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「んあ゛あ゛あ゛~」

およそ女の子とは思えないような、地鳴りにもにたうめき声とともに、背中に衝撃が走った。

「うえっ」
「・・・あ、ごめん。ぶつかっちった。でへへへ」

どうやら、思いっきり伸ばした千聖の腕が私の体を直撃したらしい。
律儀にパンチを受けた箇所をさすってくれながら、千聖はまたため息をついた。


「はぁ~あ」
「・・・」
「あぁ~もぉ~・・・はぁ」


同じ控え室にいる愛理と舞ちゃんは、千聖の盛大なため息&独り言にも気づいてるだろうに、ノーリアクション。
まったく気にも留めず、2人して勉学に勤しんでいるようだ。・・・ま、私もわかってはいるんだけど。こういう“めんどくさいモード”に突入した千聖は、放置しておくに限るっていうことぐらい。


「・・・どーしたの、千聖」

だがしかし、私はついついこの状態の千聖に構ってしまう。

前は、こういう状態の千聖を諌めてうまくあやしてあげてたのはえりかちゃんだった。
あんなにうまくは出来ないだろうけど、どうにかしてあげたいって気持ちはどんどん湧き上がってくる。
一応サブリーダーだし、まあそういうこと関係なしにしても、大好きな千聖を助けてあげたいっていうのは、自然な思いなんじゃないでしょうか!



“よせばいいのに”


舞ちゃんが片眉をあげて、ちょっと皮肉っぽく笑いかけてきた。

いや、まあ、ね。うん・・・。


「なぁっきぃい~」
「わかった、わかった」

腰に頭を突っ込んで、千聖が大型犬のように甘えてくる。


「何かあったの?」
「うぅ・・・」
「話、聞くよ?」

すると、千聖はガバッと体を起こして、「・・・千聖ってさ」と口を開いた。


「何かさ、千聖ってさ、あったま悪いし、チビだし、遅刻するし、すぐ泣くし。何でこんなダメ人間なんだろ、本当に」
「全然そんなことないよ」
「そんなことなくなくない?だって実際チビじゃん。泣き虫だし遅刻(ry」
「いや、でも、大丈夫だよ!うん!」

何が大丈夫なのかよくわからないけど、励ましたい一心で、私はあたふたしながら言葉を返す。


「千聖はいっつもみんなのこと見ててくれるしさ、なっきぃは千聖のいいとこいっぱい知ってるし、そんなこと言わないで」
「・・・あー、冷やし中華食べたーい」
「え・・・」


――あれあれ、岡井さん?中島のフォローとか、聞いてくださってます?

「ねえ~冷やし中華ぁ」
「え、あ、か、買いに行く?じゃあ」

財布を取り出しかけると、千聖は私の手をガッと掴んで、「・・・そんな時間ないし」とか真顔で言ってきた。

「ご、ごめん」
「わかってくれればいいよ」

――あのー、何か私がワガママ言って千聖に窘められてるみたいになってるんですが・・・。

舞ちゃんと愛理なんて、後ろ向いてるけど肩がプルプルしてる。絶対、私たちのやりとり聞いてわらってるんだから、もう!


「んぁ~!あ~・・・!」
「・・・何、今度はどうしたの」

サラサラ柔らかい髪の毛に、手櫛を通しながらまた声をかける。


「千聖・・・仕事、したいな」

今度は、真面目な顔をしていた。私の背筋も伸びる。


「今だって、これから仕事じゃん」
「そうだけど。そうじゃなくて、もっとものすっごい忙しくして、何にも考える暇ないぐらい仕事にのめり込んでみたい」
「・・・千聖」
「千聖、頭の容量少ないくせにさ、余計な事ばっか考えてるから。だからいきなり落ち込んだりして、みんなに迷惑かけるしさー。
でもさ、仕事したいって言ったってさ、果たして千聖に何ができるの?って話じゃん?何かもーどうどう巡りって感じで」

「うん、わかるよ」

あ、ヤバイ。ちょっと泣きそう。
私は千聖の頭を胸に押し付けた。

「むが」

息遣いが直接心臓に伝わってくる。


「・・・上手く言えないけどさ、私もそういうの考えるし」
「そーなの?なっきぃも?」
「もー、しょっちゅうですよ。・・・だから、千聖の気持ちわかるよ。
でも、ちゃんと千聖が頑張ってるの見てるし、わかってるから。
あとね、2人で遊ぶ時とか、こういう時とかに、千聖がなっきぃにネガティブなこと話してくれるの、嬉しいよ?だから、それで気が紛れるなら、いくらでも話して?」

――えりかちゃんの時みたいに、肉欲に溺れる前に、とはさすがに言わなかったけれど。

千聖は可愛い妹分で。
それでいて、お姉ちゃんみたいに頼れることもあって。
仲間で。
ライバルで。
友達で。


そういうかけがえのない相手なんだから、いくらでも力に・・・って、そこまで言葉にするのは恥ずかしい。


「・・・うへへへ」


数十秒置いて、千聖が目を三日月にしながら顔を上げる。


「機嫌、直った?」
「うん。・・・・何ていうかさ、やっぱり、千聖のことわかってくれるのって、なっきぃだけだよねっ!!」
「うひゃあ」


極上の笑顔に、ほっぺすりすりのおまけつき。いえーい、舞ちゃん見てるー?(AA略)てか、今の聞いてた!?なっきぃ「だけ」だってさ!キュフフフフ


相変わらず、無反応に近い舞愛理コンビだけど、舞ちゃんの背中が緊張しているのが何となく伝わってくる。


「もー、なっきぃ大好きっ!」
「・・・ま、まぁね?公私共に千聖と一番仲いいのは、このわた」

「あーっ!!」


いきなりのことだった。高まったテンションのまま、千聖は私の言葉を遮って、いきなり立ち上がった。


「おっそーい!舞美ちゃんおそっ!」


見れば、開け放たれた控え室のドアの前に、汗だくだくのみぃたんが立っていた。


「遅くなってごめんね!・・・ていうか、私は仕事で遅れたんだよ、ちっさー!ちっさーみたいに寝坊じゃないんだからねっ」
「まあまあ、そんなことはどうでもいいじゃないか!グフフフ、舞美ちゃぁーん、あのね、昨日テレビで見たんだけどぉ、サッカーのさぁ・・・」
「あー、見た!あれ、感動したよねー!ちっさーに話そうと思ってたんだ!」
「本当!?千聖もだよ!・・・・何ていうかさ、やっぱり、千聖のことわかってくれるのって、舞美ちゃんだけだよねっ!!」

「・・・・なんてこったい」

私は思わずそうつぶやいて、しりもちをついた。

ええ、ええ。わかってましたよ。あなたがそういう子だっていうのは!でも、あれは何だったの!“千聖のことわかってくれるのって、なっきぃだけ”じゃなかったのかい、ええおいコラ!


「・・・なっちゃんも、やっと、千聖を愛するというのがどういうことだかわかってきたみたいだね。ざまぁ・・・じゃなくて、お悔やみ申し上げましゅ」

優しく肩に手を置いて、舞ちゃんがうんうんとうなずく。・・・とっても嬉しそうに。


「ど、同情なんてまっぴらごめんのきんぴらごぼうだいっ」
「ケッケッケ。ちなみに、さっき千聖がなっきぃにぐちってた話だけどね、私も3日ぐらい前に、同じような話、聞いてたりして。あははぁ~」
「キュフゥ・・・」


岡井はん、あんた、自由すぎやろ・・・。これだけ長い付き合いなのに、未だに行動がまったく読めない。
岡井という名の小宇宙がどんどん進化(?)し続けて、手に届きそうで届かない次元に行ってしまったかのようだ。


「・・・でも、別にいいもんっ」

ほんのちょっぴりでも、私の存在が千聖の心の励みになっているんなら、それだけでかまわないと思う。
だって、真の友情ってそういうものでしょ?そうですよね?そうだと言ってくれ、岡井はん!

「・・・なっちゃんて、ほんとドMだよね」
「千聖のことに関しては、舞ちゃんだって人のこと言えないから」
「・・・うるさいっ」

さっきまでのどんよりテンションなんてなかったことにして、舞美ちゃんとサッカー談義で盛り上がる千聖を見つめながら、私たちは同時にため息をついたのだった。



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