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「・・・」
「・・・」
「・・・」

ザクッ ザクッ


目のまえで、えりかちゃんお手製のチーズタルトが細かく裁断されていく。

犯人は、お誕生日席で無表情のままフォークを動かすお嬢様。
黙っていればかなり整ったお顔立ちで、大人っぽくもみえるんだけど・・・よく見れば口元がひくひく動いていて、爆発寸前なのがよくわかる。

「あああ~・・・」

涙目のえりかちゃん。なんか汗かいてる舞美ちゃん。とりあえず笑っとけ、みたいなテンションで、ギロリとお嬢様に睨みつけられる私。ティータイムだというのに、完全にお通夜状態。オヤツだけにね、ケッケッケ


「お嬢様!ほ、ほら、せっかくのえりのケーキが!早く食べましょう!」

ホールサイズのタルトの7分の1が、お嬢様によってみじん切りにされた頃、やっと舞美ちゃんがフォークをそっと取り上げてくれた。みるみるうちに、お嬢様の顔が“だだっこ”のそれに変わっていく。


「・・・だって、舞もなっきぃも栞菜も帰ってきていないわ」
「大丈夫です!そのうち、ね?だから、先にいただきましょう?その、千切り・・・いや、小さくカットなさったのは私がいただきますから」
「これはいいの!最初からこうしていただくつもりだったの。めぐ、千聖の分を取り分けて。それからスプーンを持ってきてちょうだい」
「はいはーい」
「ひーん・・・ウチのタルト・・・」


ああ、恐ろしや・・・最近は不機嫌が態度に出づらくなって、生活指導係のなっきぃからも“お嬢様、素敵なレディになられて・・・”なんて褒められていたはずなのに、今のお嬢様にはそんな面影はまったくない。

まあ、私たちに八つ当たりせず、自分の分のケーキをターゲットにしてるだけいい・・・のかな?


「グスッ・・・お嬢様ったら、そんなにお怒りにならなくても・・・」
「まあ、何を言うのえりかさんたら」

えりかちゃんからの弱弱しい反論に、ますますお嬢様はヒートアップしていく。
めぐぅはめんどくせっ!とばかりにちょいちょいっと退散してしまって、この不測の事態に対応できる手練は残念ながらここには存在しなかった。

「だって、ひどいじゃないの」

瀟洒なお屋敷にはおおよそ似つかわしくない、少し上ずったお嬢様の声が響き渡る。


「私はね、全く聞いていなかったのよ」
「は・・・はい」

「3人でお買い物に行くなんて!千聖は聞いていなかったの!」


小麦色のほっぺを紅潮させて、お嬢様は心底悔しそうに膝を叩いた。


そう、休日の本日、舞ちゃんとなっきぃと栞菜は、朝から駅前のショッピングストリートに遊びに出て行ってしまったのだ。
学園のお嬢様の取り巻きさんですら一目置いている、お嬢様親衛隊の御三方としては、かなりレアな行動といえよう。


舞ちゃんは基本買い物はお嬢様が忙しい日の放課後にちょいちょいっと出かけて済ましているようだし、あとの2人も普段なら「お嬢様!ちょっと出かけてきますけれど云々」と聞かれてもいない情報をお嬢様に与えまくっているはず。

外出許可が降りなければ、寮生同伴でのお買い物も難しいお嬢様としては、まさかの裏切りといった感じなんだろう。

「で、でもでも、あの、ほら、タイミングが悪かっただけかもしれないですし!本当はお嬢様も誘いたかったのかも!」
「そうですよ!ほら、また今度執事長さんに頼んで・・・あ、あれ?」


全力フォローに回る私たちの目の前に、お嬢様が無言で携帯電話を突きつける。



“今ねー、3人でプリとったよ★マヂたのしーんですけどっ”
“ヘアゴムおそろっちで買っちゃった♪カワイイでしょ?お嬢様も食べちゃいたいぐらいかわいいかんな!”
“カラオケなう!ケロッ”



「おお・・・」

そこに並ぶメールは、まるでお嬢様を挑発するかのような、仲良し報告のオンパレード。


「・・・3人同時に頭でも打ったんとちゃうか」

えりかちゃんのコテコテ関西弁突っ込みに内心同意しつつ、私は首をかしげた。


「千聖を仲間はずれにするなんて!それに、どうして楽しかったことを自慢するの!千聖がからおけに行ってみたいというのを知っているくせに、意地悪だわ!」
「まったくおっしゃるとおりです」


そう。舞ちゃんはともかく、お嬢様廃人の栞菜となっきぃが、こんな真似をするというのは一体どういうことなんだろう。
なかなか、凡人(?)の私には理解できない感じなんですけれど・・・



――♪♪♪

「おっ」

すると、今度は私の携帯がメールの着信音を奏でた。


怒りに任せて舞美ちゃんたちにマシンガントークをかますお嬢様を尻目に、こっそり開いて中身を確認する。

“ねー、今ちさとどんな感じ?怒ってる?悔しそう?べそかいてたりして???反応kwskぷりーず!”



「あー・・・、はーん。なるほどねぇ?」

――つまり、ヤキモチを焼かせたくて、こういう大掛かりな手段を取った、というわけか。
普段はお嬢様の愛情を独占しようと、血みどろの戦いを繰り広げている御三方は、いきなりこうやって結託するから恐ろしい。
お嬢様相手にこんな挑発ができるなんて、私にはとても考えられない。大胆不敵というか、なんというか・・・。


だけどね、私だって、そうそういい人ってわけでもないのさ。ケッケッケ


“んー、別に全然、怒ってないよ!今みんなでタルト食べてる。舞美ちゃんの天然で、みんな笑ってるとこだよん。あーおいしー♪”


わざとそんな文章を打って、送信ボタンに手をかけると、「・・・おぬしも、なかなかのワルよのう」と後ろからささやかれた。

自慢のタルトをせん切りにされた、濃い目の顔の美人さんが、にんまり笑って画面を覗き込んでいる。


「ケッケッケ。でも、止めないんでしょう?」
「えりか、何のことだかわかんなーい。てか、何にも見てなーい。・・・てか、愛理って結構、なかなか、怖い子よねぇ。平和主義者かと思いきや」
「えりかおねーさまこそ、なかなかどうして。ケッケッケ」


――本当はお嬢様、狙い通り嫉妬しまくっているけど。たまには私たちだっていたずら心が働いて、事態を複雑化させてみたくなったりもするのだ。



「じゃ、じゃあお嬢様!今度私とえりと愛理と一緒に、お買い物に行きましょう!」
「まあ・・・本当に?でも、許可が」
「ちゃんと説得しますから!私生徒会長ですし!・・・いや、あんま関係ないか、とかいってw」
「ウフフ、そうね。舞たちなんかに負けないぐらい、楽しいショッピングにしましょうね。千聖、げーむせんたーに行ってみたいわ。あと、遊園地と・・・」


送信ボタンを押して振り返るころには、もう舞美のおかげで、お嬢様のご機嫌はだいぶ回復していた。

――んま、たまにはこんなブラック愛理ちゃん(自分で言っちゃった)もアリなんじゃないでしょうか。
帰宅して、お嬢様に涼しい顔で出迎えられた時の3人のリアクションを想像して、私は密かに笑いを噛み殺したのだった。ケッケッケ♪


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