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「・・・栞菜は」

しばらくして、お嬢様が私を見上げてぽつりとつぶやいた。

「栞菜は、あの・・・お友達とひどいケンカをしてしまったことはある?もしくは・・・えと、栞菜のお友達が、どなたかと秘密のケンカをしていて、栞菜が偶然それを知ってしまって、困ってしまった経験とか」
「んー・・・」

比喩とかごまかしのないお嬢様のその言葉と、先ほどの「めぐ」の名前が出たときのリアクションで、私はお嬢様が現在胸に抱えている悩みを察知してしまった。


「そりゃあ、たまにはそういうことはありますよ。私の場合、公立からの編入組なんで、良くも悪くも濃ゆーい人間関係に揉まれまくりですし」

まあ、それはあえて指摘せず、私はとりあえず、自分の経験談を話すことにした。
天然を指摘してキーキーと怒らせるのも楽しいんだけど、そういう空気ではないと思ったから。


「ここの学校はまぁ、みんなまったりのんびりだから大丈夫だけど・・・前のトコの話でいったら、私結構独占欲強いし、すぐ泣くし怒るし、仲いい友達とでも揉める時は揉めてましたねぇ。
特にね、共学にいるとね、自分には全く関係ないはずの愛だの恋だののゴタゴタに巻き込れたり、全く女ってやつは」
「あら、栞菜だって女性でしょうに。・・・ウフフ」

少しお嬢様に笑顔が戻り、嬉しくて私もついつい饒舌になっていく。

「恋愛がらみじゃなくても、友達同士の独占欲ってやつも厄介ですね。
例えば、仲良しグループ5人組で過ごしているとするでしょう?
でも、その中でもすごく仲いい子とそこそこ仲いいぐらいの子、それから実はそんなに仲いいってほどじゃない子、とかいろいろあって、お互いの認識が違っているせいで傷ついたり、傷つけてしまったり」

自分の過去のアイタタタな黒歴史が脳裏をよぎって胸が痛むけれど、目をらんらんとさせて私の話に聞き入るお嬢様を見ていると、もっと喜ばせてあげたいと思ってしまう。
・・・私、結構いい奴じゃね?(ド変態だけど)

「・・・でもね、お嬢様。私、そうやっていっぱいケンカした友達とは今でも仲がいいんですよ。転校してからも、ずっとつながってるの。
どんなにひどいケンカをしてこじれてしまっても、お互いのことを心から必要としているなら、必ずそのいざこざには終わりがくるはずです」
「終わり・・・?」
「うん。それに、ケンカになったら周りの友達みんなが心配して、お世話をやいてくれるからね。こっちもいつまでも意地張ってられなくなるっていうか・・・え、ちょ、ちょっとお嬢様!」

黙って耳を傾けていたはずのお嬢様の瞳に、みるみるうちに涙がたまっていく。

「え、ちょちょ、私やらかしちゃった?地雷踏んじゃった?」
「あ・・・違うの、ごめんなさい、私ったら。嫌だわ、最近とても感傷的なの」

無理やり微笑んでも、次から次へと零れる涙で、丸いほっぺたが濡れていってしまう。

「うぅ・・・おじょうさばぁ・・・」

お嬢様の涙もろさなんて比じゃないぐらい泣き虫な私は、ついもらい泣きなんてしながら、必死でお嬢様の顔をハンカチで拭った。

「ありがとう、栞菜。・・・なんだか思い出してしまって。舞と、距離が出来てしまったときの事」
「お嬢様・・・」
「私はあの時、もう二度と舞と笑い合うことは出来ないと思っていたのよ。とても深い絶望だったわ。
でもね、栞菜の言うとおり。皆さんが支えてくださったから、私たちはまた、寄り添うことが出来るようになったの」

涙の切れ間に、たどたどしくお嬢様が語るその出来事は、もちろん私の胸にも深く刻まれていた。

「私ね、栞菜。今ね、どうしても、めぐ・・・えっと、力になって差し上げたいお友達がいて。
でも、私のしようとしていることはただのお節介で、それどころか2人を傷つけてしまうだけなのではないかって、不安で・・・でも、きっともう引き返すことはできないの」
「そっか・・・、うん。うん」

お嬢様は、めぐのために必死になっている。
かつて自分を救ってくれためぐの役に立とうとして、でもそれが最善策なのかわからないから、不安でたまらない。かといって、偶然知ってしまった秘密だから、誰かに相談する事もできない。
こんな小さい体で、とてつもなく大きな問題を抱えてしまって、吐露する機会もなく悩んでいたその気持ちを思うと、私の目頭はまたツンと痛んだ。


「お嬢様はお優しいんですね」
「そんなことはないわ。こんな事は親切の押し売りだもの。しかも、私なんかが」
「でも、その押し売りに助けられるってこともあるんじゃないかな」

私は腰を上げて、暗い部室のカーテンを全開にした。
急な光の刺激に目を瞬かせるお嬢様の頭を抱き寄せると、少し体を固くしたものの、私に身をゆだねてくれた。


「お嬢様が御自分で思っているより、みんなお嬢様のことを好きなんですよ。だから私“なんか”なんて言わないで」
「・・・とても、そんな風には考えられないわ」
「もー、お嬢様のいじっぱり!」

家のわんこにするみたいく、わしゃわしゃと頭をなでまわしてみる。

「何をするの、栞菜ったら!子どものように扱わないでっていつも言っているでしょ!」
「お嬢様。私にも、何か協力できることがあればなんなりと」
「でも、そんな、栞菜にまで」
「いいんですよ。だって、めぐは私にとっても大事な・・・あっ!」
「まあ!」

うっかり名前を出して、慌てて口を塞ぐ私。目をまん丸にするお嬢様。
――本当、私は詰めが甘いわ。

「・・・栞菜は本当に頭がいいのね。千聖、めぐのことだなんて一言も言っていないのに」
「(いや、めちゃ言うとりましたがな)あはは・・・な、なんか勘が働いて。あ!でも大丈夫!別に他の人に口外したりしないんで!」
「ありがとう、栞菜」

ようやく、お嬢様はいつもの三日月目スマイルを見せてくれた。

「栞菜が味方になってくださるのなら、良い結果を導けそうね。えと・・・その、千聖が考えている計画というのが、まず、めぐを」
「あーっ、と!その話はまた、夜にベッドの中でしましょう!それより私、おなか減っちゃったかんな!うちのクラスのジェラート屋さんに行きましょう!今の時間ならなっきぃもいると思うし」
「え?あら?どうしたの?栞菜?あら?」

背中を押されて強制的に歩かされるお嬢様は、お目目いっぱいにハテナマークが浮かんでいる。

「ファイティンですよ、お嬢様!」
「ウフフ・・・ダイスキ、栞菜」

――ああ、神様仏様!聞いた!?これで向う10年、栞菜は笑って生きていけそうです・・・!



そっとお嬢様の肩を抱いて、私は部室を後にした。
向かい側の窓から、鬼の形相でこちらを睨みつける舞様にピースサインを送りながら。




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