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「はーい、では次の2名様、どうぞー」

案内係の子の知り合いだろうか、やたら楽しげなその声を耳にして、私はサッとダンボール製の井戸の後ろに隠れた。

本日、2勝40敗。2引き分け。
自分の予想をはるかに上回る惨敗っぷりに、私はかなり焦っていた。


「やっべぇ・・・」

人前ではあんまり出さないようにしている、“素”の独り言が、無意識に口から飛び出てしまう。
どう楽観的に考えたって、ここから挽回することは無理だろう。否、本当はわかりきっていたことなんだけど。つい意地を張るから、こういうことになるんだ。

それでも、途中で勝負を投げ出すような無様な真似はしたくない。
勝つときも負けるときも、全力でぶつかっていくのがプロ(何のだ?)ってもんじゃないのかね、ええおい!


「・・・・そろそろか」

キャッキャウフフと楽しそうな声が、私のスペースにどんどん近づいてくる。・・・女の子2人組のようだ。これは、チャンスかもしれない。


手元のコンパクトで、メイクの確認をして、私は表情を引き締めた。



「えぇ、それでね、生徒会室の幽霊の噂を・・・」

「ッシャアアアアアアアアアアア」


その雑談の声を掻き消すように、私は奇声を上げてガバッと立ち上がった。


「ニャアアアアア・・・・うおおおおおっ!!!」


そして、ターゲットのペアと目が合った瞬間、動揺のあまり、私の声は見事なまでに野太く転調してしまった。



「・・・ウフ、ウフフフフフッウフフフフ!」
「あっはっはっはっは!!!」


一呼吸おいて、2人の女子――佐紀ちゃんと千聖、の笑い声が、オバケ屋敷中に響き渡った。


「ちょっとー!!笑わないでよっ!」

とりあえず声を荒げてみるものの、大爆笑の波は引かないようだった。
これまた全然怖くない、三角巾に白装束のオバケの格好で、佐紀ちゃんはヒーヒーいいながら私を指さして笑い続ける。千聖は涙をにじませながら、おなかを押さえてそれはそれは楽しそうにウフフフと声を噛み殺している。


「ぶふっ・・・ちょ、ねえ何今の?何今の?シャアアアッて何?ちょ、もう一回やって!ん、んはははははは」
「うるさーい!ええいだまれだまれ!」

スイッチの入っちゃった佐紀ちゃんほどめんどくさい人はいない。
いつもの爽やか優等生っぷりはどこへやら、新聞部コンビとつるんでるときの、小悪魔(っていうか悪魔)佐紀ちゃんに、私はなすすべもなくからかわれ続けた。


「あはあは、もー、本当最高だよ、桃子さぁん」


「・・・なんだよ、もうっ!もぉのこと笑いに来たわけ?てか、もう先進んだら?後ろ詰まってるんじゃない?」

鼻息も荒くそう言うと、佐紀ちゃんはやっと呼吸を整えて、背後に視線をやった。
「ちょっとぉ~もぉの話聞いてんの?」
「はいはい。・・・・ねー、うちとお嬢様ここでリタイアするからぁ!次の方、どうぞー!」

受付の子に聞こえるようそう叫んで、“マジでー?わかったー”の返事をもらうと、佐紀ちゃんはお嬢様の手を引いて、井戸の裏――つまり、私の横に、身を潜めた。


「むふふふ」
「もー、いつまで笑ってンの!佐紀ちゃんだって、もぉと大差ないんだからねっ」

ちみっこ座敷わらしのくせに、と毒づいたところで、自分も人のことは言えないっていうのが悲しいところ。


「てか、何このコンビ?佐紀ちゃんと千聖って珍しくない?」
「まー、生徒会でも一緒に活動してるし、仲いいんだよん。ね、お嬢様」
「ええ、いつも親切に構っていただいて・・・」

見れば、手にはおそろいのカラフルなドーナツ。
なるほど、千聖はまたいいお姉ちゃんを見つけることができたようだ。・・・安心しつつ、ちょっとだけ成長が物寂しい微妙な姉心。


「ウフフ・・・ももちゃんは、その可愛らしい仮装は、猫の幽霊なのかしら?」

そんな私のビミョーな乙女心も気にせず、ぽわぽわしたいつもの調子で千聖はマイペースに問いかけてくる。


演劇部から借りた猫耳に、モッコモコの着ぐるみ。一応、尻尾が3つに分かれているところがかろうじて妖怪っぽいけど・・・はいはい、わかってます。こんなんで怖がる人なんて、まずいないですよね。もちろん理解していますとも!
「・・・そーだよ、猫娘!どうせもぉはただ可愛いだけの萌え萌えプリティゴーストですよ!その分この天性のプリセンセスオーラと、卓越したアイドルオーラでぇ」
「はいはい、言い訳はそこまで。・・・で、どうなの桃子。今朝私に啖呵切った例の件は」
「うぐっ」



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