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夏焼さんと村上さん。
2人はその場から動かずに、しばらくの間静かに見つめあっていた。


「あ・・・」
「ウフフ」

こういう時、意外とおせっかい焼きだったりする愛理が、何か言いかけてまたすぐに口を噤む。・・・どうやら、私の横の千聖が目線で制したようだった。


「めぐ」

さっきとは打って変わって、とても柔らかい声で、千聖は村上さんの手をそっと握った。
強張っていた村上さんの表情が、少しずつ和らいでいく。・・・りーちゃんが魔女なんて呼んでるのを裏付けちゃうような、千聖の魔法。人の心を包み込んで、優しく抱きとめる不思議な力。

「千聖がめぐのそばにいるから」
「・・・うん」


村上さんは千聖と手をつないだまま、ゆっくり夏焼さんに歩み寄った。


「みやび、あのさ・・・すごい、いっぱい言いたいことがありすぎて、どうしたらいいかわかんないんだけど」

その声はちょっと上ずって震えていて、聞いてはいけないものを聞いてしまったような、不思議な罪悪感に苛まれる。


「私ね、みやび。頭混乱してうまく言えないと思うけど、ずっと、私、みやびに、だから、あのね、私が」
「待って」

呼吸すら乱しながら喋り続ける村上さんの顔の前に、夏焼さんが大きく開いた手を突きつける。

「めぐ、変わってないね。いつも冷静なくせに、動揺するとダメダメになっちゃうとこ」
「みやび・・・」
「私も、いっぱい話したいことあるよ。めぐに話したいこといっぱいありすぎて、もうどうしたらいいかわかんないや」

照れたように笑ったその顔が、みるみるうちに歪んでいく。
まるで、持て余した思いをぶつけるかのように、夏焼さんは村上さんの体に飛び込んでいった。
そのまま、しがみつくように肩に顔をうずめる。


「もう離れるのやだよ、めぐ。私、ずっとめぐに会いたかった。私、めぐがいないと何にもできないよ。

会えなくなってからもずーっと、めぐのことばっか考えてた。めぐのこと、考えない日なんてなかった。友達ができなかった時も、勉強ついていけなくて挫折しそうだった時も、めぐのこと思い出して頑張ってきた。
だって、めぐが、私がいなくても一人でも頑張れって言うから。あんな風に別れて、めぐに嫌われて、でも私は・・・」
「違う。嫌ってるわけないじゃん。何なの、もう。千聖もみやびも、私の気持ち勝手に決めて」


夏焼さんの背中に回された、村上さんの手に力がこもる。
離れていた時間、それから心の隙間を埋めるように、2人は静かに強く抱きしめあっていた。


「ちさと」

慈しむような表情で、静かに2人を見守る千聖。
きっと、ずっと千聖の中で思い描いていたとおりの場面なんだろう。
安堵感でフラッとよろめく体を後ろから支えると、照れたように笑ってくれた。


「私だって、ずっとみやびに会いたかったんだから。嫌ってなんかいない」
「だったら、どうして連絡くれなかったの・・・?」
「それはみやびだって同じじゃん。私はただ、自分がもっとしっかりした人間になれたら、その時はちゃんと・・・」

「はいはいはい、ストーップ。もうその辺でぇ」



――なのに、いきなり、2人の間に分け入る影1つ。・・・ももちゃんだった。


「ちょっとぉ」

思わず一番に抗議の声を出したのは、・・・なんと私だった。
自分でも驚いたけど、みんなもびっくりだったらしく、視線を向けられて顔が赤くなる。・・・な、なんだよ!舞が熱くなっちゃいけないのかよ!


「・・・もう少し、話させてあげたっていいじゃん」

決まり悪いけど、とりあえずそんな抗議をしてみる。

「んー、でも、ほら、もう開演時間すぎてるし」

でも、プロ(?)のアイドルさんはシビアというかビジネスライクというか・・・私の言葉も楽屋の空気も気にせず、「ほらほら」と夏焼さんの腕をひっぱる。


「千聖、みやのメイク直してあげて?目元崩れちゃってる」
「え、ええ・・・。あの、みやびさん、こちらへ」
「あ、はい」


その指示で、千聖とみやびさんがその場を離れていくから、慌てて私も二人の後ろをくっついていく。
それを確認したももちゃんは、今度はつかつかと村上さんのほうへ向かって行った・



「・・・なにか」

対峙の邪魔をされたせいで、村上さんの表情はわかりやすく引きつっている。



ももちゃんと村上さん。
タイプは全く違うけれど、あまり衝突させるべきではない組み合わせだというのは容易に想像できる。
さっきとは違う意味で、心臓がドキドキと高鳴る。
ももちゃんの薄い唇が、ゆっくり開いていく。


「・・・初めて千聖のお屋敷に行った時ね、もぉ、どっかでメイドさんの顔見たことあるなって思ってたんだけど」

ももちゃんは「うふっ」と肩をすくめて、村上さんの耳に顔を近づけた。


「・・・時間がないって言ったのはももなのにねぇ~」
「だよねー・・・」
「うふふ。ももちゃんにも、何かお考えがあるのよ」
「ふーん、ももちゃんのことは信頼してるんだ。ふーん、あっそ」
「舞ちゃん、またやきもちやいてぇ。ケッケッケ」


――はいはい、どうせ私はガキですよ。

村上さんと再会したことで、心が落ち着いたのか、夏焼さんも私たちの会話を聞いて笑っている。


「は!?嘘、でも・・・」
「だって、もぉ絶対見たし!」


すると、ちょっと離れたところにいる2人からちょっと大きな声が上がる。
夏焼さんの表情が強張った。
「みやび・・・」

戸惑ったような、いぶかしむような表情で、村上さんが歩いてきた。そのまま、夏焼さんの目のまえに携帯電話を突きつける。・・・なぜか、背中側を。


「あ・・・」


だいぶ年季の入った、何年も前のモデルのシルバーのケータイ。
電池パックのところに貼ってあるのは、もう塗装も落ちてセピア色になってしまった1枚のプリクラだった。


“大スキ”
“ずっと仲良し”

そんな落書きとともに、ほっぺをくっつけ合って笑っているのは、まだ幼い顔の夏焼さんと村上さん。


「それ・・・」

小さな声でつぶやくと、夏焼さんはおもむろに衣装の襟ぐりに手を突っ込んだ。


「あっコラみや!そんなとこに隠し持っくぁwせdrftgyプロ意識ふじこlp」

ももちゃんのキーキー声をBGMに、取り出されたのは、これまた同じ機種のケータイ。・・・貼られているのは、同じプリクラ。


「ケータイ・・・変えなかったんだ」
「めぐこそ、そんなボロボロになってるのにまだ使ってたんだね」
「ばっかじゃない」
「こっちの台詞ですぅ~」

ケータイを重ね合わせて、色あせたおそろいのストラップが絡まる。
それで、2人はやっと、目を合わせて笑い合った。

「みやのケータイに、貼ってあったプリクラ。やっぱりあれ、メイドさんだったんだねぇ。ウフフ」
「・・・なんていうか、ももちゃんっていい奴だよね。デリカシー足りないけど」
「ええ。デリカシーが足りないけれど、ももちゃんは素敵な方ね」
「ケッケッケ、デリカシー足りないももが大好きさぁ」


「・・・おいっ!いや、そんなことより、もういいよね?ね?みや、準備できたよね?ね?ほら行くぞ!」


ちやほやされるのはスキだけど、リアルに褒められるのはちょっと苦手。
そんなももちゃんらしく、再び私たちを急かすと、いきなり肩を組んできた。


「お?」
「円陣。気合入れて舞台立ちたいからねっ。裏方さんだって大事な仲間さ!」


夏焼さんに、愛理。それから千聖と私。さらに、村上さんまで強引に輪の中に入れると、ももちゃんはキリッと表情を引き締めた。


「・・・めぐ、ステージ、見てて。絶対、めぐのこと感動させて見せるから」
「うん!わかった。ダメだったらリアルにダメ出ししてやるから、とかいってw」
「準備いーい?それじゃー、いきますよぉ~」

ももちゃんの掛け声がはじける。

ステージへと走り去っていく夏焼さんの背中はとても軽やかで、それを見守る村上さんの表情は優しくて、私と千聖はこっそり目を合わせて微笑んだ。



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