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“舞ちゃーん?千聖ー?”
“いないよ、2人とも”


私達は手を取り合って、岩陰から岩陰へ静かに移動する。
みんなの声がどんどん遠くなっていくのを、不思議な気持ちで聞いていた。

「うふふ」
「ちょっと、笑わないでよ千聖。くふふ」
「舞さんだって。ふふ」



―このまま、逃げちゃおうか。


海岸での撮影が終わった後、海岸で海を眺める千聖の横に腰掛けて、何となくそんなことを言ってみた。

最近、ちょっと嫌なことが続いていた。
学校の友達に仕事のことでからかわれて喧嘩したり、
自信があったテストが最悪な点数だったり、
さっきなんて、栞菜と撮影中にふざけていたら私だけ怒られた。

何かもう、全部めんどくさい気分になっていた。
本気でどこかに逃げたいと思ったわけじゃないけど、ちょっと隠れてみんなを心配させてみたい気持ちにはなっていた。
千聖はちょっと唇を開いて、「逃げる?」と声に出さずに反芻した。小首を傾げたまま、私の言葉の意味を考えているみたいだ。

「うん。何か、疲れた。今なら誰も見てないからさ。どっか行っちゃおう。ね、千聖ぉ。」
両手で千聖の腕を握る。これをすると、千聖は困った顔をして大体なんでも聞いてくれる。
何も言わずに、私のわがままを受け入れて欲しかった。
でも、今はちょっと難しい顔をしているみたいだ。マズッたかな…。
波打ち際では、愛理と栞菜が貝殻を拾っている。
舞美ちゃんとえりかちゃんは、散歩中の犬にちょっかいを出している。
なっきぃは黙々と砂の城を作ってるみたいだ。
このちょっとしたいたずらを決行するには今しかないんだけどな。ダメかな。

千聖はなにも言わない。これ以上私から何を言ってもダメそうだ。
返事を待つ間、千聖の小さい足指がせわしなく砂をいじくるのをただじっと見ていた。


「…逃げましょうか。」

しばらく黙ってから、千聖がいきなり喋り出した。
「えっ」

体育座りの私の肩にあごを乗っけて、千聖がクフフと笑った。
「私も舞さんと、遠くに行きたいわ。」
「いいの?」
「みんなが気づいてしまうから、静かにね。」
シーッと指を唇にくっつけて、いたずらっこみたいに笑う千聖。

静かに立ち上がると、いきなりみんなのいる方向とは逆の方に走り出した。
「待っ」
大声を出さないように気をつけながら、走る背中を追いかける。
前の千聖と身体能力は変わらないらしく、私では追いつくことができない。
時々口元を押さえながら振り向いて、千聖は猫のように目を細めて手招きしてくれる。
お嬢様になってから買ったと言っていた、ラベンダーカラーのマーメイドワンピースがひらひらと綺麗にはためいていた。



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