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「何も悪いことじゃないんだけどねぇ」
「そう、別に悪いことじゃない」

ライブを率先して盛り上げるのは素晴らしい心がけだし、現にお客さんたちだって喜んでいる。
だからこそ、この行き場のないおかしな感情は、私と千奈美の中でくすぶっていて、排出口のないままガスを溜めているのだ。

バラードはいつの間にか終わり、今度はポップなイントロが流れ、照明も黄色やピンクの可愛らしいものに変化している。

不思議な事に、梨沙子の声援は消えていた。
疲れてしまったのか、バラードで叫んでしまったことを反省して自粛しているのか。その胸の内はわからなかったけれど、そのことも何となく引っかかった。


“みなさぁーん!ちゃんとついてきてますかぁ~???”

私の心を見透かしているかのように、ももの声が響き渡る。・・・おお怖い、常に客席の端から端まで見えているのかお前は。アイドル超人め。

「あー、ももうっぜ。・・・よし。整理しようぜ、茉麻」
「おう」
「だからぁ、何でみやびが張り切ってるとうちらがへこむのかって言うとぉ・・・あ、てかみやびやっぱ上手いよね、歌。うわ、ももの声うっぜ。あいりんちゃんもふわふわしてていいね。てかもものMCうっぜ」
「・・・本当、桃子のこと好きだね君は。じゃなくて、話飛びすぎだから。整理するんでしょ?」

常に関心のある方向へと脱線しまくるのが千奈美の癖だから、こうなると私が軌道修正を図るのがいつものパターン。

「あ、やっぱあとでいいや。ライブ見たいし」
「なんじゃそりゃ」

気まぐれに振り回されつつも、今はステージ見たいっていうんなら仕方ない。ま、もともとそのために私たちはここにいるんだしね。

私もひとまず難しいことを考えるのはやめにして、前方に注意を向けることにした。

それにしても・・・本当に大盛況だな。今日のステージ。
学園内はまだわかるんだけど、よその学校の制服の女子や男子、はたまたちびっ子からおじーちゃんおばーちゃん世代まで、大変な人数のお客さんが体育館を埋め尽くしている。

「あ、ちょっと見て茉麻。ぷぷっ」

大人しくライブを楽しんでいたはずの千奈美が、ぐいぐい腕をひっぱってくる。
指さす方向に目を向けると、そこは舞台袖。

そのカーテンの端っこから、小さな頭がぴょこんと飛び出して、ステージの3人をじーっと見ている。

「・・・千聖お嬢様じゃん」
「だよねー!顔ちっさ!てか、さっきからずっとああやって見てんの。子犬みたい」

まるで、ちびっこが憧れのおもちゃに見入るような熱視線。
お嬢様は恍惚の表情を浮かべて、生首状態のまま微妙に揺れたりハミングして楽しんでいる様子だった。

「・・・ぷっ」
「ひひひ、写真撮って記事に載せてやろ。梨沙子怒るだろーなー。“岡井さん職権乱用だもん!”とかいって」


今年、ステージ係を引き受けたお嬢様が、Buono!に夢中になっているのは知っていた。
生徒会の仕事中も、ふと気づけば楽曲を口ずさんでいる。それについて突っ込めば、嬉しそうにBuono!のうんちくを教えてくれる。
そんなお嬢様だから、今日のステージも裏から全力で楽しむんだろうなとは思ってたけど・・・出てますやん、顔。思いっきり。

「かーわいーなぁ」

そうこうしているうちに、舞ちゃんが一瞬だけ顔を覗かせて、不機嫌そうに千聖お嬢様のお顔にカーテンをかけてしまった。

抵抗するかのように、お嬢様は再び顔を出す。そこに舞ちゃんのカーテン。負けずにお嬢様の顔ズボ。舞カーテン。
しまいには超大きな手がぬーっと現れ、2人の頭をガシッと掴んで引っ込めてしまった。・・・熊井、乙。


「わはは、お嬢様にあんなしつれーなことできるのって、萩原さんと熊井ちゃんぐらいだよね」
「まー、お嬢様Buono!ヲタだから、舞ちゃん的には嫉妬の対象なんだろうねぇ。熊井ちゃんはフリーダム」


お嬢様が夢中になっちゃうのもよくわかる。何ていうか、3人は特別輝いている存在だから。
身内びいきもあるかもしれないけれど、3人ともそこらのアイドルに引けを取らないぐらい可愛くて、歌も上手くて、華やかで。
1部熱狂的支持層(Sぎゃさん)なんて、芸能界デビューだって夢じゃないもん!などと熱弁していたっけ。んま、それはさすがに言いすぎだと思うけど・・・。どうなんだろう。

もちろんパフォーマンスだけでなく、キャラ立ちだって完璧。
観客全員を自分の虜にせんとばかりにアピールを欠かさない桃子に、意識せずとも自分の世界に人を吸い寄せてしまう愛理。
雅は要領がよくて、なおかつ俯瞰で物事を見れるタイプだから、その時々の状況に応じてグループのバランスを・・・


「・・・あっ!」
「え、何、びっくりしたぁ」
「わかった、千奈美。私・・・いや、私たちが感じていた違和感」

突然、頭の中に電光石火のひらめき。

ラスト1曲!の雅の掛け声を耳にキャッチしながらも、私はそっちには気をやらず、千奈美をまっすぐ見つめて肩をガクガクと揺さぶった。

「まーさん、落ち着いてけろ。何いきなり」
「・・・雅が元気に、今日のステージを盛り上げることは何の問題もないんじゃん。うん、いい事!これはいい事!でしょ?」

語りながらチラッと見たステージ上の雅のその表情、その熱視線は、私のその仮説を裏付けているかのようで・・・。

「問題は、その雅のパフォーマンスがどこに向かっているのかっていうこと」
「どこにって」
「雅はさ、何気にいつも俯瞰で物を見るじゃん。個人プレーに走ってるように見えても、誰かが過剰に得したり損したりしないように、調整をかけてくれてる」
「ごめん、まあさん、話が見えないんだけど」
「ステージだってそう。桃と愛理の全然スタンスの違うパフォーマンスを、雅が1歩引いてバランス取る事で辻褄を合わせているの。いや、いたの。去年はね。・・・でも、今年は違う」

そこまで一気に喋ると、私は手元のお茶を一気に飲み干した。


「雅は多分、今日、誰か一人のために歌っている。声援に応えるのも、ファンサービスも、上手くいえないんだけど、その“誰か”に向けてやっているように見える。全然、見えてないの。周り」

♪生まれてきてオメデトー なんて言われたいじゃない?

軽やかにそう歌い上げる雅の視線&指さしは、やっぱり確実に、どこか一点に定まっている。

「・・・男、できたんかな」
「いや、雅は男子にはあんなに愛想よくしないから。もっと厄介な存在のような気がする。つまり」

ね、そうですよね。・・・って、あれ?
一方的に同意を求めようと、視線を向けた最前列。そこに、いるはずのあの子がいなかった。

「・・・梨沙子がいない」
「え?あー、ほんとだ。お便所じゃね?」
「まさか。梨沙子に限って、それはない。雅のステージ中にそんなとこ行くくらいなら、いっそ・・・」
「何それ怖い」
「ごめん、心配だから、見てくる」
もー、なんなの茉麻!という叫びを背に、私は出口へ足を向けた。
雅のことも気がかりだけど、可愛いベビーちゃんの梨沙子も心配でたまらない。

「なんなんだ?今年に限っていろんなことありすぎ・・・」



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