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夜、私はホテルのベッドに寝転がって、ぼんやり天井を眺めていた。
イベントはとてもうまくいった。お嬢様のちっさーが、明るいちっさーとして上手に振舞ってくれたおかげで、大盛況だった。
夕食もとても美味しかったし、今後のいろいろな仕事について、スタッフさんたちと打ち合わせをすることもできた。いい1日だったと思う。


――なのに、なぜ、私は今ため息をついているんだろう。


“舞美さん、あの・・・”

今日のちっさーのいろいろな姿が、頭をよぎる。
やっぱりもっと、話を引き出してあげたほうがよかったんじゃないか。何か打ち明けたいことがあったのかもしれないし、あるいは1日中一緒にいて、私に何か不満を覚えた可能性だってある。

2時間ほど前、ちっさーは私の部屋にシャワーを借りに来た。
ちっさーの部屋のが調子が悪くて・・・といっていたけど、今考えれば、他の目的があったんじゃないだろうか。
うっかり忘れていたけど、ちっさーは最近私とじっくり語り合いたいとしきりに言っていたんだった。もし、そのために、来ていたんだとしたら・・・


「あー・・・もー・・・」

いつもそうだ。
私は誰かの変化や助けを求めるサインに、だいぶ時間が経ってから気づく。
最年長だし、リーダーなんだから、周りを見るように気をつけてはいるんだけれど・・・なかなか、うまくいかない。

明日になれば、舞やなっきぃ、愛理たちとも合流する。優しいみんなと一緒に過ごすことで、きっと、ちっさーの今日のもやもやした気持ちも解消されるだろう。
だけど、いつまでもそんなことでいいんだろうか?
私も、ちっさーが頼ってきてくれるときには、できる限り手助けをしているつもりだけど、もっと自分から積極的に動いていかなければいけないんじゃないだろうか?

「・・・よーし」

だったら、私らしくちっさーをサポートしてあげよう。
“全力リーダー”の名に恥じないような、まっすぐな気持ちで、大好きなちっさーを。


「んー・・・クシュッ」

寒気と、自分のくしゃみの音で、私は目を開けた。
どうやら、知らないうちに眠ってしまっていたらしい。暖房のタイマーは切れて、毛布もブランケットも羽織っていないから、すっかり体が冷えてしまっていた。

「あー・・・やっちゃったぁ」

頭をかきながら、枕元の時計を確認すると、時刻は3時。随分深く寝入っていたみたいだ。
せっかくちっさーに、寝る前に思いついた“あの事”を聞きに行こうと思っていたのに。こんな時間では、もうどうしようもない。

「・・・あれ」

何気なく、手元のケータイに目を落とす。すると、ピンクのランプが点灯して、メールの受信を知らせていた。
ぼんやりしていた頭の中が、一気にシャキッと覚めていく。
はやる気持ちを抑え、アドレス帳から電話番号を選び出して、通話に切り替える。

「もしもし、ちっさー?」

通話状態になったと同時に、ふと思い立って部屋のドアを引く。
――そこに、ちっさーがいた。

「あの・・・あの、ごめん、なさい、私・・・」

一体、いつから待っていてくれたんだろう。
もしかして、私が眠り込んでいる間、ずっと?あぁ、そういえば、さっきのメールは何時ごろ来たものだったんだろう。
私はどれだけの時間、ちっさーを一人ぼっちにしてしまったんだろう・・・

「ごめんね・・・」

泣き出しそうなその顔を見るのが怖くて、自分の情けなさを再認識させられるのが怖くて、私はちっさーを抱えるようにして抱きしめて、部屋のドアを閉めた。


「舞美さん、お体が冷えていらっしゃるわ」
「ちっさーだって。ほっぺが冷たいよ・・・」

指で頬をなぞると、ちっさーはびくんと肩を揺らして、私の目を覗き込んだ。
深くて澄んだ、宝石を思わせるような瞳の色。
どんどんそこに吸い込まれていくような感覚がして、気がつくと、ちっさーの唇と、私の唇がくっついていた。


――りーだー、あんまり千聖とそーゆーことしないで。千聖は自分が何をしているのかわかってないんだから。


なっきぃの咎めるような声が、難しい表情の顔が、頭をよぎる。・・・ごめんね、なっきぃ。でも、私も、自分が何をやってるのか、よくわからないの。
これがちっさーの心を落ち着ける行為なら、今の私にできることで、ちっさーが望んでいるのがこういう事であるなら・・・でも、きっといけないことなんだよね。でも、でも・・・


唇が離れると、ちっさーは私の胸に顔をうずめて、小刻みに体を震わせた。


「・・・映画、怖かった?」

私の問いかけに、驚いた様子でちっさーが顔を上げる。


「・・・やっぱ、そうだったんだ」
「あの・・・ごめんなさい。そんな、子どもみたいなことで、私、舞美さんに迷惑をおかけしたくないのに」
「あはは、そんなのいいよ。あれ、怖かったもんねー。ちょっと、ちっさーのおうちに似た感じだったし、とかいってw」
「ひっ」
「あ、やだごめんね、また余計なこと言った」

ちっさーの背中をぽんぽんと叩いて、二人でベッドに腰掛ける。


「今日ね、映画の後、ちっさーずっと様子がおかしいなって思ってたの。
ほら、私に話したいことがあるってセレンドで言ってたし、そのことかなって・・・でも、そういうことじゃなくて、単にあの映画が怖くて一人でいたくなかったんだよね?
あ!別に、子供っぽいって言ってるんじゃないんだよ!ただ、理由が近くにありすぎて、勝手に考えすぎて見失ってたっていうか」
「うふふ」

傷つけないように、って慌てる私の様子を見て、ちっさーは目を三日月にして笑う。
よかった。ちっさーの不安な気持ち、私の近くにいることで、少しは落ち着いたみたいだ。

「舞美さんのおっしゃる通りです。映画には私からお誘いしたのに、情けない話ですが・・・思っていた以上に怖くて、とても一人ではいられなくて。
遅くまで明日菜と電話をしていたのだけれど、途中で寝てしまったみたいで、もう舞美さんを頼らせていただかないと、私、どうにかなってしまいそうで・・・」
「そっか、うん、大丈夫だよ。ここでゆっくり寝ていっていいからね。私も、ちっさーがいてくれたら嬉しいよ」
「本当に?嬉しい・・・」

肩にかかる、ちっさーの吐息が少し熱くなる。・・・ちっさーが、“あれ”を求めるときの、体の変化。
さっきより濡れたその瞳に、私の顔が映っている。

「舞美さん」
「うん。お布団の中、入ってからね」

ちっさーの指を絡め取って、シーツの上で足が絡まって、やわらかくてあったかい部分がぶつかりあって。・・・なっきぃ、ごめんなさい。ダメなことなのかもしれないけれど、私とちっさーの安眠のために、ね?ね??

「ん・・舞美さん・・・」

電気を全部消して、月明かりの中に、ちっさーの小麦色の肌が、ぼんやりと浮かぶ。
いつかは、こういうことをしなくても、ちっさーが心を委ねてくれるようになるのだろうか。
きっとそのほうがいいのだろうけれど、何となく寂しい気がするのはなんでだろう。

腕の中で、どんどんあったまっていくちっさーに喜びを感じながらも、私の頭の中には、ぼんやりとした焦燥感がいつまでも消えずに残っていた。


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