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「えーりーか、こっちこっち!」

特徴的な、低めで若干ハスキーな声に吸い寄せられるように、私はクリスマスツリーの前へと駆けていった。

「遅くなってごめん!」
「ほんとだよー!罰として、あとでコーヒー奢ってね!・・・とかいってwね、早くいこ!えりかの遅刻で、結構時間ロスしちゃったんだから」

矢継ぎ早にそんなことを言うと、栞菜は肩をすくめて笑った。

今日は、栞菜と久々のデート。
お屋敷や寮にいると、動き回らずとも大抵のものが手に入ってしまうから、こういうちょっとしたお出かけでもかなりテンションが上がってしまう。
栞菜も同じ気持ちみたいで、さっきから目をキラキラさせては私の服の袖をぐいぐいとひっぱってくる。

「まずはねー、6階の雑貨屋さんね!あと、あと、4階の輸入コスメのお店とー」
「もー、張り切りすぎだから!」

そういいつつも、こんな風に無邪気にはしゃぐ姿を見せられるのは悪い気分じゃない。・・・ていうか、嬉しい。
うぬぼれも若干入ってるかもしれないけど、栞菜は私といる時は、安心しきって甘えてくれているような気がしている。
普段は可愛い女の子大好きな暴走キャラみたいに振舞ってるけど、本来栞菜はすごく気づかい屋さんで、繊細な子だと思う。

一人っ子で、しかも途中からの入寮。きっと心細かっただろうに、栞菜は私たちの輪に溶け込んでいこうと、当初は相当気を張っていた。
もう一つの家族みたいになれた今だって、あいかわらず迷ったり悩んだりしているの、私はずっとそばで見ているから知っている。

「なーに?えりか。何でにやにやしてんの?てか、やっぱタピオカのミルクティ飲みたい!ねー買い物の前に、ダメ?」
「しょうがないなあ。栞菜って猫みたい。気まぐれー」
「にゃおーん♪」


だから、私にだけはいつでも本音でぶつかってきてほしいと思う。
栞菜にとって、そうするのに最適な相手が私なら、いつでも受け止めるから。


「・・・でね、お嬢様が寝返り打ったときに、栞菜の腕にあのたゆんたゆんがぷにゅって押し付けられてぇ。思わず組み敷いたらぁ」
「・・・声大きいから」

――ま、これはこれで栞菜の素なんだろうけどね。


タピオカ休憩のあと、訪れた雑貨のフロアは、赤や緑の装飾の中、たくさんの女の子たちでにぎわっていた。
この時期定番のクリスマスソングを聴きながらうろうろしているだけで、わくわくした気分になってくる。


「ねー、これどう?可愛くない?あぁでも予算がなぁ」
「・・・むふふ。いいねいいねー」
「ねー、ちょっとさっきから何笑ってンの?失礼じゃなーい?」
「ごめんごめん、だって久々じゃーん、2人っきりで何かすんの。
寮のみんなといるのもいいけどさ、たまには親友同士二人っていうのも新鮮じゃないですか?有原さーん」

そう、私は今日という日をとても心待ちにしていた。
寮で過ごすのがつまらないってわけじゃもちろんない。でも、終始べったりっていうのは性に合わない。
そんな私たちだから、こんなふうにこっそり逢引き(?)するのが楽しくてたまらないんだろう。・・・って、別に、悪いことしてるわけじゃないんだけどね。


「何だよっ、もう。照れるなぁ~」
「あっこら!やったな!」

脇腹にチョップを入れてくる栞菜に反撃しながら、お隣のショップに移動する。
ピンクフリルのルームウェアや、レースづかいの絹のハンカチ。たくさんの動物さんたちのキラキラマスコットが、私たちを出迎えてくれた。


「おお・・・あんまり、ウチらには縁のない場所だね」
「見てくださいよ、有原さん。このテディベア、ウエディングドレス着て微笑んでますぜ」
「こっちはバレリーナですぜ。熊の分際で」

ふっふっふ。
けっけっけ。


こんな毒のある会話を楽しめるのも、私たちならでは。
ふわふわでもさもさでふりふりなこの空間にいると、どうにもむず痒い気持ちがこみ上げてきてしまう。


「なんかぁ、ここさあ」
「うん」
「「いかにも舞美ゾーンって感じ」」
「ん?呼んだ?」

声を揃えて2人で笑い合ってると、いきなり後ろから肩をぽんぽんと叩かれた。

「うおっ!」
「まま舞美!」
「うん!おつかれー」

そこに立っていたのは、御存知我らが全力生徒会長だった。
学校から直行してきたのか、制服を綺麗に着こなした姿はあいかわらず凛々しくて美しい。身内ながら惚れ惚れしてしまう(口の横にケチャップついてるけどね!)

「珍しいねー、二人もこういう小物、好き?」
「いやっ!えーと、そそそんなことより、舞美は?何か買ったの?」
「んーん、今日あんまりお金なくて。このティーカップ、可愛くない?」

カップ部分をコーンに見立てて、上にアイスクリームの形の蓋が乗っかっているそれを、舞美は心底残念そうに指で撫でた。・・・ほうほう、なるほどね?

ちょうど同じことを考えていたんだろう。ふと目線をあげると、ニヤニヤしながら栞菜がこっちを見ていた。
宜しくお願いしますよ、栞菜さん。
軽くうなずきあって、作戦開始。


「・・・ねー、舞美ちゃーん。私あっちで服見たいなー。一緒に来てー」

舞美の腕をとった演技派栞菜が、妹っぽく甘ったれた声を出す。

「ん?服?いいけど・・・」
「お揃いの買おうよー!いいでしょいいでしょ」

わざとらしいぐらいが舞美にはちょうどいいって、ちゃんとわかってるんだ。賢い奴め。
案の定、舞美は「しょうがないなー」なんていいながら、ほっぺたを綻ばせて栞菜の肩を抱いた。

「えりは?」
「ん?もうちょっと見てるから、先行ってて!」
「らじゃー」

2人の背中が見えなくなったのを確認してから、私はさっきのティーカップを手に取った。
舞美がここにいたのは誤算だったけど、返って良かったのかもしれない。少なくとも、現時点で最高のものを選ぶ事ができたわけだし。

舞美になっきぃ、愛理、舞。それから千聖お嬢様に、明日菜お嬢様。

そう、私と栞菜は、聖夜にみんなへ小さな幸せを贈るべく、買い物に勤しんでいるのである。・・・とりあえず、今一人分の笑顔は保証されたわけだ。
よしよし、出足は好調。私はスキップ交じりに、レジカウンターへ向かった。


「すいませーん。これ、なるべくもさもさでふりふりでてかてかな感じにラッピングお願いしまーす!」



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