「ん・・・舞美ちゃん・・・」
私の腕の中で、ちっさーがもぞもぞと動く。
舞が“犬目”なんて言ってる、黒目がとっても大きい両目で、私のことを見つめる。
「ふふふ」
「なーに?・・・ちょっと、髪ぐしゃぐしゃにしないでよー」
裸になったちっさーの体はぽかぽかあったかくて、その仕草はわんちゃんみたいで、私は思わず栗色の髪の毛をわしゃわしゃとかき混ぜてしまった。
コンサートツアーで、地方のホテルに泊まった時、唐突にちっさーが私を訪ねてきた。・・・そして、今、こういうことになっている。
いつからだろう。
私はちっさーと、こういう風に、メンバー以上の触れ合いをするようになっていた。
最初はお嬢様の時のちっさーが、寂しそうだったり何かに怯えているときにだけだった。
でも、そのうち明るい時のちっさーとも何となく“そういうこと”をするようになって・・・・ずるずると続いている。
多分、きっかけはえりだった。
随分長い間、えりとちっさーはこういう・・・いや、これ以上のことをする関係だったと、卒業前に教えてもらった。
それは頭を打って、自分の事がわからなくなって混乱するちっさーを癒すために始めたことだったらしい。
正直とても驚いたけれど、そういうことならば私も、と、ある日落ち込んでいるお嬢様のちっさーを、ツアー中のホテルの自室に呼んだのが最初だった。(あとでえりに報告したらチョコバナナパフェを鼻から吹き出した)
「何にやにやしてんのー?舞美ちゃん」
そんなことを思い出してむふふと笑うと、ちっさーが軽く体をよじった。
「え?あはは・・・ちょっと思い出し笑い」
「は?このタイミングで!?・・・やっぱ天然だなぁ」
「だから、天然はちっさーの方だってば!こうしてやるっ」
「あっあっ、ちょ、そこいきなり触んないでって・・・ん、舞美ちゃん」
ちょっと力技だけど、ナマイキ言う明るいほうのちっさーを大人しくさせる裏技もわかってきた。
女の子同士のスキンシップとしては、かなりやりすぎなのはわかっているけれど・・・どっちのちっさーも私とこうするのが好きみたいだし、私もちっさーの子どもみたいな肌をぺたぺた触るのは心地いい。
他のメンバーには言わないほうがいいのはわかっていたから、あくまでナイショの、ごくたまーにだけする、2人だけの秘密の行為だったのだけれど。
「気持ちいい?ちっさー」
ちっちゃいからだにそぐわない、おっきな丸いのを手で転がしながら聞くと、ちっさーは眉間に皺を寄せた。
「舞美ちゃん、そーゆーこと聞くのはね、デリカシーがないんだよっ」
「え?嘘ー?ごめんね?だって、ちっさーが気持ちよくなってほしいから、私」
「それはさぁ、聞かなくても反応みながらさぁ・・ん、あーいい、きもちいーっす。んあー」
まるで、テレビのコントで銭湯に入ってるおじさんみたいな反応。思わずまた笑ってしまった。
「ねー、ちょっとぉ」
「ごめんごめん、ちっさーって本当おもしろいねー」
「何それ!ちょー失礼・・・あーそこそこそこ!最高!」
――本当、2人して裸になって、戯れているとは思えない。
ただなんとなく楽しくて、安心感に包まれるような時間。
誰かに迷惑をかけるようなことじゃないなら、このまましばらくは続けていたいと私は密かに考えている。
ちっさーが私に触れられることで落ち着くように、私もいつしか、この時間を待ちわびるようになっているから。
それは、なぜかちっさにーは言ってはいけないことのような気がするから、まだ胸のうちに留めている思いだけれど。
「・・・あー、雨、降ってる」
いつのまにか、私の腕から這い出したちっさーが、裸のまま、窓にぺったり張り付く。
「明日やばいなー。湿気で髪の毛ぺたんこになっちゃうかも」
「こっちで寝ていけば?明日、朝手伝うよ」
「んー・・・でも、千聖朝とかすっごい自分のペースで動くから。迷惑かけるのやだし、とりあえず戻る」
たった今まで、まったりと触れ合っていたとは思えないそのあっさりした態度に、少し寂しくなった私は、最近引き締まってきたそのウエストに手をかけて、思いっきり引き寄せた。
「・・・うわっ!何何!」
腕の中で暴れる態度は、小型犬かちびっこのようで、やっぱり色気なんて全然なくて・・・私は思わず苦笑してしまった。
「もうちょっと一緒にいようよー。ね?雨降ってるし戻るの危ないよ」
「いや、隣の部屋だから関係ないし!・・・あー、んー、でも、舞美ちゃん千聖と一緒にいたいの?しょうがないなあ」
――かと思えば、急にこうやってお姉ちゃんになったりして、挙句の果てにはお嬢様にまでなってしまうなんて。何年そばにいても、ちっさーはつかめなくて、本当に面白い。
「ねえ、舞美ちゃん・・・」
そして今度は、唐突にシリアスな声になる。
先を促すように、唇に指で触れると、熱い吐息が指を湿らせる。
「こないださ、何で、キス、返したの・・・?」
最終更新:2011年07月25日 19:39