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「ねー、ねー、なっきぃ。見て。・・・やっぱ、可愛いねー」
「キュフフ。リーダーったら、ほーんと好きだよね」
「でもなんか、見飽きないよね。子犬の兄弟みたいじゃない?ケッケッケ」

笑いを噛み殺し、小声で話し込む私たちの向かいの席にいるのは、我が家族キュートの末っ子コンビ(厳密には、愛理も末っこなわけだが・・・精神的な成熟度がどうたらこうたら)。

コンサートツアーの帰りの新幹線で、体を寄せ合ってうずくまっている子犬ちゃん2匹。
千聖の小さすぎな顔はマスクですっぽり覆われてるし、舞ちゃんは帽子を深々被っているもんだから、まるでワケアリカップルの逃避行のようだ。
だけど2人は完全にリラックスしていて、舞ちゃんはまるで専用枕にそうするかのように、お気に入りのポケモンタオルを千聖の肩に敷き、おでこを乗っけて熟睡中。
千聖はさっきまで「舞ちゃん可愛い~ぐふぇふぇふぇ」なんてご機嫌な様子だったのに、今はその舞ちゃんの頭にほっぺを押し付けて、こちらもすっかり眠りの世界に。

「和むねー」
「だねー。もう、いっつもこうしていてくれたらいいのに、とかいってw」

最近のちさまいときたら、私をて当て馬にしてお互いに嫉妬し合って毎日ケンカ三昧なもんだから、こういうほのぼのした光景は久しぶり。
千聖も舞ちゃんもわりとお口がお悪いところがおありで、その楽屋を飛び交う罵詈雑言に、舞美ちゃんなんてたまに本気で涙目になっちゃうぐらいだ。

でも、その200%ガチでやりあえる感じが、当て馬っきぃとしては羨ましくもあったりする。
私だってステージ上ではちさまいコンビにヘタレだ何だと罵られるけど、2人は致命的な事は絶対に言わないし、よく考えて発言しているのもわかっている。
舞様にいたっては、よりハードな言葉責めをした日の舞台裏では超優しくしてくださる(あれは単にそういうプレイなのかもしれないケロ)。

そういう気づかいすら無用な関係って、何か素敵やん。
千聖と舞ちゃん、千聖と私、私と舞ちゃん。
それぞれの関係性が微妙に異なるのは当然だし、不平不満もないんだけど、本当に本っ当に2人は仲いいよな・・・なんてしみじみ思ってしまう。

「・・・なっきぃ、何舞見てにやにやしてんの」
「おっ」

そんなことを考えつつ、2人をニヤニヤ眺めていたら、いつのまにか千聖が口を尖らせて私を見ていた。

「舞で変な事考えないでよねっ。なっきぃの変態め」
「べ、別に変態じゃないし!」

また黒歴史ならぬエロ歴史を穿り返されたのかと思い、顔真っ赤にして言い返すと、苦笑交じりに愛理に膝を叩かれた。


「ふん。まぁ、千聖が舞を守るから別にいいけどぉ。・・・ちょっとさー、それよりさー、ちょっと見てよ。・・・可愛くない?」

千聖は無駄にイケメンな表情で私を一睨みした後、親指で舞ちゃんの顔を指差した。


「舞の寝顔、めっちゃ可愛くない?」
「あー・・うん」
「むふふ」

千聖はケータイを取り出し、器用に舞ちゃんと自分のショットをカメラに収めた。

「これ、セレンドに送ってー、千聖の舞なんだってみんなにわかってもらわなきゃね」
「みんなって、誰よ」
「んー・・・人類全般?」
「それはまた、大きく出ましたな」
「あと、一部魚介類にも」

ぶほっ

豆乳でむせ返る愛理のほっぺに、さっきの御返しとばかりに指ツン攻撃を仕掛ける。

「・・・あのね、岡ちゃん」
「んー可愛いなぁ。舞ってミルクの匂いがする」

さすが長女といったところか。千聖は軽く肩を揺すって舞ちゃんをあやすようなしぐさをしつつ、顔を近づけてジーッと見つめる。


「舞って、目でっかくてめっちゃ可愛いけどさ、閉じてても可愛いよねっ!ほっぺもまん丸でさー、口はちょこんとしててさー、千聖の妹の次ぐらい可愛い!そう思わない?」
「はいはい、キュフフ・・・」

ほほう、ライバルはあの妹ちゃんか。リアル身内だけに、舞様これは強敵ですぞ。とかいってw


「あのさ、一応改めて言っておくけど、舞は千聖のだかんねっ!わかった?」
「わかったよう。でも、ステージで舞ちゃんが私にチューッてしてきたら、それは許してよね。悪いのは舞ちゃんなんだから」

私の言葉に、千聖の眉がピクッと上がる。

「そんなのさぁ、お前がよけろよっ」
「・・・千聖ちゃぁん、言葉遣い~」
「でへへ、ごめん~あいりん~」

――ああ、そう。ソウデスヨネー。かわゆいあいりんの忠告なら聞き入れちゃう感じデスヨネー。

千聖ったら、舞ちゃん絡みになると本当に容赦ないんだから。でも男の子口調でズケズケ言われるの、実は嫌いじゃなかったりして。何かゾクゾクしちゃう!・・・私って、本当アレだよね、アレ。


「・・・あー、なんかなっきぃのせいでまた疲れてきちゃった。ちょっともう1回寝るから、大人しくしててね?」
「え?私のせい?ちょっと、もー、千聖ぉ・・・」


言いたい放題言ったらすっきりしたのか、千聖は舞ちゃんの寝乱れた髪を手櫛で優しくすくと、またスピースピーと寝息を立て始めた。


「もー、理不尽・・・」
「まあまあ、いいじゃないか!ほら、ことわざでもあるでしょ?ちさまい元気で留守が良い!みたいな」
「・・・それ、多分誤用。」
「あれ?じゃあ、ちさまいが歩いた後には草木の1本も残らぬみたいな」
「もはやことわざですらないよぅ、ケッケッケ」


リーダーの天然脱力トークに失笑していると、「んー・・・?」といううめき声とともに、今度は舞ちゃんが目を開けた。

「おはー」
「・・・」

寝起きが悪くて、起き抜け仏頂面なのはいつものこと。
だけど、今日の舞ちゃんは明らかに私を睨みつけている。

「な、なんだよぅ」


「・・・なっちゃん、何ちしゃと見てにやにやしてんの」
「はい?」


つい数十分前、名前のとこだけ変えて、投げつけられたのと同じ言葉。

「ちしゃとで変な事考えないでよねっ。なっちゃんの変態め」
「えーと・・・」

――どうやら、この馬鹿ップルは、思考回路が全く同じであるらしい。
御丁寧に、「ま、ちしゃとは舞が守るし」とつぶやいた舞ちゃんは、予想通り、今度は千聖の魅力について語りだした。


うん、あの、わかる。わかりますよ?自分の自慢の彼女(?)の魅力をみんなにお話ししたい気持ちは。
でもね、でもね、だけど。同じ話を2回もされるのって、なかなかの苦痛を伴うって知ってる?しかも、単なるノロケ話!


「ちょっと!ちゃんと舞の話聞いてよねなっちゃん!」
「聞いてまキュフゥ・・・」
「でね、舞美ちゃん。千聖の寝顔ってめっちゃ可愛いじゃん?・・・」


とっくにさっきの千聖の話なんて頭から消えてるんだろう、ほえほえスマイルで舞ちゃんのお相手をしている舞美ちゃんに、スルー検定1級の力で読書を始めた省エネモードの愛理。
どっちの対応もできずに、中途半端なリアクションしか取れない私を舞様が見逃すはずもなく、上の空になるたびに話を巻き戻して聞かせてくださる。


「もー、魚介!」
「聞いてますってばぁ・・・!」


――りーだー、早貴思ったんだけど、一番適切なことわざは“触らぬちさまいにたたりなし”だね。“ちさまいのいないところに煙は立たぬ”でもいいかもしれないケロ・・・。どうせ、このつぶやきは誰にも届かないけれど・・・。


「あー、うん・・・本当に、千聖は舞ちゃんのお姉ちゃんの次ぐらいに素敵ケロね・・・キュフフ・・・」


引きつった笑顔で相槌を打ちながら、私の右手は無意識にエアーケータイにデスメールを打ち込み始めたのだった。


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