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千聖もう寝てるんじゃないの、とか

今会ってもしょうがないよ、とか

そんな口を挟む間もなく、私は舞美ちゃんのお兄さんが運転するワンボックスカーに詰め込まれた。

仲間を思う舞美の気持ちがどうとか、絆がどうとか、舞美ちゃんがそのまま男になった感じの男の人が喋っている。

時刻は午前3時。まさか千聖の家まで3時間もかからないだろう。本気なのか、この人達は。

「私ね、やっとわかったんだ。」

私のことは着替えさせたくせに、自分はネグリジェのままの舞美ちゃんが語りだした。

「舞が今のちっさーを受け入れられないなら、それはもう仕方ないと思ってた。

仕事の時にちゃんとやってくれるならっいいかって。でもそれは違うよね。

舞ももう現実と向き合っていかないといけなかったんだ。」 

やだ。何言ってるのお姉ちゃん。だって、舞は。
「私やえりが最初に気づいておくべきだった。舞がどれだけしっかりしてたって、まだたったの13歳なのに。

何もかも自分で判断させるなんておかしかった。舞がもし良くない態度でちっさーに接したら、その場で注意するべきだったんだよ。なっきーはちゃんとそうしてたのに、リーダーの私は」

「待って、舞美ちゃん。何で今そんなこというの?っていうか、今私たち何しに行くの?」
「何しにって。」

舞美ちゃんは相変わらず無表情のまま顔を近づけてきた。

「今までのこと、謝りに行くんだよ。」
「・・・・・なんで。やだよ。別に私は悪くない。」
「だって、舞泣いてたじゃない。千聖に会いたい、謝りたいって。」

ああ、それは違うんだよお姉ちゃん。あの千聖に謝りたいんじゃなくて、前の千聖にだよ。
「ちっさーは優しいし、人の思いやりがわかる子だから大丈夫だよ。私もついていってあげるから。
このままじゃ舞のためにも、ちっさーのためにもならない。そうだよ、うんそうだ。」

舞美ちゃんは完全に舞美ワールドに入ってしまって、私の声なんか聞こえてないみたいだ。何だか悲しくなってきた。
「降ろして。私があの千聖に謝ることなんて何もない。舞美ちゃんには関係ないじゃん。それにあれはなっきーが」
「舞。じゃあ何でちっさーは泣いてたの?あんなに雨ふってたのに、何で一人で帰るなんて言ったの?なっきーが全部悪いとでも言うの?」

舞美ちゃんの声はあくまで冷静だったけれど、私を見据えたまま一歩も引かない。
年上だけど、リーダーだけど、どこかで私は舞美ちゃんをなめていたのかもしれない。
でも今の射抜くような視線は、言い逃れや責任の押し付けなんて許さないような迫力がある。
「このままじゃだめなんだよ、舞。」
「降りる、降ろして。舞歩いて帰る。」
「バカなこと言わないの。できるわけないでしょ。舞、逃げないの。」
「もう、やだ何で・・・舞だって、いろいろ考えてるのに。みんなでそうやって舞を責めるんだ。」
もう悔し紛れの逆ギレしかできない。
車はどんどん加速していく。
こんな気持ちのままあの千聖に会って、何をしろっていうんだろう。

「みんな舞よりも、あの千聖を取るんだね。なっきーも、舞美ちゃんも、もう舞の味方じゃないんだ。どうでもよくなっちゃったんだ。」
「それは違うよ。みんな心配してるんだよ、舞とちっさーのこと。どうでもいい人のために、ここまでするわけないじゃないか。」

少しだけ、舞美ちゃんの表情が緩んだ。

「舞、辛いかもしれないけど聞いて。ちっさーはもうずっと今のままかもしれない。治るかもしれないし、そんなことは誰にもわからないよね?
だから、舞も意地張ってないで今のちっさーを受け止めてあげてほしいんだ。」

・・・ああ。どうしよう。もうこの件で人前で泣くのは終わりにしたかったのに。私の目の前はまた霞んできた。
「わ、わかってるもん。」
「うん。」
「あの千聖が、前と同じで舞のこと思いやってくれてることも、見ていてくれてることもわかってる。
千聖が、私にひどいことされても、私の前で泣かないようにしてたのも知ってるよ。
でも舞には前の千聖じゃなきゃだめなの。どうしても会いたいんだよ。あきらめられないの。」
「そっか、うん、わかった、ごめん。ごめんね舞。急すぎたよね。」
舞美ちゃんのぬくもりが体を包む。抱きしめられると、どうしようもなく胸が切なくなって涙が止まらなくなる。


“お兄ちゃんごめん、やっぱり行かない戻って”
“ちょ、おま”


どうやら引き返してくれるらしい。私の背中をさすりながら、舞美ちゃんも少し鼻を啜っていた。

「ごめんね、私暴走して。どうしても今じゃなきゃって思っちゃって。アホなリーダーでごめん。」
「ううん、ありがとう。・・・舞、昨日のことだけはちゃんとあの千聖に謝るから。
明後日レッスンあるでしょ?できたら明日、相談に乗ってほしいな。」
「うん、うん。わかった。明日起きてから、ゆっくり話そう。そうだね、ゆっくりでいいんだ。」
ありがとう、お姉ちゃん。
まだキュートは私の居場所でいいんだね。優しい腕の中で、ゆっくりと目を閉じた。



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