明日も早いからもう一眠りしようか、と舞美ちゃんに言われて、一緒のふとんに入り込んだ。
さっきまでぐっすりだったからまだあんまり眠くはなかったけれど、すぐ近くに大好きな人のぬくもりがあるのは心地良かった。

「おねえちゃん。」
「ん~・・・」

呼んでみたけれど、舞美ちゃんはもうすでに寝付いてしまったみたいだ。
きっとすごく疲れてたんだろうな。全然関係ないのに私たちのゴタゴタに巻き込まれて。
もう一眠りなんて言ってるけど、舞美ちゃんはさっき寝ていなかったと思う。
私が目を覚ました時に寂しくないように、ずっと起きててくれてたんだ。
「ごめんなさい、おねえちゃん。」
私はこんなに子供で聞き分けがないのに、舞美ちゃんはそのことを咎めない。
その優しさが、今はどうしようもなく苦しかった。柔らかい棘で、心をつつかれているような気分だった。

朝になれば、もう少し落着いて考え事ができるかもしれない。
舞美ちゃんの匂いに包まれて眠ろうと思ったけれど、目を閉じればさっき夢の中で会えた千聖を思い出してしまう。虚しさが胸をよぎる。


「千聖に会いたい。」
何度つぶやいたかもうわからないけれど、また自然に唇から零れ落ちた。
がさつでお調子者で子供っぽかったけれど、誰よりも優しかった千聖。
どれだけ無神経な振る舞いをしても、勝手なことを言っても、千聖は私を見捨てないでいてくれたのに。
前の千聖に会って、ごめんねを言いたい。
顔中ふにゃふにゃにして、「舞ちゃんもういいよぉ」って笑ってほしい。
もう二度と、元気な千聖に会えなくなるなんていやだ。

「会いたい。」
私はピーピー子供みたいに泣くのは嫌だ。
キュートはみんな結構泣き虫だけど、自分だけは違うって思っていた。
でも、千聖のこととなると別問題だ。
なっきーの前で泣いて、舞美ちゃんの前で泣いて、「あの千聖」の前でも大泣きした。
今もすでに涙腺が決壊しそうになっている。


「ちさと・・・・・」
「舞。」
その時、私の肩に大きな手が触れた。
カッと目を見開いた舞美ちゃんがそこにいた。
「ひぇ・・・」
情けない声が出た。

「・・・・・」
私の名前を一度呼んだきり、舞美ちゃんは微動だにしない。
舞美ちゃんは喜怒哀楽のでやすいタイプだから、顔を見れば大体機嫌がわかった。
なのに今私を凝視するその顔からは、何も読み取れなかった。

・・・・美人の無表情って、すごく怖いかもしれない。

5分、10分、空気が凍りついたまま、時間がすぎていく。

「よし。」

何がよしなんだかわからないけど、舞美ちゃんはおもむろに立ち上がって、部屋を出て行った。

しばらくすると、何が言い争うような声が聞こえてきた。

“でも今じゃなきゃ”

“こんな時間に非常識だろ”
何の話をしているんだろう。耳を欹てていると、勢いよくドアを開かれた。
舞美ちゃんの目が異様にキラキラしている。

「舞、行こう。」
「え、ちょっと待って。行こうって、どこに?」
舞美ちゃんに強引にTシャツを剥ぎ取られ、着替えさせられる。
そして、信じられないことを言われた。

「今から、ちっさーの家に行こう。」



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最終更新:2013年11月18日 23:03