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翌朝。
低血圧の体に渇を入れながらお屋敷にたどり着くと、食堂は、朝っぱらから大変な賑わいを見せていた。

「舞!舞は、サンタクロースさんに、何をもらったのかしら?」
「はぁ?ホントちしゃとってお子ちゃまなんだから。サンタとかいなくぁwせdrftgyふじこ」
「おじょじょおじょうさま!一体何をもらったケロ?サンタさん来てよかったですね!」

ウエディングケーキみたいな大きいクリスマスケーキを中心に、キャッキャウフフな女の子たちの声がはじける。
“クリスマスよりも、クリスマスイブが盛り上がるなんておかしいわ!”
そんなお嬢様の主張により、クリスマスパーティーは本日・・・12月25日に行われることとなった。

お庭にはフェイクスノー、室内には北欧の雪景色を映した大きなプロジェクターが備え付けられていて、より一層クリスマスムードは高まっている。

「すごいねー・・・これ、夜中に飾りつけやったんでしょ?イブははしゃいじゃだめってお嬢様が言うから」

ローストビーフを大皿に盛り付けるめぐぅに話しかけると、「ま、仕事ですから♪」なんてやけに楽しそうな声で返してきた。・・・めぐったら、忙しいときのほうが生き生きしてるんだから、たくましい子!

「ちさと、外で雪合戦しようよ!2人きりでね」
「だめだかんな!お嬢様は私とサンタプレイに興じるんだかんな!さあお嬢サンタ、トナカんなに乗っかるかんな!さあ!ばっちこいやー!」
「かんちゃんは黙るケロ!お嬢様は私とゲームで遊ぶんだからっ」

大騒ぎするお嬢様親衛隊に、ニコニコ嬉しそうなお嬢様。
そんな一行を楽しげに見つめながら、グランドピアノでクリスマスソングを弾いてる舞美と愛理。
クリスマスだって、通常営業なみんなを見てると、私のテンションもじょじょに高まっていく。

「えりかさん。えりかさんのところには、サンタさんは?」
「むふふ、もちろん来ましたよ。ほら、これ貰ったの」

私は髪をかきあげて、お父サンタ&お母サンタにもらったダイヤの一粒ピアスを見せた。

「まあ・・・!とても綺麗ね。千聖はね、ブレスレットを貰ったのよ。サンタクロースさんは、毎年、千聖の欲しいものをちゃんとわかってくださるの。お母様にしかお話していないのに、不思議だわ」
「・・・お姉様、それは、だから・・・、もう、本当に、どうしてお姉さまってこうなのかしら」

お嬢様は、黒目がちの瞳をキラキラさせながら、とんでもなく可愛いことを言う。
対照的に、呆れながらも姉の夢を壊さないように・・・って配慮してる明日菜様。さすが、立場逆転姉妹だ。

「明日菜は、新しい手袋とマフラーをいただいたのよね?とても可愛らしいのよ。小さなリボンがついていて・・・」

まるで、自分が貰ったプレゼントの話みたいに、お嬢様は顔をほころばせて私に報告してくれる。
こんな笑顔を見せられたら、そりゃあ全力でサンタドリームを守ってあげたくなってしまうではないか!・・・約1名を除いては。


「だーかーらぁ、ちしゃとぉ。何でサンタさんからの手紙が手書きじゃないかわかんない?それはね筆跡あばばばばちょっと何すんだよ!てか何そのBGM!」

超ドSの笑顔で、お嬢様に何か言いたそうな舞ちゃんを再度はがいじめにするかんなっきぃといい、このタイミングで【魔王】を弾き出したまいみぃあいりん(めぐぅのオペラ調コーラス付)といい、まったく皆さんノリがいいこと!



チキンやケーキを食べて、おっきいモニターでテレビゲームを楽しんだり、ひとしきり騒ぎが収まると、なんとも待ったりした空気が流れ始めた。

「ちさとぉ、眠い?」
「ん・・・」

なかでも、一番はしゃいでたお嬢様なんて、もうまぶたがトロンと落ちてきてしまっている。
パーティーの後の、こういう少し物寂しい雰囲気、嫌いじゃないんだけど・・・もうちょい、まだやり残したことがある。
サンタ帽を深く被りなおすと、私は気配を殺して一旦食堂の外へ出た。

「おいっす」

そこで、一足先に待ってた栞菜と敬礼し合う。

「いい?」
「うん」

余計なことを言わずとも、通じ合えるって本当にらくちん。
二つの大きな袋を片手に、せーのでドアを開ける。


「みなさぁーん!」
「「メリークリスマス・パート2!」」


私たちの掛け声に、いっせいにみんなの視線が集まる。
「クリスマス」という言葉に反応したお嬢様も、寝起きの子犬みたいにのそのそと顔を上げてくれた。

「えりかサンタとぉ」
「かんにゃサンタから、皆様に愛のプレゼントがありまーす!」

「えーっ!」
「なになに?何くれるの?本当に?舞の分もあるの?」

ふーん、なんて流されちゃうかと思ったら、一番最初にパタパタ走ってきたのは、天才少女の舞ちゃんだった。
ぷくぷくほっぺが心なしか紅潮して、普段は醒め気味なその目もキラキラ輝いている。
こんな顔を見せてくれただけでも、もうすでに大成功だったといえよう。


「あ、でもねー、舞が欲しいのはえりかちゃんからのプレゼントだから!栞菜のはいらないからねっ」
「なんだとーこら!せっかくお嬢様と私とのハメ」
「はいはい、うるさいうるさい。舞ちゃんにはー、これ!」

舞ちゃんの大好きな“あれ”がプリントされたラッピング袋を見て、その顔はますます明るくなっていく。

「いいの?本当に、これ。もらっていいの?舞のなの?」
「もちろん」

いつになく興奮した様子の舞ちゃん。
中身は、包装紙と同じ。舞ちゃんの大好きなあのキャラクターの大きな大きなぬいぐるみ。
ギュッと抱きついて、おなかのとこにスリスリを繰り返す舞ちゃんは、普段のおすましした感じは完全に抜けていて・・・予想以上の喜びように、私と栞菜もこっそり背中で手をタッチ。

「これ、栞菜がゲーセンでがんばったんだよ」
「え・・・」
「ちょ、えりかそういうの言わなくていいし!」

どうしてもこれがいい、これなら舞ちゃん喜ぶよって、栞菜がとんでもない金額を費やしてとったぬいぐるみ。
しまいには店員さんも取れるように調節してくれて、ギャラリーの皆様の応援の中、無事キャッチしたという経緯がある。

「あっそ・・・・ふん。」
「あー、ちょっと何そのリアクション!人がせっかくさぁ」
「だから、ありがとうって言ってやったじゃん!」
「は?言ってないし!」

ぎゃーぎゃ-騒ぎ始めたご両名を尻目に、お次は愛理。

「あーいりちゃーん」
「いいの?私にも?嬉しいよーケッケッケ」

ああ、なんて奥ゆかしくて品のある子なんでしょう!
細くて白い指がガサガサと探り当てたのは、ちょっとリアルなカッパのマスコットキーホルダー。

「おぉー!」

ぶっちゃけ、普通にこれをプレゼントされたら戸惑っちゃうだろう代物なんだけど、国内有数のカッパグッズコレクターである愛理さん的にはヒットだったようで・・・いつもの脱力系の笑顔がこちらに向けられる。

「パァー」
「うん」
「パァー」
「よかった、喜んでくれて」
「パァー」
「いや、わかったって!」

愛理は柱の影まで小走りで移動すると、チラッとこっちに顔を覗かせたり、カッパマスコットで妙な芸をしてみせたり、愛理なりのハイテンション(?)を見せ付けてくれた。

――やっぱ、変な子だ!


「さてさて、なき子さん」
「えー!ちょっとごめんねー!ホントいいのにー、違うの、だって私も本当はプレゼントとか考えててー、でも何かちょっと時間なくてー」
「いいよいいよ、ウチと栞菜の自己満なんだし」

気づかい優等生としては、ちょいっと言い訳が入っちゃうのも御愛嬌。
なんだかんだいいつつも、目線は私の手元に向けられている。

「てかー、袋の形見たらなにもらえるのかわかっちゃったし!・・・あーほら!やっぱ!ミカンだー」

10代女子が入るには、かなり敷居の高いフルーツパーラーで選んだ、高級みかんの味比べセット。

「ていうかー、私イコールみかんってー、安直じゃなーい?」
「おやおや?いらないんなら・・・」
「えっ!ちが、いるし!いります!はいごめんなさい調子乗りました」

ヘタレ風紀委員さん、テッパン芸のさっくり謝罪を無難にこなすと、さっそくみかんを1房口に放り込んでくれた。


「お次は・・・舞美!」
「ほんとにー!?すごーい!ありがとう!」
「まだ何も渡してないじゃん!」

みんなの様子を見て、楽しみにしてくれたんだろう。
目があった瞬間、笑顔の舞美が握手を求めてきた。

「どうしよう・・・私、これ欲しかったんだよね!」
「・・・せめて開けてから言ってよ」

もうなんだか、わけわかんない状態になっているらしく、舞美は額に汗かきラッピングを解いていく。

「あれー!?」

舞美へのプレゼントは、言わずもがな。
昨日、デパートで舞美が見入っていた、アイスクリームの形のティーカップ。

「えー!えり、すごくない!?何で私がこれ欲しいってわかったの?超能力?」
「・・・あのねー」

天然と喜びと、そしてまた天然が入り混じって、舞美は妙なテンションでカップを掲げたまま、私の周りをうろうろしだした。・・・うざかわいいぞ、生徒会長!


「・・・さて、お待たせしました、お嬢様」

舞様とイチャついてた(違いましゅ!)栞菜の首根っこを掴んで、私はお嬢様の前に立った。

「まあ・・・私にも、プレゼントをくださるの?」
「当たり前じゃないですかぁんお嬢様はぁーん!むしろこれがメインディッシュっていうかぁ」
「ひどーい!私たちはポテトサラダですか!とかいってw」

ティーカップがよっぽど嬉しかったのか、珍しく舞美から意味不明の野次が飛んできた。


「お嬢様へのプレゼントは、こちらです」

取り出したのは、薄いピンク色の洋封筒、1枚。

「図書券や、商品券かしら?」

目をパチパチさせながら、お嬢様は封筒を飾るリボンに手をかけた。


「・・・・えりかさん、栞菜。・・・あの・・・・」
「いかがですか、お嬢様」

そこに入っていたものを見たお嬢様は、私たちの顔を見つめたまま、固まってしまった。
丸っこい指から、封筒が落ちる。


「ちさと・・・?」

拾い上げた舞ちゃんも、それを目にした途端、大きな目を見開いたまま、「何で・・・」とつぶやく。


【外出許可証】


ゴシック体でそっけなく書かれたチケット、10枚。
執事長さんと、メイド頭さんの調印もしてある、正真正銘ホンモノの外出許可証。
これが、私と栞菜からの、お嬢様へのクリスマスギフト。


「え・・・なんで?マジでなんで?舞、何度もこういうの執事さんたちに要求したのに、全然聞いてくれなかったのに!」
「へへへ、熱意が通じたんじゃないすかね」
「納得いかないんだけど!」


悔しそうな舞ちゃんには申し訳ないけれど、私たちだってかーなーり!頑張ってこれを勝ち取ったわけで。
舞ちゃんのように、理論攻めや高度な作戦なんて立てられないから、とにかくお屋敷のお仕事を手伝いまくって、何度も直談判して。そういう体育会系チックなストレートな交渉の末、勝ち取ったプレゼント。

「いいじゃん、そんな怒らないでよぅ。これ使うときは、舞ちゃんとお嬢様のデートだって・・・あれ?お嬢様?」

私たちがわいわいと騒いでいる間も、お嬢様はあいかわらず硬直したまま、チケットと私たちを見比べ続けていた。


「あの・・・お気に、召さなかった、ですか・・・」

恐る恐る問いかけると、慌てて首を横に振るお嬢様。

「あの・・・本当に?・・・私、外に出てもいいの?」
「ええ」
「皆さんとお買い物に出たり、遊びに出かけることができるの?」
「もちろんです」


お嬢様の小麦色のお顔が、みるみるうちに真っ赤になって、「・・・ウフフ」と小さく笑うと、舞ちゃんの後ろに隠れてしまった。


「ハァハァハァハァ(よかったかんな、お嬢様)」
「お嬢様、これで朝のランニングの距離も伸ばせますね!地平線まで走りましょう!とかいってw」
「まあ、これは実質舞とのデート10回券でしゅけど?」
「ケッケッケ、お嬢様とめぐるカッパグッズツアーもいいなぁ~」
「でもでも、お嬢様!ちゃんといい子にしている時しか使っちゃだめですからね!この風紀委員長がばっちしチェック入れますよ!」


みんなの言葉に、笑ったりはにかんだり。
そんな顔を見れただけでも、えりかサンタと栞菜サンタ的には大満足のクリスマスだった。


「こんなに喜ばせてもらっちゃ、二人へのお返しプレゼントも盛大にしなきゃね!覚悟しとくでしゅ」
「だね!首を洗って待っててよね、サンタさんたち!」

嬉しいこと言ってくれてるのに、なぜかヤンキー口調のなきまいコンビ。

「・・・あっ!」

そして、マイペースに外を眺めていた愛理が小さな声を上げる。


「ねえ、雪降ってきたよ!」
「ほんとだー」

お庭のフェイクファーの上に、大粒の雪がしんしんと舞い落ちていく。

「・・・よーし!クリスマスパーティー2部開始ね!次はカラオケしよっ!もちろん、サンタさんたちメインでねっ」

いつの間に用意したのか、マイクを持った舞美の声に歓声が上がる。

「えり、早く早く!」
「・・・うんっ」

私にとって、最高のもう1つの家族。
人の思いをその数百倍の愛で受け止めてくれる、大切な人たち。
今年も一緒に、クリスマスを過ごせたことに、私は心から感謝した。

「よーし、えりかさん歌っちゃうよ!聞いてください、桜チラリ!」
「って、春の曲じゃーん!!」


――どうやら、クリスマス第2部も楽しく過ごす事ができそうだ。


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