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ふがふが、キーキー。

後ろから聞こえてくる言い争いの声は、もはや日常の中の一コマと化していて、今更私を動揺させるような代物ではない。だがしかし、やかましいことに変わりはない。

下睫毛にクリアマスカラをほどこしつつ鏡越しに様子を伺うと、ちょうど舞ちゃんが千聖の肩を押さえつけて、ソファに座らせているところだった。


「もー、いいじゃん別に!千聖がみやびちゃん大好きで何が悪いの?」

――あー、なるほど。そのことか。

つい無意識にニヤッとしてしまったようで、エスパーな舞様からとげとげしい視線を送られてしまった。


最近、ストリーム放送で千聖のための番組ができた。
その第2回目の放送の中で、千聖はゲストにきたももに対して、ものすごく「みやびちゃん大好き」アピールをしていたから、多分それに御立腹なんだろう。
思えば、録画分をキュートみんなで観覧してるときから、舞ちゃんはどことなく不機嫌だった。


「・・・なんなの、みやびちゃんみやびちゃんて」
「ええ?」

ほらほら、やっぱり。ケッケッケ。
でもあれは、半分ももへのあてつけというか、ももをいじるためにみやをヨイショヨイショしたっていうのもあると思うんだけど・・・。でも、ヤキモチやきな舞ちゃんにはそんなの関係ないのか。

「千聖とみやびちゃん、そんなに仲良かったっけ?」
「フガフガフガそれは現状はまあ千聖の片思いですけど?何か問題でも?」
「かっかたおもっ」

「ああそうさ。千聖はみやびちゃんが大好きだもん。だって、千聖はみやびちゃんが大好きだからね」
「二回も言いやがったな」

舞の心、千聖知らず。
したり顔の千聖は、ニヤッと笑いながら口撃を続ける。


「だってー、みやびちゃんって美人じゃん?千聖はぁ、最近可愛いより美人がタイプだからぁ」
「ちょっと!何それ!」
「ベリーズで言ったらぁ、熊井ちゃんとかりーちゃんも美人だよねっ。茉麻ちゃんもいいな!あーもー美人だけで千聖のハーレムを作りたいよ本当にさぁ!」
「ケッケッケ」


あまりの脱線&暴走ぶりに、思わず笑い声をあげてしまう。
すると、今度は舞ちゃんだけでなく千聖までこっちに視線を寄越してきた。・・・仕方ない。私はくるりと椅子の向きを変えた。

「もう、愛理もなんか言ってやってよ」
「いやー、本当に千聖って面白いねぇ」
「でへへ」
「そういうことじゃなくて!」

私が“面白い”なんて言ったのが嬉しかったのか、千聖は子どもみたいに無邪気な笑顔。対照的に、ものすごく不愉快そうな舞ちゃん。
そんな舞ちゃんの様子を知ってか知らずか(否、知ってるんだろう)、千聖はついに「ちなみに、℃-uteならぁ」と禁断の領域に言及しだした。

「まずー、舞美ちゃんは美人じゃーん?」
「うっ」
「あとー、あいりんも美人だよねー」
「わ、わたし!?」

まさか、自分が巻き込まれるとは思わず、私は目を白黒させた。

「うん、なんかぁ、最近きれーになったと思う!千聖みたいなちんちくりんと違ってぇ。グフフフフ」
「は、は、そりゃどーも」

舞ちゃんの方は、とても向けない。きっと今目が合ったら、良くて失神悪くて天に召されることとなるだろう。

「・・・じゃあ、なっちゃんはどうなの」

怒りで拳をぷるぷるさせつつ、舞ちゃんが引きつった声でそう問いかけると、まるで話題に出るのを待っていたかのごとく、「なになにー!?」となっきぃが小走りに近づいてきた。・・・なんていうか、天性のヘタレ&やられキャラですよね。

「んー」

千聖はそんななっきぃの全身を無遠慮にじろじろ眺めると「・・・・だめ。失格」とつぶやいた。


「なっきぃはぁ、確かに美人とゆえるかもしんないけどぉ、可愛さもたっぷり入っちゃってるからぁ、何かはっきり言ってぇ、美人としては中途半端!だからハーレムにははいれませーん」
「ちょっとぉー!!美人で可愛いから、中途半端とか失礼だぞっ」
「うぁーキモッ!なんでそんなポジティブなの!?なっきぃうけるー!」

――うわ、超嬉しそう。なっきぃって、なっきぃって・・・・


「・・・もーいい」

はしゃぐ2人を尻目に、完全にふてくされた舞ちゃんは、うつむいて楽屋を出て行こうとする。

「舞ちゃ・・・」

追いかけようとする私を片手で制して、千聖がスッと立ち上がる。そのまま、舞ちゃんの手首をガシッと握った。

「何。離してよ」

とげとげしいその言葉には答えず、自分がさっきまで座っていたソファに舞ちゃんを軽く突き飛ばす。

「ちょっとぉ」

抗議をしようとした舞ちゃんは、千聖にガシッと肩を掴まれて黙り込む。


「・・・あのね、舞ちゃん」

声のトーンを落として、いつになく真剣な顔の千聖。・・・ほら、ふざけてなければ千聖だって結構美人・・・



「舞ちゃんは、ハーレムには入れないんだからね」


でも、真面目な顔して言い放ったのは、そんなオマヌケな台詞。私となっきぃは昭和のコントみたいに、ガクッと体を傾けた。


「はいはい、どーせ舞はブサイクだから」
「違う。舞ちゃんはマジ可愛いよ。今は美人より可愛いって感じだけど。でも、もっと大きくなって、舞ちゃんが完全に美人になっても、美人ハーレムには入れないの」
「・・・なんでよ」

「だって、舞ちゃんは特別だもん。千聖はね、これからもいろんな人を美人だなーって思って好きになるよ。でもね、特別なのは舞ちゃんだけだから。舞ちゃんは千聖が自分のとこに帰ってくるのを、胸を張って待っていてくれればいいの」

――な、な、な、なんという・・・・!!!

こないだテレビで見た、すっごい浮気症の男の人と同じ事言ってる。すっごい自分勝手なのに、言うことに妙に説得力があって、結局上手く丸めこんじゃうみたいな。
案の定、みるみるうちに舞ちゃんの眉間の皺も引いて、いつもの無邪気で可愛い笑顔が戻ってくる。


「もー、しょーがないなぁ」
「「ええっ!!」」
「でへへへ。千聖にはぁ、舞ちゃんしかいないんだよぉ」
「ちしゃとぉ」


そのミエミエなネコ撫で声に、私となっきぃはドドドどん引き。
なのに、やっぱり舞ちゃんは嬉しそうで・・・お気に入りの大きなぬいぐるみを抱えるみたいに、千聖に抱きついてイチャイチャし始める。・・・御丁寧に、「ちしゃとは舞のだかんねっ」と言わんばかりの視線をこちらに送ってきながら。

何だろう・・・この、友達がダメ男にハマッて、底なし沼に足をはめかけているのに、手の施しようがない感じ。
いや、千聖は大丈夫だよね?ちょっと人懐っこいのが過ぎるだけだよね?

そう思いながら、千聖の目を見ると、まるで私の心を見透かしたように、口パクで「大丈夫」なんていいながらゆっくりうなずいてきた。――千聖って、千聖って・・・・。


「・・・何か、お嬢様の千聖は、肉体的に浮気者だけど、こっちは精神的に浮気者だよね。しかも手馴れすぎ」
「うん・・・」


ボソッと放たれたなっきぃの一言が妙に心に残って、私は幸せそうなお2人を、何とも言えない気持ちで眺め続けたのだった。


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