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「・・・」
「・・・」
「・・・あのー、萩原、さん」

新聞部の部室。
目の前でふんぞり返る眼光鋭い美少女は、しっかり腕組みをしたまま、私と千奈美を交互に見比べていた。

「・・・え、ごめん、心当たりないんだけどさ。うちら何かやっちゃったかな」

一応、気を遣って麦茶なんぞを出しつつ、様子を伺ってみるものの、萩原さんはやっぱり無言のまま。
うーん、一体何を考えているのか、ちょっと想像がつかない。


「最近は、そんなヤバい記事とか出してないつもりなんだけどー」
「・・・はぁ?」

千奈美の一言が地雷だったのか、萩原さんのほっぺたがピクッと引きつる。

「何でわからないの?新聞部でしょ?人の心を推察するのが基本でしょ?ダメダメじゃん!」
「すすすすみません」


――うわあ、超怖いんですけど。すごい存在感なんですけど。

とても年下とは思えないその貫禄にビビりつつ、私と千奈美は慌てて最近の記事を引っ張り出してみた。
えーと・・・萩原さんの逆鱗に触れたのは・・・


「・・・あのさ。これなんだけど」

なかなか怒りの根源を探せない私たちに焦れたのか、萩原さんの指が、とある記事をトントンといらだたしげに叩いた。


《スクープ!2大お嬢様のラブラブデート現場を激写!放課後のエッセンスはどんな香り?》


「・・・・ダサッ。何だこのタイトル」
「ちょっとー!!みやびだってこれでいいって言ったじゃん!」
「やっぱノリと勢いで決めちゃダメだよねー」

「いや、タイトルなんてどうでもいいから」

脱線して即席反省会を行う私たちを、萩原さんの冷ややかな声が現実に引き戻す。

「何なの、この記事」
「えー・・・何なのといわれましても」

相変わらず唇を尖らせて、不服そうな舞ちゃん。
一体、何がそんなに気に入らないんだろう。私たちは首をかしげた。

記事の主役は、千聖お嬢様と愛理。
高等部1年の放課後の教室で2人が談笑していて、その様子があまりにも和やかで可愛らしいものだったから、記事にさせてもらったのだった。
千聖お嬢様はもちろん、愛理も結構なお嬢様だから、その浮世離れした2人の世界は、読者の生徒も大いに興味を持ってくれた。
掲載については2人の許可は降りてるし、“ラブラブデート”なんて大げさな表現も、笑って受諾してくれた。記事の内容だって、別にそう過激なものじゃない。2人の仲良しな様子をレポートしただけだ。


「・・・ごめん。やっぱりわかんない」

素直にそう言うと、萩原さんはベタなアメリカ人のリアクションみたいに、大げさに肩をすくめた。

「あのさ。別にこれだけじゃないから」
「ええ?」


目のまえにある学校新聞のバックナンバーを手繰り寄せると、萩原さんは持参した付箋で「これ。あと、こっちはこれ」と御丁寧に該当部分をマークしはじめた。


《スクープ!世界記録更新なるか!2大アスリートの競争現場を激写!200メートル走の結果はいかに?》
《スクープ!家庭教師ヒットマンSAKIBORNのスパルタ教育!お嬢様の英語小テストの結果はいかに?》
《スクープ!えりかお姉様の放課後のいけない個人レッスン!お嬢様の適当チャーハンのお味はいかに?》
《激白!世界のアリカンその全ての愛に!今語られるお嬢様への愛(セクハラ)と苦悩!》


「・・・マジでうちら見出しのセンスないよね」
「本当にね。あきらかにワンパタじゃねーか」
「いや、だからタイトルはどうでもいいんだってば!」

脱力して笑い合う私達と対照的に、やっぱり萩原さんはお怒りモード。

「何で毎号、千聖関連の話題が載ってるわけ」
「そりゃ、反響が大きいから。こんなフツーの女子校に通ってる超お嬢様だよ?それだけでレアだし、何かキャラも不思議系だし。こちらとしても記事にしやすいというか」


「・・・じゃあ、どうして舞と千聖の記事は書かないの?」
「「・・・・・・は?」」


口ぽかーん状態で、あっけに取られる私と千奈美を尻目に、萩原さんの演説は続く。


「何で舞より先に、寮のみんなとの記事が載るわけ?順序がおかしいでしょ?誰がちしゃとの本妻だと思ってるの?」
「ほ・・・本妻・・・」
「あ、ちなみに栞菜の記事だけどね。あれはなかなか面白かったでしゅ。だから、沈めておいたからね。東京湾に」
「ひぎぃ!」

要するに、ヤキモチか。
“ちさまい”コンビでブイブイ言わせてる(死語)はずなのに、自分だけ記事にされてないから拗ねてる、と。

普通に考えれば嫉妬乙wで一蹴できるクレームだけど、相手は明らかに目が笑っていない萩原さん。とてもからかってごまかしたり、適当な対応なんてできないのは明らかだった。
ならば、私達新聞部がやらなければならないことはただ1つ。東京湾に浮かぶポリバケツになりたくないのならば・・・


「じゃ、じゃあ次号は萩原さんとお嬢様の記事にするから!しかも1面で!」

「ふふん。まあ、反省してるようでしゅし、それでチャラにしてあげましゅ。そうと決まれば、さっそく妻への独占インタビューでしゅね。ほら、ボーッとしてないでさっさと準備!まずは写真!」
「「は、はい!」」

おすましポーズでにっこり微笑む萩原さん。
レンズ越しにその可愛いお顔と向き合わされた私は、真夏だというのに、言いようのない寒気と悪寒に襲われたのだった・・・。



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リ*・一・リ⊃□<あら、学校新聞臨時創刊号ですって?
リ*・一・リ<ちしゃまいLOVEエスカレーション!真夜中のイケナイドドンガドン音頭!その時、秘密の桜がチラリ・・・
リ*・一・リ???
ノk|#‘-‘) ノソ#^ o゚) リ|#'ヮ')|<発刊の差し止めを要求する!!!!!!


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最終更新:2013年11月24日 09:09