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雪の降る高原に、私は一人ぼっちでいた。一面真っ白で、何も見えない。
不安にかられて歩いていると、遠くの方から楽しそうな笑い声が近づいてきた。

「かまくら作ろう。」
「みんなで座れるソファを作ろう。」
「ソリで遊ぼうよ。」
なぜか懐かしい気持ちになる。キュートの皆だ。私は声のする方に向かって走り出す。
「舞美ちゃん。」
雪玉を栞菜にぶつけようとふざけている舞美ちゃんに声をかける。

振り向かない。

二度、三度と名前をよんでも、私のことなんか気が付かないみたいに誰も反応してくれなかった。
怖くなって舞美ちゃんに飛びつこうとしたけれど、私の体は舞美ちゃんをすり抜けた。雪の中にしりもちを付く。
「栞菜。えりかちゃん。ねえってば!」
とっさに投げた手元の雪さえ、誰にも届かずに地面に落ちた。

「楽しいね。」
「面白いね。」
「あっちでソリ競争やろうよ。」

またみんなが遠ざかっていく。
誰も私に気づいてくれない。私なんかいなくて当たり前のように、世界が循環していく。
嫌だ、舞はここだよ。誰か私を見つけて。ここにいるんだよ。

「舞ちゃん。」
ふりむくと、ベージュのハンチングを被った千聖が立っていた。
「舞ちゃん。遊ぼうよ。」
おそるおそる、差し出された手に触ってみる。
すり抜けない。暖かい千聖の手が、ぎゅっと握り返してくれた。
「舞ちゃん手冷たくなってるー」
千聖はうへへって楽しそうに笑っている。
よかった、千聖元に戻ったんだね。そして、ちゃんと舞のこと見つけてくれた。
誰も気づいてくれなくても、千聖だけは。

「皆のとこ行こう。一緒にソリ乗ろうよ。」

手を引っ張られて、転がりそうになりながら2人で走る。
「千聖。私、千聖にまだ謝ってない」
「なーに?聞こえないよぅ」
「うわっ」
千聖があんまり早く走るから、私はつまずいて転んでしまった。
手が離れる。千聖は気づいていないかのように、笑い声をあげながらみんなの輪の中に入っていく。
待って、やだよ。千聖、千聖!!」

「舞!大丈夫!?」

・・・・・・?

いきなり、舞美ちゃんのドアップが目の前にきた。
「舞、大丈夫?うなされてたけど」
何だ。夢か。千聖の手だと思って握っていたのは、舞美ちゃんの手だったのか。
「あれ、ここ・・・」
「ああ。タクシーの中でぐっすり寝てたから、とりあえず家にお泊りしてもらうことにしたんだ。舞のママには連絡してあるから、大丈夫。」
壁にかかっている時計を見ると、もうすぐ日付が変わるぐらいの時間だった。
よっぽど熟睡していたんだろうな。レッスンスタジオを出てからここにたどり着くまでのことが全く思い出せない。
「なっきーは?」
「家に帰ったよ。舞によろしくって。」
「ふぅん」

目が覚めてくると、今日一日にあったことが次々と頭をよぎっていく。
ダンスレッスン中に栞菜となっきーがケンカして、なっきーが居残り練習をするっていうから、ロビーで待っていた。
約束していたわけじゃないけど、千聖のことを話したかった。
なっきーは千聖のことを話せる、唯一の理解者だったから。ついさっきまでは。
しばらくたってもなっきーが階段を降りてこなかったから、様子を見にロッカーまでいくと、中で「あの千聖」が歌を歌っていた。
なっきーとの約束で、最近は挨拶ぐらいはするようにしてたけれど、やっぱりなるべく係わりを持ちたくなかった。
前の千聖と同じで、自分のパートと愛理のパートだけをずっと練習している。

何だよ。頭打っても愛理のことはちゃんとライバルだって覚えてるんだ。私が千聖にとってどんな存在だったのかも忘れちゃったくせに。
苛立つ気持ちを押さえて、廊下の端まで移動する。ちょうど入れ替わるようなタイミングで、なっきーがロッカーに入っていった。
しょうがない。もし2人が一緒に出てきたら、今日はあきらめて帰ろう。・・・話ぐらいは、聞いてもいいよね。
そう思ってドアの前まで行くと、千聖がなっきーに「私のライバルは愛理です」とかなんとか言っていた。
たよりない変なお嬢様キャラに変わっても、そういうことははっきりした口調で言えるんだね。むかつく。
そして、次になっきーが信じられないことを言った。

「千聖は変わってないね。前の千聖のままだね。」

その後のことは、あんまり覚えていない。

なっきーに文句を言ったような貴がする。

千聖を怒鳴りつけた気もする。

もしかして、暴力を振るったのかもしれない。
気がついたら、舞美ちゃんにすがりついて大泣きしていた。

こんなに泣いたのは初めてかもしれない。まだこめかみが痛い。

「舞、熱いココア入れたから、あっちで飲もう。」
こんな真夏に、Tシャツにハーフパンツでホットココアって。
「ありがとう。」
カップを受け取って、口をつける。

熱いけど、おいしかった。舞美ちゃんはかなりの天然だけど人の好みをよく記憶していて、
たまにこういう風にお茶を入れてくれることがあると、いつもそれぞれが一番おいしく飲めるように気を使ってくれる。
「おいしい?」
汗だくだくになりながら、舞美ちゃんが首をかしげる。
「うん。舞は砂糖少な目でミルクが多いのが好き。ちゃんと覚えていてくれたんだ。」
「そりゃあそうだよ、大好きなキュートのことですから。みんな特徴あって面白いから、なんか覚えちゃうんだよね。
愛理は味薄めでしょ、栞菜はココア粉大目にミルクたっぷり。ちっさーなんてココアも砂糖もミルクもがんがん入れて!とか言ってさ。・・・・あ、」

「・・・いいよ、別に。舞の勝手で今の千聖を受け入れられないだけなんだから、そんな風に気使わないで。」
心がかすっかすになっていたけど、まだ笑顔を作ることぐらいはできた。
「ねえ、舞。千聖のことなんだけど」
「今はその人の話したくない。」
「舞。・・・・ううん、そうか、それじゃ仕方ないね。違う話しよっか。あのさ、友達の話なんだけどね、最近。・・・」
舞美ちゃんの顔がちょっとだけ曇ったけれど、それを打ち消すように不自然に明るく振舞ってくれた。
「うそー。ありえないよ。」
「でも本当なんだって、私もびっくりしちゃってさあ」

“・・・バカじゃないの、周りの人傷つけて、あんた何で笑ってんの”

舞美ちゃんに調子を合わせて、楽しげに話す自分を、もう1人の自分が責めている声が聞こえた気がする。
会話が盛り上がれば盛り上がるほど、心には虚しさが降り積もっていった。



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