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「ちっさー。」
「え?」

コンサートが終わり、ロッカーで一人着替えをしている途中、名前を呼ばれて振り向くと、舞美ちゃんのドアップが目のまえにあった。
うーわ、やっぱ超美形・・・とか思って見蕩れていると、唇が湿った感触に包まれた。

「むぐ」

舞美ちゃんの大きい手が、私の頭をがっしり捉えている。
数秒置いて、私は今、自分が舞美ちゃんとキスしているのだと理解した。

「ま、舞美ひゃん」

顔を背けようにも、あごもホールドされているからどうにもならない。
そして、思いっきり唇を押し付けられてるから、歯がガチンと当たってちょっと痛い。・・・何ていうか、舞美ちゃんらしいキッスだ。

――そういえば、えりかとしてたキスはもっと優しかったなあ。
綿毛みたいにふわふわ優しく包んでくれて、薔薇の匂いの香水がただよっていて、オトコオンナとか野生児とか言われてるこの私を、まるでお姫様みたいに扱ってくれたっけ。
私であれだけメロメロにさせられたなら、お嬢様の時の千聖なんて、もっと大変な事になっていたんだろうな。えりか、元気かなあ・・・会いたいなあ。って、脱線しすぎだろ、自分。

「ぶふふふ」

あと、舞ともキスしたことがあった。
あれはでも、何か舞が発情していて怖くて、キスの感触とかはよく覚えていない。まあ、こんなに乱暴ではなかったとは思うけど・・・。
でも最近の舞は、もうそういうことはしてこなくなった。むしろ、若干冷たくなったような気がしなくもない。
なんだよ、千聖のこと好きとか言ってた癖に。
ま、まさか、みっつぃとそんなこんなあんなをしているんじゃあるまいな。ダメだよ舞ちゃん!舞ちゃんがチューッてしていいのは千聖だけだかんねっ!
「んぐぐぐ・・・もー、長いっ!」


いい加減息も続かなくなってきたところで、舞美ちゃんの胸を叩いて限界を知らせた。


「あははは」

舞美ちゃんは爽やかに笑って、私の顔を一撫でする。


「何?何?舞美ちゃんがこーゆーことすんの珍しくない?」
「んー、だって返しとかなきゃって思って」
「返す?・・・ああ」


舞美ちゃんが言ってるのは、さっきのコンサートでのことだろう。
曲の最中、テンションが上がってしまった私は、顔を近づける振り付けにかこつけて、舞美ちゃんに熱烈なキッスをかましてしまったのだった。

んま、ステージで舞美ちゃんにそういうことをするのは初めてじゃないし、ファンの人も盛り上がったから別に気にもしてなった(というか今の今まで忘れてた・・・)んだけど・・・“返す”とはこれいかに。


「ちょ、何で千聖のキスは返品されたわけ?」
「えー、だってさー、・・・ねえ?んふふふ。まあいいじゃないか!」

口を尖らせて詰め寄るけど、舞美ちゃんは適当にはぐらかしてどっか行っちゃおうとする。
無駄に負けず嫌いな私は納得がいかなくて、その背中にジャンピングだっこでのしかかった。




「なになに?ちっさ・・・んぐぐ」

笑いながら振り向いた舞美ちゃんに、もう一回タコみたいに口を尖らせてチューをしてみる。

「だめ、返品ふかにょうです。グフフフ」
「もー、いいから返すってばー!リーダーの言う事聞きな?ほらこっち顔向けて?」
「やーだー!あっちょ、どこさわってんの!おい!」


さすが、全力天然リーダー。
私に言う事をきかせようと必死になってるんだろう、ギュッと抱きすくめて、もう一回チューを返してこようとする。
む、胸を掴むな!乱暴にしたら痛いっていつも言ってるじゃんか!


「ちっさー!ほら、ちゅー」
「ひゃははは!やめろー!もー舞美ちゃんしつこいって!あははは」


舞美ちゃんはなっきぃや愛理、舞のことは結構優しく扱うのに、私はまるでペットとか弟みたいに投げ飛ばしたり吹っ飛ばしたりするもんだから、こんなことしてても全然色気がない。ほんと、ただジャレてるだけって感じだ。
私もだんだんテンションが上がって、プロレス同然の取っ組み合いを繰り広げていると、突然背後のドアが開いた。



「・・・なにやってんの」
「お、舞ちゃん」

おっきいポケモンタオルを首にかけて、シャワー浴びたてのほかほか舞ちゃんが室内に入ってくる。
何か機嫌が悪そうだ。舞美ちゃんと私の間にグッと手を入れて引き離すと、背後から私を抱いて座り込み、“ラッコ抱っこ”みたいな状態にしてきた。うなじに舞の濡れた髪が触れる。
舞の視線と同じぐらいヒンヤリ冷たくて、思わず体を遠ざける。

「舞、髪乾かしてから!」

長女だからか、実は私は年下の子に主導権をとられるっぽいのが苦手だ。
舞がちょくちょく私を押し倒そうとしたり、こういう風に彼氏(?)的な振る舞いをするのも、本当は好きじゃない。やるなら私がそっち役がいい!身長足りないけど・・・。


「ほら、千聖のドライヤー貸すから、洗面所で・・・」
「ふん。いいもん。愛理にやってもらうし」

私のお姉ちゃん口調が相当気に入らなかったのか、舞は足を踏み鳴らして立ち上がった。


「舞?」
「・・・千聖って、フラフラしすぎ。意味わかんない」


乱暴にドアを閉める音が、部屋に鳴り響く。

「な、なんだよー・・・」

舞ちゃんを怒らせたのと、フラフラしてるだなんて言われた事が地味にグサッときて、私はしばらくそのまま座り込んでいた。


「あはは・・・ドンマイだよ、ちっさー」

黙って成り行きを見ていた舞美ちゃんがいつの間にか横に移動してきて、私の肩を抱き寄せた。


「舞美ちゃ・・・」

また、舞美ちゃんの顔が近づいてきて、2人の唇がくっつく。
今度は返すとか返さないとか言わなかったから、安心して体をゆだねられる。

「ちっさー、大丈夫だよ」


舞美ちゃんの手は大きくて、少し湿っていて、その声は少し掠れていて、全部が綺麗で色っぽくて、ドキドキする。
舞の怒った顔とか、よくわからない自己嫌悪とか、そういうのを振り払うように、私は舞美ちゃんの首に手を回して、柔らかい感触を貪った。



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