先日、デカ熊、じゃなかった熊井ちゃん(男子はみんなこう呼んでいた)の名前を思い出したのだけれど、別に彼女とは親しい仲という程のものでは全然無かった訳で。女子連中みたいに「ゆり久し振りだねー。元気?」と連絡できるような間柄でもないのだ、もちろん。
そもそも連絡先知らないし。
うーん・・・他に誰かいないかなあ。
そうだ!クラスの女子とかなら誰か知ってる子とかいるんじゃないだろうか。
そう思って、登校して朝のホームルームまでの時間、後ろの席の女子と雑談してる時にそれとなく聞いてみたんだ。
「あのさ、誰か友達とかでさ、あそこの女子校に通ってる子いない?」
「んー? どうして?」
「あの学園の生徒でさ、よく見かける子がいてさ、その子のことちょっと知りたいんだよ」
「ふーん、よく見かける子ねえ(ニヤニヤ)。あの学園の子ってことは・・・ じゃあ、その子の制服のチェックの色は、赤だった?青だった?」
「チェックの色? えーと、赤だった」
「赤って、ちょおま相手は中学生かよ」
「何か問題でも?」
僕の純粋な気持ちを変な風に誤解されては困るのだ。そこははっきりさせておこうと思った。が、そこにはそれ以上突っ込まれることなしに彼女はこう続けた。
「うん、わたしの中学の同級生で3年のとき急にあの学校に転校しちゃった子がいるよ。彼女元気にしてるかなー」
「本当!? その子に連絡とか出来るかな」
「うん、大丈夫だと思う。最近はメールしてないけど、アドレスなら知ってるし」
「それはありがたい! じゃあさ、ちょっとメールで聞いてもいいかお願いしてみてもらえる?」
「最近の様子も聞いてみたいし、メールしてみようか。久し振りにメールするけど、まあこんな感じでいいかな」
「サンキュー。知り合いの人がいて助かったよ。しかし、その子、中学3年の途中で私立に転校ってそれはまた珍しいね。なんで高校受験じゃなくて、年度途中で転校したの?」
(昼休み)
「彼女からレス来たよ。メール読む限り彼女元気そうで安心したー。あの頃の彼女、転校したくないってちょっと落ち込んでてさー。寮で一人暮らしなんて耐えられないとも言ってたっけ。もうすっかり慣れたみたいでホント良かった。それにしても、彼女変わってないなーw はいはい、返信の内容ね、そんな急かさないでよ。えーと、お探しなのはどんな子ですかー?だって」
「OKしてくれたんだ、良かった。じゃあ今から言うから、その内容をさっそく送ってくれる? えーとね・・・」
(身長は155cmぐらいで、ぷくぷくのほっぺたがとにかくかわいいそうです)
「はい送信っと。でも、とにかくかわいい、だけじゃ分からないでしょ。他に特徴は」
「それなら、えーっと、見た目を表現するならこんな感じかなあ」
(ビジュアルで表現してみると、こんな感じ→(o・ⅴ・)だそうです)
「って、顔文字かよ・・・ じゃあ、芸能人で誰か似てる人とかいる?」
「うーん・・・ そうだなあ、観月ひかる、かな」
(芸能人だと観月ひかるちゃんに似ているそうです)
「アイドルの名前とか知ってるんだね、演歌好きのあんたでも」
「演歌好きとかそういう説明いらないから。あと、その子の名前は、たぶん舞ちゃん」
(名前は舞ちゃんというらしいです)
「てか、その子の名前まで知ってるんなら、あと何を聞きたいの? あとは本人に直接聞けばいいじゃん。面倒なことしないでさ」
「それは無理。緊張するし。相手は名門校の生徒さんなんだぜ。あまりにも不躾すぎる。まずはリサーチかなぁと思って。第一、人脈を頼りに御紹介していただくのはビジネスの基本だと思う」
「ビジネスじゃねーし。ま、後は返信待ちね」
(放課後)
「彼女からメールきたよ。でも残念な結果にね・・・」
そういいながら見せてくれたケイタイの画面にはこういう文章があった。
『ちょっと分からないんだ(x_x;)ごめんなさい』
「気が付いたら教えてくれるってさ。だから気長に待つんだね」
「そっか・・・ まぁ、そんな簡単にたどりつけるわけないよなあ。でも少しふっきれた。そうだよね、自分で何とかしなきゃいけないことだよな。ありがとう。お友達にもお礼伝えておいて」
残念ではあるが何故か少しホッとした気持ちもあった。やはり自分で舞ちゃんまでの道を切り開くのだ。舞ちゃん、待ってて。
「心当たりがないことにしておくかんな。」
屋上の給水塔の陰にたたずむ栞菜。メールのやりとりのあと、フェンスにもたれかかる。
(上手いことくっつけてしまえばライバルが減ったのかもしれないけれど・・・)
(でもそれはないな。お嬢様以外興味なし、本妻気取りのあの舞ちゃんだもん)
思わず笑ってしまったけど、その後ため息がついて出たのはどうしてなんだろう。
「お嬢様と寮生みんながずっと今のままでいられればいいのに。来年も再来年も、いつまでもずっと・・・」
最終更新:2011年10月06日 21:44