「愛理お願いだから許して。私、どうかしていたの。あんなこともうしないから、いじめないで。」
吐息の混じった、舌たらずな声で千聖が訴えかけてくる。
狭いトイレの個室は声が響く。それが私を妙に昂ぶらせた。
「違うよ千聖、からかってるんじゃないの。私は本気で千聖に教えて欲しいの。私も今朝実はね」

千聖になら話してもいいと思ったから、かなり恥ずかしかったけれど私は自分の身体に起こっている変化について打ち明けた。
「でもこんなこと、誰にも言えないからどうしようかと思って。
梨沙子にだけは言ってあったんだけど、梨沙子が教えてくれた方法じゃだめだった。
だからね、なんか千聖が知ってることとかあったら聞かせて。お願い。」
こういう形で千聖を頼ることになるとは思わなかった。
黙ってうつむいたまま何も言わない真っ赤な顔を見ていると、私は本当に打ち明けるべきたったのか、ほんのり後悔し始めていた。

「わ、私」
しばらくすると、掠れた声で千聖が喋りだした。
「こんなはしたないことを愛理に言っていいのか」
「教えて、千聖。」
千聖は覚悟を決めたのか、深いため息をついた後、ゆっくり話し出した。

ところどころつっかえながら千聖が話してくれたのは、こういうことだった。

知り合いの人(えりかちゃんめ・・・)に聞いた話だと、人によって触って気持ちいいところは違うらしい。
だから梨沙子にとって気持ちいいことでも、私にはそうじゃなかったのかもしれないということだ。
千聖もその知り合いの人(ry にいろいろ教えてもらって、自分で体を触っているうちにやめられなくなってしまったらしい。

「気持ち悪いこと言ってごめんなさい。千聖を嫌いにならないで。」

必死な顔で衣装の裾を握られジッと見つめられて、私は少しえりかちゃんの気持ちを理解できた。心臓がキュッと縮んだような感覚を覚える。
「嫌いになんてなるわけないじゃない。私が聞いたのに。そっかでも、千聖もいろいろ知ってるんだ。ケッケッケ」
「もう、愛理ったら。」
千聖は相変わらず恥ずかしそうだったけれど、私の秘密を知ったことで少し楽になったらしい。はにかむ顔がとても可愛らしかった。
「ねえ、もう一個だけお願いがあるの。」
実は私の本題はこっちだったんだけれど。


「ちょっとだけ、私と触り合ってみない?」

千聖が息を呑むのがわかった。
「愛理・・・・・」

梨沙子や栞菜じゃなく、どうして千聖を相手に選んだのかは自分でもよくわからなかった。強いていうなら

“ライバル心かなぁ”

私はみかけによらず、負けず嫌いだとよく言われる。自覚もある。
あの2人に比べると、私はこういうことに関して明らかに未熟だ。
一方的に教え導かれるよりも、一緒に覚えていくような相手が欲しかったのかもしれない。
えりかちゃんは千聖にいろいろしているような口ぶりだったけれど、一連の反応を見る限りではまだ大して開発されていないように見える。
私をからかうために、話を大きくした可能性もある。
千聖が私より早く大人になる前に、ここで繋ぎとめておきたかった。

「お願い千聖。こんなこと頼めるのは千聖しかいないの。途中でやめてもいいから。」
誰かに必死で頭を下げたことなんて滅多にない。こんな姿、お父さんが見たら倒れちゃうかもしれないな。
でも千聖と触れ合うことは、私にとってそれだけの価値があることだと思えた。
不思議と惨めな気持ちにはならなかった。
「やだ、愛理ったら・・・・顔を上げて。そんなことまでしなくたっていいのよ。」
「え、じゃあ」
「愛理の望むようなお相手になれるか、わからないけれど。」
千聖はゆっくりと私の胸に触れた。
体と同じく小さめなその手に、少し力が加わる。
「ん」
自分で触った時と全然違う、くすぐったいようなむずがゆいような感じがした。
「愛理、痛くない?私、えりk・・・いえ、こういう風に人に触るのはほとんど初めてで」

えりかって言ったね千聖。でも私のお願いを受け入れてくれたから、今のは聞かなかったことにしておこう。
「大丈夫。何か変な感じ。もっと触って、千聖。」

千聖は微笑んで、私の手を赤いチェックのジャケットの胸元に導いた。
「愛理も、触って。」



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最終更新:2011年02月08日 06:43