクミーダーリンさせてしまったみたいだ。


「お・・・おぉ・・・我が好敵手なっきぃよ!カタキは必ず取るかんな!」

続いて、目を真っ赤にした栞菜が立ち上がる。


「ちょっと、まだやるの?もういいじゃん!」
一応止めては見たものの、栞菜は硬い表情のままゴールポストに向かう。

「次のキーパーは私だかんな!受け止めてやるぜ、お嬢様のラブ・アンド・パッション!」


――おめぇ、ココおかしいんじゃねぇか?(AA略)

お隣の舞様の表情から、そんなテレパシーを受信して、私は身震いした。


「パ、パッショ・・・?よくわからないけれど、いくわよ、栞菜!」

お嬢様がボールを地面に置く。・・・とその時、なぜか舞様が立ち上がり、走り出した。そのままゴールに向かい、栞菜を押しのけようとする。


「な、なんだよ舞ちゃん!キーパーは私だかんな!舞ちゃんサッカーなんて子どもっぽいって言ってたじゃん!」
「うっさい!ちしゃとは舞のなんだから、舞と遊ぶの!」
「てか順番守ってよー!本当はお嬢様とサッカーしたかったくせに!意地張るからこうなるんだよっ」
「う・・・うるさーい!ちしゃと!もういいからボール蹴って!ゴール阻止できたほうがちしゃとの正妻だから!それでいいよね、ちしゃと!」

鼻息も荒い舞ちゃんに圧倒されたお嬢様は、「え?ほんさ・・・え?わ、わかったわ」とうなずいた。
――もう、言葉の意味がわからないならうなずいちゃだめだっていつも言ってるでしょうが、お嬢様ったら!


「っしゃーこのやろー!」
「ふんがー!」

前傾姿勢で手を広げ、バスケのディフェンス/オフェンスみたいな小競り合いを繰り返す萩有コンビ。・・・うん、前から知ってたけど本当に君たちは仲がいいね。


「2人とも、千聖のために・・・、私、頑張るわ!メッ○さんに届いて、私のシュート!」

いや、○ッシさんはキーパーじゃない・・・でも、お嬢様はサッカー少年のようにキラキラ瞳を輝かせていて、無粋な突っ込みは無用のようだった。


一呼吸おいて、お嬢様がボールに向かって足を踏み出す。

と、その時、小競り合いを繰り返していたお嬢様親衛隊コンビが、なぜかボール、というかお嬢様めがけて全力ダッシュを始めた。


「お嬢様ハァーン!」
「だめー!舞が先!」
「きゃああ!?」


相当な勢いをつけていたお嬢様の勢いは止まらない。力いっぱい踏み出した足がボールを捉え・・・まるでアニメの世界みたいに、2人の女の子を空へと吹っ飛ばして行った。



「舞!?栞菜!?」

――ああ、栞菜よ!私は貴女のことを妹と公言して可愛がっている。泣き虫で優しいところも、シャイで猫みたいなところも大好きさ!
意地っ張りだけど、本当は思いやりにあふれてる舞ちゃんのことも、本当に本当に可愛いと思っている。・・・だが、あえて言おう、アホであると!



「きょ・・・今日のところは・・・相討ちだ、かんな・・・」
「ま・・・舞たちの冒険、はこれから・・・・」



「めぐっ!?めぐ、いらっしゃい!担架を用意しなさい、早く!」
「あ、終わった?救急車は大丈夫?うひょー大惨事だねー」

ってあんたら見てたんかい!

木陰で優雅にティータイムを楽しんでたご様子のめぐぅと愛理が、お嬢様風ワンピースに身を包んだお姿でキャッキャウフフとのんびり歩いてくる。


「まったく、まともに千聖の全力サッカーに関わったらこうなるってわからないのかしら?とかいってwオホホホ」
「ケッケッケ、お嬢様ったら体育のサッカーの時は錘を装着して、パワーを抑えているとかなんとか」
「ド○ゴンボールかよ」
「いや、そんな事言ってる場合じゃないじゃん!」

何これ!まともなの私だけ!?
どうせここに舞美が戻ってきても、変人が増えて余計に事態が悪化するのは目に見えている。


「ひーん・・・!」

死屍累々のお屋敷の庭の真ん中で、私は半べそのまま天を仰いだのだった・・・。




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