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千聖が眠る。
コンパクトな体を折り曲げて、さらに小さくなってすやすやと。
寝息に合わせて上下する背中。手を乗せると、意外なほど強く心臓の鼓動が伝わった。・・・また、痩せたのかもしれない。


「たしか、そういう体勢で寝ると、体に悪いんだよねぇ」

通りがかりに愛理がつぶやく。私に、起こしてやれといっているんだろう。


「でも、もう少しだけ」

気まぐれな愛理が聞いてるかはわからないけど、一応そう応えて、私はまた千聖の背中をなでた。


体育座りして、頭を膝につけて、うずくまって。

それは、千聖が弱っているときに見せる仕草。
人一倍デリケートなくせに、ガサツなふりして傷つくのはいつものこと。
限界まで頑張って、こうして打ちのめされる姿を、私は何度も何度も見てきた。


「ねえ、岡・・」
「あとで」

なっちゃんの声を遮る。


「・・・舞ちゃんさぁ」

ため息をついて、あきらめたようになっちゃんが去っていく。


わかってる。自分がどれだけ滑稽なことをしているのか。
自分一人が千聖の理解者だと思い込みたくて、みんなを遠ざけては自己満足に浸るなんて、どうかしてる。
だけど、私は自分が千聖にとって、特別な存在であると信じたかった。

千聖は誰にでも優しい。でも、心の中の奥の奥までは見せてくれない。
無理に暴こうとすれば、人に慣れない猫みたいにさりげなく、だけど全力で私を拒む。
そのたびに私は打ちのめされて、それでも千聖の一番になりたくて、黙って見ていてくれるみんなの優しさを盾に、こんなことを何度も繰り返している。



「ん・・・舞さん?」

小さくみじろぎした千聖が、顔を上げる。


「おはよ」
「ええ。・・・私、眠っていたのかしら?」
「もう、爆睡だよ。舞がそばにいるのにさ」

私は千聖の脇に腕を通して、自分の体に押し付けるみたいに強く抱いた。
柔らかさと、どこか硬い骨っぽさと。千聖の体の感触を、全身で噛み締める。


「舞さん?」
「舞、今寂しいの。だからなぐさめて?」
「まあ・・・」


千聖とのあったかい手が、私の体を優しくさする。

「大丈夫よ、舞さんには千聖がついているからね」
「うん」


――泣いてくれたらいいのに。
本当に弱っているのは私じゃないの、自分だって知ってるくせに。
こんなスッカスカの思いやりじゃなくて、むきだしの心をぶつけて欲しい。
それでも、私を包むその温もりは中途半端に心を癒して、私はまた、千聖から離れることができなくなってしまう。

「・・・千聖は、舞のなんだからね」
「もう、舞さんったら」

束縛を嫌うくせに、私の言葉をやんわり受け入れて、捕らえて離してくれない。
千聖を縛り付けているつもりで、いつも柔らかな鎖で縛り付けられているのは、私。

一体、いつまでこんな不毛なことが続くんだろう。
あと何年そばにいれば、本当に心が通い合うんだろう。


「千聖はずるいね・・・」
「え?」

力を込めて抱きつけば、さっきよりも千聖を強く感じられる。

「仲いいねぇ~、2人。何でも分かり合ってるって感じだね」


少し笑いを含んだ愛理の言葉は、私への同情や千聖への皮肉だったのかもしれない。
でも、そんな言葉は私の心を難なく通過していく。滑稽でも無様でも、私は千聖を選ぶことしかできないのだから。

「千聖は・・・」
「なあに?」
「・・・ううん。なんでもない。別に、どうでもいい。それより、もっと強く抱いて」


重なる心臓の鼓動を全身で感じながら、私は深く目を閉じて、千聖の胸に顔をうずめた。



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