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――つまり、だ。
もともと知り合いだった、鬼軍曹もとい村上さんと夏焼さんは、喧嘩か何かで気まずくなっていた。
そこで、千聖は2人の仲を取り持とうと、楽屋に村上さんを招いた。
すると、心の準備ができていなかった夏焼さんは、動揺して部屋を飛び出した・・・ということなのかな。


ももちゃんと愛理が楽屋を去り、沈黙が流れる室内で、私は千聖の手をにぎったままそんなことを思い浮かべていた。
もともと推理は得意分野。昨晩の千聖の言動と照会させてみれば、大体予想はつくというものだ。

「千聖。」

私は千聖の腕を軽く揺すった。・・・何にも反応が返ってこない。

「ねえってば」

こういう時、なっきぃやえりかちゃんは「お嬢様の自主性を尊重して云々」とめんどっちいことを言うけど、私は常に千聖の胸のうちを把握していたいし、傷つかないように予防線を張っておいてあげたいと思ってしまう。



「・・・知ってたの?」


すると、村上さんの妙に乾いた声が部屋の空気を裂いた。
制服越しに、千聖の腕に力がこもるのを感じた。


「さっさと答えて、千聖」

無表情のまま、村上さんは言葉を紡ぐ。


「何、その言葉遣い。いくらプライベートだからって・・・」
「舞」

正直、村上さんは他の人と違って、多少やっかいな相手だと思う(あーいえばこーいうし・・・)。
でも、私の千聖を責めるようなことをするなら、やっぱり全力で戦うしかない。そう思って、口を開くと、千聖の指が私の頬にそっと触れた。


「いいのよ、舞」
「だけどさ」
「ありがとう。・・・私のために、そんな険しい顔をしないで。私は、大好きな人たちには笑っていて欲しいわ」

ささやくような声でつぶやいた千聖は、まるで天使みたいに柔和に、とても儚い微笑みを浮かべていて、私は言葉に詰まってしまった。


「・・・めぐ。まずは、驚かせてしまってごめんなさい」
「だから。そんなことより、いつから知ってたのかって聞いてるの」


苛立ちを剥き出しにした声にも、千聖は怯まない。

「3ヶ月ほど前かしら」
「・・・知った経緯は」
「偶然よ。知ったというより、感づいてしまったというほうが適切かしら」

普段なら逆ギレしたり、泣きべそかいちゃうだろう千聖のその落ち着きっぷりに、むしろ私のほうが動揺を隠せない。
一方、村上さんの眉間の皺は深くなっていくけれど、声を荒げる様子はない。
しばらく黙って千聖の顔を睨むように見つめると、ふいに目を閉じて深くため息をついた。



「・・・・余計な事、しないでよ」



吐息とともに発せられた言葉を、千聖は静かなまなざしのまま、しっかりと受け止めたようだった。

「めぐ」

千聖の指は私の手をすり抜け、そのまましゃがみこむ村上さんの二の腕にそっと添えられる。
振り払うでもなく、村上さんはその丸い指を見つめて、またぽつりとつぶやく。



「余計な事しないでよ・・・」


二度、繰り返されたその言葉にいつものような力はなく、常にギラギラと光を称えている目力も消えて、傍目にも動揺が伝わってくる。
私もさっきから手汗がとまらず、自分の狼狽っぷりに驚いているぐらいだというのに、千聖は相変わらず、冷静さを纏ったまま村上さんと対峙している。


「私のしたことが、余計なことだと言うの?」
「だから、何度もそう言ってるでしょ」
「でも、めぐはみやびさんに会いたかったのでしょう?だったら」
「千聖に何がわかるの?私が、今まで、どんな気持ちで」

声を詰まらせた村上さんは、唇を歪めて顔を逸らした。


言葉が見つからなかった。
村上さんと夏焼さんに、どんな過去があるのかなんて知らない。――否、さして興味もないと思っていた、さっきまでは。
千聖が望んでいるなら、仲裁してあげようかな、ぐらいの気持ちだった。
だけど、いつもの強気で自信に満ちた態度とは全然違う村上さんを見ていたら、胸がずきんと痛んだ。
厳しい人だけど、みんな以上に私に厳しくする人だけど、・・・私はどうやら、自分で思っていた以上に彼女のことを好きみたいだ。


だからこそ、今やみくもに千聖をかばい、村上さんの傷を広げるような真似はしたいとも思わない。
だけど、千聖が厳しい言葉で糾弾されるのも見たくない。

こんな時、フォロー上手ななっちゃんやえりかちゃんならどうしてた?私は、どうすれば・・・



「めぐ、顔をあげなさい。命令よ」

その時、少しだけトーンを落とした千聖の声が響いた。


「やだ」
「それなら、そのままでもいいわ。・・・ねえ、めぐ。私は、どうしても2人に仲直りをしてほしかったの。
強引な手段であったことは、申し訳ないと思っているわ。でもね・・・めぐは、もうこのまま、夏焼さんとずっとすれ違ったままでいいと思っていたの?」
「そんなわけないでしょ。・・・だけどね、私には私のタイミングがあったのに。どうして今、こういう形で」
「まあ・・・だったらめぐは、どういうタイミングが望ましかったのかしら?」


それは、もう普段の落ち着きなくワガママな千聖のキャラクターとは全く違っていた。
相当無理をしているのは、その震える指が物語っているけれど、精一杯、メイドを躾けるお嬢様の体裁を保とうとしている。・・・それがわかっているからこそ、村上さんも怒鳴り散らしたりできないんだろう。

「だから、それはいつか違う時に」
「いつか、ですって?何を言っているの、めぐ。いつか、なんていう名前の日は存在しないの。めぐが決めなければ、そんな日は永遠にやってこないのよ」

千聖は顔を上げ、夏焼さんたちが去っていったドアに強い視線を投げつけた。


「・・・ずっと待っていたのに。めぐが、たった一言でも私に、みやびさんとのことを相談してくれるのを、私は待っていたのよ」


「千聖、もういいから」

私はたまらなくなって、千聖の肩を掴むと、村上さんから思いっきり引き離した。
偶然顔に触れた千聖のほっぺたが熱くて、ひどく興奮していることを物語っていた。


「・・・めぐ。あなたは昔、友達に自分の気持ちばかり押し付ける私を叱りつけたことがあったわね」
「・・・」

なんのことか、思案するまでもない。
村上さんもすぐに思い当たったのか、眉一つ動かさず、じっと千聖の顔を見つめている。


「よくも、あんなことが言えたものね。めぐだって、心配している人の気持ちなんて全くわかっていないじゃないの」


徐々に冷静ぶったメッキがはがれだして、にぎりしめた千聖の拳がぷるぷると震えている。・・・結構根に持つタイプなのね、千聖ったら。


「あの時めぐが私に言った言葉、そっくりそのまま返すわ」
「ちょ、ま、」



「めぐの、ばか!!!」



――あー、言わせてしまった。

いくら普段私と同レベルで騒いでいるとはいえ、バカだのアホだのという言葉を使わせるのは、あまりよろしいことではない。


だけど、ずっと胸の奥にしまい込んでいた言葉だったんだろう。
当の千聖は拍子抜けするほどすっきりした顔をしている。
村上さんはどうだか知らないけれど、私には千聖の健気過ぎる思いが十分伝わった。・・・舞のためにここまで熱くなってくれたこと、あったっけ?なんて嫉妬心がうずくのは御愛嬌ね。


「・・・言いたい放題、言ってくれるじゃん」
「あっ」


すると、村上さんはおもむろに立ち上がって、私たちの前に無言で立ちふさがった。


「な、なんだよ。一介のメイドが、お仕えしているお嬢様に乱暴な真似していいと思ってるわけ?こういうのはね、民法の・・・」


私のへ理屈もなんのその、村上さんの視線は千聖だけに注がれている。
別に怒ってるようには見えないけれど、もうその目には一切の迷いは感じられなかった。


「私にお説教しようなんてねっ、1億万年はやいんだよっ」
「んーっ!」
「ちょっと!暴力反対!」

めぐの手が千聖のぷにぷにほっぺをつまんで、上下に軽く揺する。
――全然、痛くしてないのわかってるけど。二人が笑い合ってるの見ればわかるんだけど。嫉妬込みで邪魔してやると、ちょっと眉を下げた村上さんが、私と千聖を交互に見比べてニヤッと笑う。


「・・・ありがと、なんて言わないから」
「あっそ」
「もう、めぐったら」


“言葉なんかじゃなくて、ちゃんと行動で返すからね”

私も千聖も、そんな気持ちをしっかりキャッチしたから、憎まれ口もスルーしてあげられる。


「・・・というわけで、こちらはキレイにまとまったんで、どーぞ!」

一息ついたところで、私は手をメガホンにして大きな声を出した。


――ガチャ。



間髪入れず、苦笑気味の愛理とももちゃんが顔を覗かせる。


「舞ちゃん、勘よすぎ~ケッケッケ」
「ていうか、情緒がないよねぇ。もう少し友情シーンをねちねち楽しんでもよかったんじゃなーい?いくらメイドさんと千聖にヤキモチやいたからってぇ。ウフフ」
「あー、うるっさい!」

萩原いじりモードの2人を軽くいなしていると、その背後から、もう一人、そっと私たちの前に姿を現した。


「・・・みやび」
「めぐ・・・」



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