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“千聖は舞のものなんだからね”

思えば、私はこの言葉を多用しすぎていたのかもしれない。


それなりの思いと覚悟の詰まった一言なのに、最近の千聖のリアクションときたら、

「千聖は舞のものなんだからねっ」
「ん?んんー、そだねーあはあは」

なんて、まるで気のない御様子。一回一回、超高濃度の愛を込めて発しているというのに、我ながら自分のことが可哀想になってくる。現に、今だって・・・


「グフフ~んねぇももちゃんももちゃぁ~ん」
「何だよぉ、千聖ぉウフフフ」


――ああ、うるさいうるさい!

夏のコンサートの休憩時間、千聖は楽屋に入ってきたももちゃんを捕まえて、かなりご機嫌な様子。

いつにもまして楽しそうなその理由は、あれだ、先日のストリーム番組。
千聖主導のその番組に、ももちゃんがゲスト出演したことで、また千聖の“ももちゃんらいすっき病”がぶり返してしまっているんだろう。

確かに、あの時のももちさコンビは神懸っていた。
ももちゃんのウザウザかまってちゃんキャラを千聖がばっさり切り捨てたり、ももちゃんのボケに千聖がボケで返して笑いの相乗効果を生んだり。
正直、嫉妬半分で観覧していたはずなのに、その完成度の高いコントみたいなやりとりに、思わず笑ってしまったほどだ。
千聖は遠慮なくももちゃんをいじっているようで、引き際がちゃんとわかっているし、ももちゃんもガツガツ前に出てくるとおもいきや、千聖の意味不明な宇宙語を通訳してあげたり、お互いに対するフォローが抜群だった。


多分、私と千聖じゃこうはいかない。
あれより面白くする自信はあるけど、それだけじゃ番組は成り立たないっていうのもわかっている。絶対無駄なケンカとかでグダグダになってしまう。


「・・・舞の千聖なのに」

唇を尖らせてそんな独り言を言ってみても、当然千聖の耳には届かず、何だか寂しい気持ちがこみあげてくる。・・・この、浮気者!


「グフフフ、ももちゃん何っ、言ってんの~?うけるぅ!」
「もーうるさい!そうやってもぉのこと陥れてさぁ」


相変わらず、2人はやかましくイチャイチャを繰り返している。
また何か、面白いやりとりがあったんだろう。周りのみんなも笑いながら2人を見ている。

「何かさぁ、ももちさユニットって実現できないのかな?千聖、ももちゃんとだったら結構いいセンいくと思うんだけどなあ」

そんな千聖の提案に、ももちゃんも目を丸くしてうなずく。

「いいねー!ただし、お笑いユニットだね。ウチらが真面目なことやったって、どーせファンの人の笑いを誘うだけだから」
「言えてるー!でもさでもさ、あえてのぶりぶりピンク系でぇ出オチでぇ」


2人の盛り上がってる声を聞いて、ますます私のテンションは下がっていく。
何なの?マジで浮気症すぎじゃね?
この前は“舞ちゃんは特別なんだから、千聖のことをドーンと構えて待ってて”なんて言ってたけど、そもそも本当に戻ってきてくれるの?


「・・・舞、なっきぃとユニット組もうかな」
「え!?なになに??」

私のつぶやきを聞き逃さず、なっちゃんが見えないしっぽをピコピコ振りながらやってくる。・・・いつものことだけど、マジドMすぎでしょ。

「ももちゃんと千聖に対抗するってことでしょ?いいじゃんいいじゃん!どんなのにする?」

そんなに嬉しそうな顔をされると、騒いでまうやろ。“舞様”の血が。


「そうだね、じゃあユニット名はちさまい、で」
「・・・・・え?」
「ちさまいっつってんのに、出てくるのはなきまいなの。どう、面白いでしょ。笑えや。ガハハハハハ」
「・・・・ごめん、舞ちゃんの一途さに涙が出てきたケロ。こんなに愛してくれる人をほっといて、千聖はとんでもない悪女だねっ」
「えっ」

なっちゃんは目を潤ませながら、私の手を握り締めてきた。
意図しないところで味方を得ることとなり、嬉しいんだか嬉しくないんだか。
まあ、だからって、なっちゃんも私もあの2人に割って入るような勇気はないんだけど。


「もーさー、千聖とももちゃんで天下とろうぜ!2人ならやれるよ!」
「いいねー!天下統一だ!」

2人のイチャイチャミーティングは続く。


「舞様っあの2人、ついに日本征服まで企みだしましたぜ」

――何で子分口調やねん。


でも、私はイライラしつつも、まだ一縷の望みに希望を託していた。

それは、千聖がとんでもないプレイボーイ(ガール?)だということ。

いくら今はももちゃんももちゃん騒いでいるとはいえ、またすぐ他の誰かに目移りすることは十分に考えられる。
そしたらももちゃんだって、千聖のお調子のよさにプンプンしてくれるかもしれない。
というか、ももちゃんぐらい頭のいい人なら、とっくに千聖がどういう性格なのか気づいてるはずだから、最初からこの熱烈ラブコールだって真に受けたりしてないだろう。

きっと、そのうち軽くあしらわれるにきまってる。
で、袖にされてしょんぼりな千聖の前に、私が現れる、と。そして見事にちさまいコンビ再建・・・と。


「むふふー。やっぱり、千聖にはももちゃんしかいないなぁ」

そんなことを考えていると、ちょうどいいタイミングで、千聖がいつもの殺し文句を発する。
無意識に心臓が高鳴る。私はなっちゃんの手を握り締めて、ももちゃんの顔を凝視した。


「ウフフフ、いいのー?そんなこと言っちゃってぇ。どうせ、もぉ以外の人にだって同じ事言ってるんでしょー?」
「え、フガフガそんなことフガないよーフガフガフガフガ」

おおっ、さすがに鋭い。ここまでは私の計画どおりだ。あとは、落ち込む千聖の体を抱きしめ、頭だけとは言わず様々な箇所をナデナデナデナデ


「ん、じゃあさ、千聖。本当にもぉと組んでくれる気あるなら、条件がありまーす」
「・・・ん?」

でも、ももちゃんはちょっと意外な方向へ話を進めた。


「千聖はぁ、今後いつでももぉのことを優先させてくださーい!」
「はあぁ!!?」

思わずヒステリックな声を上げると、ももちゃんがチラリとこっちを見た。
わ、笑ってやがる。明らかに私の反応を楽しんでいる。なんてこったい!


「え、でもでも、千聖はいっつもももちゃんのことばっか考えてるよ?」
「うーそばっか!もも姉にはわかるんだからねっ。それで、どうなの?本気でユニット計画進めるなら、もぉとしてははずせな」
「んー・・・いいよっ」

ももちゃんの言葉を遮って、千聖が満面の笑みでうなずく。

「ま、待って!」

私はたまらず、挙手とともに2人の間に割って入った。


「おお、舞ちゃんだー」

あんなにラブラブ見せ付けてきた後だっていうのに、千聖はくったくなく、じつに嬉しそうに私に笑いかけてきた。

「いいかげんにしてよねっ!千聖にとって舞が特別なんでしょ?ももちゃん優先とか!ありえないしっ」
「そんな怒んないでよぉ。ウフフ、もぉ困っちゃうゾ」

ももちゃんは明らかに私の心情を理解して、じつに楽しそうにからかってくる。
普段は舞にとっても優しいお姉ちゃんになってくれるのに、たまにこういうイジワルスイッチが入るととんでもないことになる。


「もー、本当に千聖ってさぁ、後先のこと考えないで大事な事決めちゃうんだから!」
「何それ!ちゃんと考えて言ってるし!あーもー決めました!千聖は今後いかなる場合においても、ももちゃんを優先させまーす!はい決定ー!」
「言ってることおかしいじゃん!嘘つきは泥棒の始まりだよ!」

私も千聖も、かなりムキになりやすいタイプなもんだから、どっちも譲らずくだらないケンカが始まる。
こんなことやってるようじゃ、全然ももちゃんに敵わないってわかってるんだけど、いくら愛しの千聖とはいえ、黙って見過ごせない発言だってあるんだ。


「・・・あー、わかった。じゃあ、こうしよう、舞ちゃん」

そんな私達の様子を見かねてか、ももちゃんもからも提案が上がる。

「まずー、そっちのなっきぃ&舞ちゃん軍団からぁ、なっきぃをももちさ軍団にもらいます!」
「キュフフ、私ぃ?」
「んでー、代わりに舞ちゃんには千聖をプレゼント!そんでー、その後もぉも舞ちゃん軍団に入ります!これでどーだ!ちさまい復活ヤデ!」
「んん?う・・・うん?」

――あれ、つまり、どういうことだってばよ?途中でわからなくなったけど、千聖と舞が一緒にいられるっていう提案のようだし・・・

「う、うん。じゃあそれで」
「ウフフ、これで平和的解決・・・」


「ちょっとー!!!!それじゃなっきぃが一人になるってことじゃん!!!!」
「「あっ」」

ずっと頭の中でトレードをシミュレーションしていたんだろう、なっきぃの突然の絶叫に、一呼吸おいて笑いがドッと起きる。


「やーだ、なっきぃ賢い!」
「てかひどい!まさかももちゃんにまでいじられるなんてぇ・・・キュフゥ・・・」

そんなことをいいつつ、なっちゃんは嬉しそうだし、千聖もグフグフ笑っているし、どうやらももちゃんの“場を和ます”という目論見は上手くいったようだ。
・・・認めたくないけど、まだ私の地位も安泰ってわけじゃないらしい。

でも、それならそれでいい。私はちょっと高いとこにライバルがいるほうが、断然燃えるタイプなんだから。


「千聖。もう一回言うけど、っていうか何度でも言うけど、千聖は舞のなんだからね。反省してよねっ」


語気を強めて改めてそういうと、千聖は不服そうに「わかったよぅ」なんて言って、私の肩に頭を乗せてくれた。

「ウフフ、怖い怖い。それじゃもぉは2号さんってことかぁ」
「・・・縁起でもないこと言わないでよ」

そんな私の心を見透かしたように、ももちゃんはいつもどおりの飄々とした笑顔で「ウフフ」と笑ったのだった。


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