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「また鏡を見つめてるううう~ああどぉしてこんな顔よぉ~」


――は?喧嘩売ってんのかテメエ。

客席の女子達からそんな無言の殺気を感じて、私は他人事ながらぶるっと身震いをした。・・・そうよねそうよね、あんなお人形みたいな顔の女の子がそんな歌詞歌ったって、ただの皮肉にしか聞こえないもんにー。


午後13時15分。

本来ならみやびや鈴木さん、嗣永さんがライブを行っているはずのステージ上で、なぜか熊井ちゃんと梨沙子がミニライブを行っていた。・・・いや、正しくは、梨沙子の歌に熊井ちゃんがウリャオイウリャオイと奇妙な合いの手を入れている。


「ねー・・・Buono!は・・・?」
「何で菅谷さんたちが?」

当然、お客さんたちも困惑して、ざわざわと不穏な空気が広がっていく。

何が何だかさっぱりわからないけど、宇宙人の熊井ちゃんはともかく、みやびのキモヲ・・・熱狂的ファンの梨沙子が、大事なステージを邪魔するはずがない。

私は今日のライブを梨沙子がどれだけ楽しみにしていたのか、よくわかっている。
みやびうちわ(アンオフィ)にみやびハッピ(アンオフィ)、みやびちゃんボイスキーホルダー(密・・・録・・・?)など、パンチの効いたキモ・・・熱いグッズに身を固め、最前を陣取っているその姿は、ドン引きを通り越してもはや神々しいといっても過言ではなかった。
熊井ちゃんにしたって、ステージ係として、千聖お嬢様とかと一緒に夜遅くまで残って頑張っている姿を何度も目にしている。
そんな2人が、ステージジャックなんてことは絶対にありえないのだ。


「でも、だったらなんで・・・」
「何かトラブルがあったね、これは」
「うおっ」


突然、私のわきの下から、佐紀ちゃんがずぼっと頭を覗かせてきた。

「いやー、間に合った。クラスの仕事押しててさー」
「おー、そりゃよかった。・・・ってか、何?トラブルって?みやびたちに、てこと?」
「わかんないけど、じゃなきゃ本人たち出てきてるっしょ。他の2人はともかく、桃子がこんな暴挙を許すはずがないもんね。もぉ軍団とはいえ、熊井ちゃんたちが勝手にこんなことはじめてるんだったら、ギターで殴りかかってるでしょ、桃子の場合」


――てめーら、このやろー、ロックなめてんじゃねーぞコラ!

あのアニメ声で、ドラムセットやキーボードまで持ち上げて暴れまくる嗣永さんを想像して、私はついにやにやしてしまった。
どうも、あの人はキャラ作りがすぎるっていうか・・・新聞部的にはいつかバケの皮はいでやりたいっていうか・・・。

閑話休題。


「じゃあ、その、何らかのトラブルってのの時間稼ぎに、熊井ちゃんたちはこんなことやってるってこと?」
「多分ね」


“あなたが好き~胸が痛い~”
“りーさこ、おいっ!りーさこ、おいっ!”

ステージ上では、相変わらず梨沙子のパワフル歌唱と熊井ちゃんのくまくまボイスが交じり合った歌謡ショーが繰り広げられている。

確かに、梨沙子は歌が上手い。ぶっちゃけ、こういうミニライブで人を集められるだけの才能もあると思う。
だけど、今ここにいるお客さんは、Buono!を見に来ているわけであって・・・。例えるなら、Per○umeのコンサートに行ったら、前座でSuperf○yがマジ熱唱してたって感じだ。うん、ウチうまいこと言った!

「リシャ様!リシャ様!お・し・お・き(ry」

熊井ちゃんは自分の中で超盛り上がっているのか、両手の人差し指を立てて、右に左に天を指差す奇妙なダンスつきで隣の梨沙子にがっつき、梨沙子も熊井ちゃんに手を振り替えしてあげたり、もはや2人の世界だ。・・・なにやってんだこいつら。

「キメェ・・・・いや、てかさ、前座のつもりなら、もっと盛り上がる曲にすればいいのに!チョイスおかしくね?大体、ウリャオイッって感じの曲じゃないじゃん!お客さんとまどってんじゃん」
「おっしゃるとおり。二人とも、自分の世界に走りすぎなんだよ。だから、ね」

佐紀ちゃんはおもむろに、着ていたジャージのファスナーに手をかけた。

「ちょちょちょ、こんなとこで着替えとか・・・・はあぁ!?」


私は思わずのけぞって、佐紀ちゃんを思いっきり指さしてしまった。

ブルーのフリフリキャミに、セクシーなホットパンツ。
それは、昨日のダンス部の衣装だった。

「何それ?私服?佐紀ちゃんそれ私服にしてるの?痴女?露出魔なの?」
「あーうるさいうるさい!私はね、形から入るタイプなんだよっ」
「はへ?」

あっけにとられているうちに、佐紀ちゃんは人垣をかきわけて、ずんずん前に進んでいってしまった。

「おーい・・・」

そのまま、まっすぐステージに上がって、梨沙子と熊井ちゃんの前に仁王立ちになる。

「すとーっぷ!!!」

小柄な身体からは信じられないほど、大きな声で、佐紀ちゃんは2人を制した。

歌唱と、ヲタ芸と、ついでに音楽もピタッと鳴り止む。
やりすぎた、と気づいたんだろう。我に返った梨沙子が、今にも泣きそうになっている。

そんな梨沙子の気持ちをやわらげるかのように、佐紀ちゃんはふっと笑って、梨沙子のことをギュッと抱きしめた。

“頑張ったね”

きっとそんな言葉をかけたんだろう。みるみるうちに表情が和らいでいく。

「さーすっが、キャプ・・・じゃなくて、副会長殿」

・・・余談ですが、この間、熊井ちゃんは楽しそうに一人でくまくましていました。

「・・・さて、Buono!のライブにお越しの皆様、お待たせしております!」

梨沙子から借りたマイクで、佐紀ちゃんが喋りだす。


「ね・・・あれ、ダンス部の・・・」
「ホントだ、でも、なんで?」

生徒のざわざわを打ち消すかのように、佐紀ちゃんがさらに声を張り上げる。

「御清聴願います!・・・えー、開演時間が遅れてしまい、まことに申し訳ありません!」
――そうそう、こういう挨拶をしてから、前座をやるべきでしょうが、もぉ軍団ったら!

「お目汚しとなってしまいますが、準備が整うまで、こちらの演目をご覧ください!・・・いくよっ舞美!」
「ええっ!?」



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