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お嬢様の好きなところ。
小麦色したぷにぷにの肌。
小柄なのに、女性らしい体つき。
泣いたり笑ったり怒ったり、くるくる変わる表情。
舌ったらずに「命令よ!」なんて叫ぶ、小さくてふよんとした唇。
誰の言う事も簡単に信じちゃう、単純で純粋なところ。


「でへへへ」
「まあ、栞菜ったら。またそんな顔をして、変な事を考えてたのね。千聖にはわかるのよ」

だらしない顔で微笑みかけると、傍らのお嬢様は、眉をしかめて私から体を離してしまった。

「へっへっへ、千聖ちゅわーんがあんまり萌えキャラなもんですからぁ」
「もう、どうしてそんな呼び方をするの!千聖をからかっているのね!」

ちょっといじくるだけで、気の強い子犬みたいにキャンキャンと吠え立ててくるのが可愛くてたまらない。
学園祭二日目、舞ちゃんから千聖お嬢様を奪取することに成功した私は、ひとけのない文芸部の部室にお嬢様を連れ込んでいた。
校内のお店を回るデートも良かったんだけれど、そんなのは昨日嗣永さんとか、熊井ちゃんともしていたみたいだから、あえて自分のテリトリーに招き入れてみたというわけ。
ものめずらしそうに書庫を見渡していたお嬢様は、ふと長机の上に目を向けると「あ・・・そういえば、栞菜」とつぶやいた。

「なんですか?」
「私、先ほど舞を介して、そちらにある冊子をいただいたの」
「げっ!!」

サブバッグから覗く、見覚えのあるブルーの表紙。
それは、我が文芸部の創作物を纏めた機関誌だった。ま、まさかお嬢様の手に渡っているとは・・・

「あら、どうなさったの?」
「そそそそれ、おじょじょおじょうさまはおよみになられれれたんですか?」


“せっかくだから、舞とちしゃとのラブラブ感動巨編を書かせてあげてもいいでしゅよ。べ、別に大して期待とかしてないでしゅけど”

舞ちゃんからそんなツンデレ依頼を受け、執筆した今回の作品。・・・正直、ちょっと、いやかなり悪ノリしてしまったせいで、部員や顧問の先生はもちろん、保健の先生から「何か悩みでも?」と聞かれるような怪作となってしまった。
それこそ、お嬢様が目の当たりにしたら、寮から追放されかねないようなラブとエロスとほにゃららな・・・。
油断していた。活字が嫌いなお嬢様なら、関心を持たずにスルーしてくれると思っていたのに。


「ええ、先ほどね」
「ぎゃふん」
「ごめんなさいね、栞菜。千聖には少し内容が難しくて。愛理と梨沙子さんに、解説していただきながら読んだのよ」

おお、愛理様・・・!このお嬢様の反応だと、あれでそれであばばな部分はぼかしてくれたのですね!
私の脳裏に、愛理の目が笑っていない困り眉スマイルが浮かんだ。ついでに、可愛いお顔を引きつらせた菅谷さんのドン引き顔も・・・。

「私、とても感動したわ、栞菜」
「はぁ」
「惑星リアルセントのマイ皇女に、レジスタンスのチサトが捕らえられるシーンはドキドキしたわ。それから、ウナギのような生き物を用いたチサトへの尋問のシーンも」

――ああ、触手責めのことですね。

「ラストの、惑星へ帰るマイ皇女をチサトが見送る場面も感動的だったわ。あと、謎の美少女カンナとチサトが一緒のベッドに入るのは、私たちの添い寝へのオマージュなのかしら?でも、その・・・なぜ、衣類を纏わずに?」
「いや!ま、まあ!こまけえことはいいじゃないですか、お嬢様!そそそんなに小生の駄文を熱心に読んでいただいて感激でおじゃりまするwww」

ああ、良かった、本当に!もしお嬢様に趣旨説明をしたのが熊井ちゃんだったら、間違いなくマジレスの嵐になっていたことであろう。

「この三角木馬というのは・・・」
「この亀甲縛りというのは・・・」

御丁寧にグーグルイメージ検索で実物を提示しながら、淡々とお嬢様に解説する熊井教授。静かに床に倒れ伏すお嬢様。ピーポーピーポー、有原栞菜さん、ちょっと署まで御同行願います・・・・


「・・・栞菜?」
「はっ!・・・な、なんでございやしょう、お嬢様」

持ち前の妄想癖でバッドシナリオに耽溺していると、お嬢様の小さな手が、私のスカートをちょんちょんと摘んだ。

「ウフフ、どうしたの、そんな風にぼんやりして。・・・ね、私、栞菜の書いたお話を、もっとたくさんの人にお見せしたいわ。そうね、例えばお屋敷のメイドや執事、それからお母様に」
「ひぎぃ!らめぇっ」

奇声を上げて立ち上がる私に、お嬢様はびくっと肩を揺らして怯える。

「わ・・・私、何か悪いことを言ってしまったのかしら」
「や、その、なんだ。あの、だから、つまり、まだ学外の方に評価していただくようなレベルではないので!もっと精進するので、今しばらくお待ちいただきたいでござる!」

よもや、あんな超S級三文エロ小説を奥様方の眼下に晒すわけにはいきますまい。
ド変態にもド変態なりのルールというものが存在するのである(キリッ)。

「まぁ・・・栞菜はお志が高いのね」

そんなドス黒い思いに気づくこともなく、お嬢様は純真無垢な笑顔を私に向けてくる。

「では、納得のいく作品が出来上がったら教えて頂戴ね。執事に製本させて、千聖の知っている方にお配りするから」

「お気づかいありがとうございます。・・・とりあえず、今回のはくれぐれもおうちになんぞ持って帰られませぬよう。めぐぅに見つかったら大変な事になるので」

冗談ぽく(いえ本音ですが)そんな軽口を叩いてみせると、なぜかお嬢様の顔が少し曇った。

「あぁ・・・そうね、めぐには・・・」

そう言って、うつむいてため息をこぼす。
そうだ、最近のお嬢様ときたら、めぐぅが近くにいると、いつも露骨にこんな反応をするんだった。
ケンカや揉め事ではないみたいで、めぐぅもどうしたもんかと首を捻っていたことを思い出した。

「・・・何か、ありました?」
「え?・・・あ、そ、そういうわけではないの。あの・・・心配をかけてごめんなさいね」
「そっか」

きっと、今は言うべきことではないと判断したんだろう。
お嬢様は年齢よりかなり子どもっぽいところもあるけれど、驚くほど人の心の動きに敏感だったりもする。
2人の間に何があったのか、お嬢様は一体どんな気持ちを抱えているのか。正直とても気になるところだけど、下手に勘ぐったり探ったりせず、来るべき時をじっと待つ。
そういう優しさもあるんだと、あの寮で過ごすようになって知った気がする。


「・・・」

傍らのお嬢様は、どこか思いつめたような表情で黙り込んでしまった。
それで構わないと思う。せっかく2人でいるのに、なんて野暮なことは言わない。
お嬢様が次に口を開きたくなった時、一番最初に受け止めてあげられるよう、隣にいればいい。

「・・・少し、冷えてきたわね」
「そうですね」

少し古びた本のにおいと、傍らのお嬢様の息遣い。聞こえる音は外の喧騒だけ。
私はそっとお嬢様の手を握った。



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