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「岡井さん。」

呼び止められて振り向くと、すぎゃさんが口をへの字にして立っていた。

「ごきげんよう、すぎゃさん」
「うん。ちょっといい?」

それきり何も言わず、すぎゃさんは私の前を歩いていった。
放課後の学校。今日はまだ生徒会のお仕事が残っていたのだけれど、少しぐらいなら大丈夫だろう。それよりも。

――私は、また何かしてしまったのだろうか。明らかに、すぎゃさんの表情は硬い。

時々、私は無神経な言動で、彼女から注意を受けることがある。
特別扱いをせず、私のことを一人のクラスメートとして見てくださるのは嬉しいけれど・・・やっぱり、怒らせるのは絶対に良くないと思う。


「あの、すぎゃさん」
「なーに?」
「私、なにかお気に障ることを・・・ごめんなさい、そのようなつもりはなかったのだけれど」

すると、すぎゃさんは長い睫毛をパタパタとはためかせて、「ん?」と小首を傾げた。

「何で?あ、何か早足で前歩いてるから?ごめんごめん、そういうわけじゃないんだ。ちょっと急いでて」

わざわざ私の横まで戻ってきてくれたすぎゃさんは、照れたように笑ってくれた。


「それ、一緒に持ってあげる。そーっとね。大事なもの、入ってるんでしょ?」
「あ・・・ありがとうございます」


普段よりだいぶ荷物の入った私のサブバッグを、取っ手を片方ずつ分けて二人で運んでいく。


「・・・さっきの、ちょっと嘘かも」
「え?」
「いや、だからね・・・その、怒ってないっていうの。いや、全然怒ってないよ?でも怒ってるっていうか緊張っていうかぁだって何かやっぱり梨沙子はあばばばば」

舞が“ふがふが”と表現する私の慌てた時の口調みたいに、すぎゃさんは早口で言葉をつむいでいる。

「うふふ」

何となく親近感が沸いて微笑むと、「笑ったなー」なんて、軽く頬をつままれてしまった。
舞や栞菜が時々するような、軽い戯れ。そういう“普通”のスキンシップが、私には心地よく感じられた。

今でも、強く抱きつかれたり、密着されることはあまり得意ではないのだけれど、若干の肌と肌のふれあいなら、むしろ嬉しいのかもしれない。まして、相手が大好きな人であるなら。


「ちょっとー、そんな笑うとこじゃないんだけどぉ」
「だって、・・・ごめんなさい、私ったら。うふふふ」


キャッキャと笑いながらたどり着いたのは、屋上だった。

「あら、珍しいのね。すぎゃさんもここがお好きなの?舞の居場所なのかと思っていたわ」
「あー、給水塔は舞ちゃんのテリトリーだけど、あそこ以外は結構みんな使ってるんだよ。空気いいし・・・」
「あ、きたきたー。おーい!」
「梨沙子、お嬢様、こっちこっち!」

お喋りに興じていると、突然元気な声が風に乗って流れてきた。

「あら、珍しいお取り合わせなのね」

奥の柵の方から手を振るのは、新聞部の徳永さんと夏焼さん。大きな熊さん。それから・・・


「お疲れー、お嬢様!本日の生徒会は、こちらで行いまーす!」
「ごきげんよう、茉麻さん」

2人分のスペースを空けてもらって、私は茉麻さんの隣に座った。

「梨沙子、お嬢様を連れてきてくれてありがとう」

茉麻からの御礼の言葉に、梨沙子さんは顔を赤くした。

「もー、緊張しちゃったよ!ママからの(てか夏焼様からの)依頼だから引き受けたけど、生徒会のお仕事に関わるなんてぇ」
「もぉ軍団はナイフみたいに尖った連中のすくつ(ryだからな。ヘイちっちゃな頃から悪ガキで!」
「・・・熊井ちゃん、今度は何に影響受けてるの」
「てかまだ団名もぉ軍団なんだ。もも卒業したのに」
「まあ、ももたまに学園に出没してるって風紀いんちょーさんが怒ってたし、いいんじゃない?」
「それよりよぉそろそろもぉ軍団の部室がほしいぜ!ツッパリの溜まり場にするんだぜ!創設者として、ももの白黒写真額縁に入れて飾ってやんよ!リボンで飾ってな!」
「遺影かよ!」


皆さんのぽんぽんと飛び交う会話を聞いているだけで、とても楽しい気持ちになる。
少し前までは寮の誰かがいなければ、こうして大勢で談笑することもできなかったのに、私は本当にいい出会いに恵まれたと思う。


「・・・あの、ところで千聖は、どうしてこちらに呼んでいただいたのかしら?」

談笑を遮るのはしのびないと思いつつ、話の途切れたところで私は思い切ってそう切り出してみた。


「あー、ごめんごめん!楽しくて脱線しちゃった」

茉麻さんは明るく笑うと、私の頭を撫でて引き寄せてくれた。

「みんな、用意いい?」
「ほーい」
「はーい」

さらに輪を縮めて、皆さんが私に顔を向ける。


「「「「「・・・・せぇーの、お誕生日、おめでとう!!」」」」


パーン!!

拍手とともに、大きな音と火薬のにおいが広がる。


「ちょっとー、千奈美ったら!火薬は危ないっていったじゃーん」
「まあまあまあ、いいじゃん!クラッカーだけに、バレたら謹慎クラウッカー?なんつって」
「・・・ま、それはともかく、お嬢様、改めましてお誕生日おめでとうございます!」


雅さんが、背中に回した手を私の目前に差し出す。
A4サイズの紙バッグ。その中に、ぎっしりとアンケート用紙が入っていた。
細かな文字で埋められたその紙には、ところどころ私の名前が見え隠れしている。

「バースデカードとか、もう個人的にももらってるとは思うんだけど、新聞部でお嬢様への質問とかバースデーメッセージを募ったら、こんなに集まったのね」

いつものお日様みたいな笑顔で、千奈美さんが続ける。


「で、で、で!勝手ながらうちら新聞部で、お嬢様の生誕十六周年インタビューをさせていただくこととなりましたー!」
「いえーい!」


そう、今日は私の16歳の誕生日。

今年も家族は当日に帰ってくることはできなかったけれど、家では執事にメイド、明日菜に寮のみなさんとケーキを食べ、学校でもたくさんの御祝の言葉やプレゼントをいただいた。

「モテモテだねー、岡井さん。イヒヒヒ」
「すぎゃさんたら、もう。ウフフフ」

さっき私のサブバッグを丁寧に持ってくれたのも、プレゼントが入っていることをわかってくださっていたからなんだろう。女性らしくさりげない気づかいに、心が和んでいく。

「あんまり、たいしたことできないですけど、うちらからのちょっとした誕プレってことで!お嬢様のかわゆい写真、がんがん掲載しちゃいますよー!」
「大丈夫ですよ、お嬢様。こんな子ですけど、写真とバドミントンの腕前は一級品ですから!」
「ちょっとー!こんな子ってどういう意味!みや年下の前だとすーぐかっこつけるんだから!」

お2人のやりとりを目にして、一緒に笑っていたはずなのに、ふいに鼻の奥がツンと痛くなった。

「お嬢様?」
「いやだわ、ごめんなさい。私、こんなに幸せ者でいいのかしら・・・」


思わず涙ぐむと、茉麻さんがお母様のように優しく抱き寄せてくれた。


「あはは、泣くな泣くな。みんな千聖お嬢様のことが大好きなんだから、いいんだって。」
「でも私、いつも親切にしていただくばかりで、自分では何一つ出来ないのに」
「そんなことないよ。こうやってみんながお嬢様のために動くのはね、お嬢様がもらった愛情をちゃんと返せる人だからなんだよ」


何と言っていいのかわからなくて、黙って首を振る私の頭を、茉麻さんはいつまでも撫でてくれた。


「はい、それじゃ、インタビュー開始っ!あ、梨沙子ちゃん、そこのノート取ってくれる?」
「はははははい、ただいま!フヒヒヒwwwwナウいノートでゲスなぁwwドプフォwww」
「もー、梨沙子はちょっと落ち着けっ!みやの前だからってさぁ」

たくさんの笑い声が、空に吸い込まれていく。

今の私には、自分が本当にこんなに優しくしてもらって良い存在なのか、やっぱり自信がない。
だからせめて、皆さんからいただいた愛情には、精一杯応えよう。
いつの日か、私もこんな風に、大好きな人たちの笑顔を引き出せるような人間になりたい。


「はい、それじゃさっそく1枚!お嬢様、スマイルちょーだい!」

まずは元気な千奈美さんの声に応えるように、私はカメラのレンズに満面の笑みで向き合った。



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