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「もー、千聖なにやってんだろ。遅いんだけど!」

腕時計をチラ見しながら、舞ちゃんが今日何度目かの舌打ちをした。

「まあ、約束してるわけじゃないからねー。私たちがここで待ってるなんて思ってないんじゃない?」
「じゃあ、千聖は一体舞以外の誰といるわけ?変な奴なら認めないから!危険な目にあってからじゃあ遅いんだからね!」

ふっかふかの車のシートが、舞ちゃんが暴れるたびにたゆんたゆんと揺れる。


――おいおい舞ちゃんよ、ここは女子校ですぜ。どんな危険があるというのだ。
警戒すべき相手というなら、むしろ、舞ちゃんや栞菜の方では・・・とかいって、ケッケッケ


「舞、本当にお嬢様のこと好きだねー」

ふくれっつらの舞ちゃんを、舞美ちゃんが笑いながら抱き寄せる。こうすると、少しご機嫌が治るってわかっているんだろう。
案の定、舞ちゃんは「子ども扱いすんなよぅ」なんて言いながら、ちょっと照れたように笑った。


「学園の人で千聖の遊び相手として認めるのはぁ、寮生以外ならぁ、茉麻ちゃんだけかなっ。あ、でも梨沙子ちゃんもまぁいっか!大きなクマさんはなぁー、ちょっと危ないんだよねー」
「ほんとにー?じゃあ千奈美はー?面白いよー?」
「だって新聞部じゃーん!」
「えーっ!あ、でもバドミントン部もやってるよ!」
「そういう問題じゃないしっ!」


「ケッケッケ。・・・何かさ、舞舞美姉妹でいると、舞ちゃんって・・・・・めぐ?」

2人の会話を聞きながら、横のめぐにこっそり話しかけてみたけれど、リアクションがない。
見れば、めぐは車の窓の外――学園の正門――に目をやっていた。


「めぐ?」
「ん・・・?あ、ああ、ごめんごめん。何かボーッとしてた」
「そっか」

お屋敷の、頼りになるメイドさんのめぐ。
明るくてしっかり者で話し上手だけれど、自分のプライベートについては、あまり多くを語らない。

「・・・なんか、学校っていいよね」

そんなふうにポツリとつぶやいて、ふふっ、と笑うめぐ。


「今日、喜んでくれるといいな。ちゃんとお礼したいし」
「うん」
「千聖・・・お嬢様がいなかったら、私はまだ見つけられなかったと思うんだ。・・・学園祭、行ってよかった。とかいってw何ヶ月前の話だよって感じだけど」


唐突で、脈絡のない発言のようでも、私にはちゃんとその言葉の意味がわかっていた。
めぐの、お嬢様に対する愛情。それから、深い感謝の気持ち。それがより一層高まるきっかけとなった“あの出来事”は、まるで自分のことのように、私の胸にも強く刻まれていた。


「でも、今日の計画、逆に怒られたりして。“どうして、こんな大切な事を千聖にだまっていたの!”とかいってw」
「あはは、ありえるところが怖いなぁ」
「んー、でも舞はむしろその方が・・・あ、来た!」


皆でお喋りに興じていると、裏門の方から、小柄な肢体の少女が歩いてきていた。子犬みたいな目をキョロキョロさせながら、小首を傾げている。・・・千聖お嬢様だ。


「どうする?後ろからはがいじめにする?」
「むしろ、首筋に手刀で・・・」
「ありえない!旦那様たちに知られたら、クビが飛ぶわ!このバイオレンス姉妹がっ」


そうこうしているうちに、お嬢様は見慣れた自家用車―私たちが今乗り込んでいる―に気が着いたらしく、明るい表情でこちらに走ってきた。

「あー、もーモタモタしてるから気がつかれちゃったじゃん!びっくりさせたかったのにぃ」

完ぺき主義者な舞ちゃんは、ふてくされてクッションに顔を埋めた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

運転手さんが一旦車から降りて、後部座席の扉を開ける。


「ええ、ご苦労様。今日はいつもと車の停留位置が違うのね。先に停まっていらっしゃる方がいたのかしら?」
「はぁ・・・」
「うふふ、責めているわけではないのよ。そんなに難しいお顔を、・・・・あら?」

リラックスした様子で運転手さんと談笑しながら、お嬢様は車内に目を向けた。バッチリ視線がぶつかる。

「千・・・お嬢様、お疲れ様です」
「今日も一日、楽しく過ごせましたか?」
「ごきげんよう、皆さん。驚いたわ、一体どうなさったのかしら?」

目を丸くしながらも、気分を害した様子はない。
お嬢様はめぐに荷物を預けると、わくわくした表情で私たちをぐるりと見渡した。

「えっと、いきなりですみませんが、今からお嬢様をとある場所にお連れしたいと思いまして。
運転手さんにワガママを聞いてもらっちゃいました。このまま、直行しても大丈夫ですか?」
「ええ。・・・でも、一体どちらに?」
「ふふ、着いてからのお楽しみです」


走り出した車内の中で、お嬢様はふと、隣に居る舞ちゃんの肩に触れた。


「舞?どうしたの、あまり元気がないみたいだけれど」
「・・・別に」

理由はわかっている。さっき、お嬢様を驚かせようとしたのに、準備不足で何もできなかったことを引きずっているんだろう。
舞美ちゃんはどうしたもんかとアセアセしてるし、めぐはいつもどおりシニカルに笑みを浮かべて傍観している。

私は・・・うーん、力にはなりたいけど、こういう時はお嬢様におまかせするのが一番だろう。
まさかの事態(セクハラ、とか・・・)に備えて、しっかりと舞ちゃんの挙動を観察するに留めたほうがよさそうだ。


「それさぁ」

それからしばらく黙っていた舞ちゃんは、おもむろにめぐが抱えているお嬢様のサブバッグを指さした。

「誕生日プレゼントでしょ?」
「ええ」
「どれぐらいもらったの?てか誰に何もらったか教えてくれる?バースデーカードは?今読みたいんだけど」

――なるほど、不機嫌の原因はこんなところにも転がっていたらしい。
普段なら大人っぽくて聞き分けのいい舞ちゃんなのに、嫉妬が絡むとまるで人が変わってしまうのだった。
だけど、そんな舞ちゃんを目の当たりにしても、お嬢様は動じることなくクフフと笑った。


「もう、舞ったら。せっかくいただいたお手紙は、後ほどゆっくり拝見したいわ。
プレゼントは・・・まだ全ては確認していないけれど、生徒会の皆さんからもいただいたのよ。それから、さっき新聞部の雅さんたちにもお祝いしていただいたわ」
あっそ、ふんっ」
「それより、舞」

ふてくされてそっぽ向いちゃおうとする舞ちゃんの前に、お嬢様は左腕を差し出した。


「あ・・・」


小麦色の柔らかそうな手首に巻きついている、細身のブレスレット。お嬢様の大好きな、ハートとリボンのチャームがアクセントになっている。

「・・・もう着けてくれたんだ」

それは、昨日の0時に開催されたミッドナイト・バースデーパーティにて、舞ちゃんがお嬢様にプレゼントしたものだった。
なっきぃの風紀チェックを上手くすり抜けたのか、あるいは特別に見逃してあげたのか。とにかく、その可愛らしいアクセサリーは、キラキラとお嬢様の手を飾っていたのだった。

「ウフフ。これね、学校でもたくさんの方たちに可愛らしいとお褒めいただいたわ。」
「あ、そう?ふふん、まぁ、舞が選んだんだから当たり前だけど」

みるみるうちに、険しかった舞ちゃんの眉間の皺はなくなっていく。
お嬢様の腕を掴んで、ブレスレットに指を通しながら、ご機嫌な鼻歌すら漏れ出していた。


「ホントさ、千聖って、どこまで確信犯だかわかんないよね。ああ恐ろしいこと!」

耳打ちするめぐの言葉に「ケッケッケ」と笑いを漏らすと、さっきとはもう全然違う甘い睨みを利かせて、舞ちゃんが笑いかけてきた。


「魔法使い、ねぇ・・・」

私の大事な親友が、ことあるごとにお嬢様をそんな呼称で呼ぶのを思い出す。
たしかに、お嬢様はほんのささいな事で、空気を晴れやかにしてしまう不思議な力があるのかもしれない。
みんながお嬢様に夢中になっちゃうの、わかる気がする。私だって、そう態度には出さないけれど、地味に萌えーってなってるんです。地味ーにね。


「・・・お嬢様、私が差し上げた腕時計もたまには使ってくださいね」
「ええ、もちろんよ」

舞ちゃんが突き刺してくる熱視線をエアーカッパダンスで避けながら、私はまた「ケッケッケ」笑いを繰り出した。



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