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「凄く……場違いに見える」

休日のある日。制服に身を包んだ私はある学校の正門前に立った。
近隣の学校からは一目置かれている学校。何と言ってもその歴史が長い。新鋭の学校に通
う私としては目の前の正門が侵しがたい聖域への重厚な扉に見えてきてさえいる。

「あっ! 中島さんや~」
「光井さん」

面識のある人物の登場に私は胸を撫で下ろした。何処か力の抜けた関西弁。

「30分前やで~。早過ぎるんとちゃいます?」
「慣れて無い場所に行くのに迷うと困るからつい」
「すまんけど先輩方がまだ揃って無いねん。そうや! 校内案内でもしよか?」
「あ、お願いします」
「ほな行きましょ」

並んで歩き出す。彼女はこの学校の生徒で同学年の光井愛佳さん。
舞ちゃんの私達寮生とお嬢様以外での友達。舞ちゃんの事を好奇な目で見ることも媚びる
事も無く接していた人らしい。今ではお嬢様に嫉妬させる程の舞ちゃんとの仲だ。

「学校の方、忙しく無いですか? 副会長って聞いたんやけど」
「それなら天然会長ともう一人のしっかり副会長。後は舞ちゃんがいるから」
「あぁ~納得~。確かに舞がいたら平気そうやな~」
「あの……聞こう聞こうと思ってたんですが私でいいんですか?」

◇ ◇ ◇

それは先月のある日の事。姉妹校として提携を結んでいるこの学校の生徒会から手紙を受
け取った。

『文化祭で演じる劇に是非参加して頂けないでしょうか』

二期制であるこの学校は一学期に文化祭を二学期に体育祭を行う。その文化祭に私が招致
されたのだ。渋る私を皆が説得して(舞にはヘタレとまで言われた……)承諾し今日が初
顔合わせとなった。

◇ ◇ ◇

「うちの会長が其方の学校がボランティア活動で演じてた劇を見てビビビッときたらしん
ですよ~。中島さんに~」
「それは…あの……光栄です」
「あの人、集会の時とか台詞噛み噛みだし頼り無さげなのになぁ~」
「ははは……」

光井さんが和ませようと話してくれているのは分かるんだけど苦笑いしか出ない。
だってこの学校の会長さんって名門と言わしめている合唱部に一年から主力扱いでしかも
ソロまでやってしまう様な人。愛理が「尊敬してるの」って何時になく真剣な目で話す程
の人なのに。
ちなみにボランティア活動というのは地域交流の一環で行っているもの。主に生徒会が中
心で生徒参加は希望者のみ。成績に影響するいう特別待遇は無くて本当にやりたい人だけ
って事で募ってるんだけど結構集まるし評判もそこそこ良い。

「でも……大丈夫かなぁ」
「うちは平気だと思ってはりますよ~。舞からのメールでも太鼓判でしたし~」
「メール?」
「あぁ! 言ってもうた~。内緒にしておいて言われたんに~~」
「光井さん?」
「あんなぁ、中島さんの事を舞が褒めてたんです。『ヘタレだけどそれ以上に負けず嫌い
の努力家だ』って。『なっちゃんがいるから舞は遠慮無く強気に出られるんだ』って」
「舞ちゃんが……そんな事を?」

劇への参加を決めて皆がたのばって来なねと言ってくれる中で一人

(o・v・)<これで千聖と過ごす甘い時間を邪魔するライバルが減ったでしゅ。居心地
が良かったら編入してもいいんじゃないでしゅか?

なんて悪態を付いた舞ちゃん。仕返しとばかりにめぐに頼んで来ちゃったんだけど。
……うん。自業自得だよね。私とめぐの相性の良さを把握しきれていない舞ちゃんがいけ
ない。

「あ、そろそろ生徒会室の方に行きましょか? もう揃ってるでしょ」
「あ、お願いします」
「そやっ! あんなぁ~頼み事あるんやけど聞いてくれます?」
「え、あ、はい。可能な範囲であれば」
「敬語無しで話しません? 同い年やし。それになっきぃって呼びたいし」
「……分かった。じゃあ私はみっつぃって呼ぶから」
「おおきに~。ほな行こか」

階段を上がり最上階の角部屋へ。そこは…

◇ ◇ ◇

「今日はわざわざありがとうなぁ~」
「……はぁ」

返してッ! 生徒会室の前に立った時の緊張感を返してッ!
そう思わんばかりのこの場のゆるい空気の流れ。みっつぃは「な?」って顔をしてるし。

「あ……あ…な、何すればええんやろ?」
「基本の自己紹介からじゃない? 愛ちゃん」
「! ほ、ほやな。ほんなら私から」

そう言って最初に自己紹介を始めたのは生徒会長で愛理が尊敬する高橋先輩。
……イメージが違い過ぎるんですけど。TVでちらっと見た事のある歌う姿。トップに立つ
様な人って普段は頼り無さげになるものなのだろうか。みぃたんもこんな感じだし。
自己紹介は順々に進みみっつぃも含めた八人の自己紹介が終わると私の番となった。

「ご招待頂き有難うございます。中島早貴です。宜しくお願いします」
「オォ~。コノ子、高橋先輩ヨリ頼リガイ有リソウダヨ~」
「ちょっ!? ジュンジュンッ!」
「ソデスネ~。私モソ思イマス~HAHAHA」
「リ、リンリンまでッ!」
「あっし…自信無くなってきたわ~」

気落ちした高橋先輩とそれを宥める新垣先輩。思った事をはっきり言うタイプの留学生の
李純先輩に注意する亀井先輩に道重先輩に田中先輩。愛理と同じ自爆タイプに見える留学
生の銭琳さんに辛口コメントのみっつぃ。
……強い。うちの生徒会以上に個性が強い。前途多難の予感がする。

「あ、あの……」
「あぁ! 忘れてた…って忘れてない忘れてないから! ……中島さん。早速だけど台本
の読み合わせしよか。劇の後半部分に中島さんの役が出てくるから今日はそこをな。出番
少ないけど物語を進める上で重要な役だから」
「はい。あ、あの」
「ん? 何や?」
「みっつぃ…光井さんにも聞いたんですけど私を選んだのが高橋先輩だって」
「あぁ、それな。うん、中島さんの演技を見た時に来たんよ。ビビビッとな」
「はぁ……」

自信満々な顔で言われても私には全然分からないんですが。

「愛ちゃん。それじゃ中島さんに分からないって。あのね、表情が良かったんだって」
「表情……ですか?」
「場面事に感情の切り替えが出来るし間の取り方も上手いって」
「いや…そんなに褒めてもらえる程の事は」

台本を読んで思ったままに演じる…演じるは大袈裟かな? 思ったままに動いているだけ
のつもりなんだけど。

「簡単そうな事だけど難しい事なんだよ、それって。自信持っていいから」
「あ、ありがとう…ございます」
「ほな、これ台本な。じゃあ皆! 始めるで~」
「「「「「「「は~い」」」」」」」

手渡された台本。そして『始める』と言われた瞬間に変わった空気。
その空気に触れて私は軽く両頬を叩いて気持ちを引き締めた。……うん。たのばろ!!



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